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当時「レジェンダリー・ローズ」の二次創作では、可愛い系キャラクターデザインのアルフレッドは、揺るぎない「受」ポジションのキャラという解釈が一般的であった。
ヨッちゃんと菜摘のサークルは、その王道的作品を発表しているサークルとして、読者たちから支持されてきたのだった。
とはいえ、ひとつのジャンルの中で、同じ内容のものばかりが作られ続けても、いつか飽きがきてしまう。
コメディ、シリアス、オリジナル設定と、手を変え品を変えて作品を作り続けていたものの、どこかマンネリに陥っている空気が漂い始めていた。
そんなとき、それまでの常識を覆す「アルフレッド総攻」を謳いあげるサークルが現れたのだ。
そのサークルは、いつしか菜摘たちと人気を二分する勢力にまで登り詰めつつあり、菜摘たちは焦りを隠すことができなくなってきていた。
ライバルサークルは、二十代前半の大学生を中心としたメンバーで構成されていたが、一番の人気作家はなんと当時十七歳の女子高生であった。
生意気盛りで怖いものなしの彼女は、十歳も年上の菜摘たちに面と向かい、こう言い放つ。
「アルフレッドは確かに見た目が可愛いけど、だからってそのまま『受』にするとか、ヒネリがなさすぎなのよね!」
あの時の屈辱的な思いは、生まれ変わった今となっても忘れることができない……
今も思い出すと、沸々と怒りが湧き出てくるのだが、しかしもし、あのときの女子高生がこの「アルトゥール攻本」の作者だとすると、さすがに複雑な思いに駆られた。
(私があの世界で命を落としたのは二十七歳のとき。それでさえ、死ぬには早すぎる年齢だった)
それより十歳も若かった彼女がこの世界に転生していて、こんな本を書く年齢になっているのだとしたら、自分と同じくらいの時期に、彼女も亡くなっていたということになる。
(あの高校生が、二十歳前に亡くなっていたかも、なんて考えたくはないわね。いくらライバルだったとしても)
そして、改めて自分が死んだ後のあの世界のことに思いを馳せた。
これまで、なるべく考えてこなかったことだ。
(私が知っているのは、私のお葬式のときまで。その後、皆はどうしたんだろう)
会社の人たちは、「レジェンダリー・ローズ」の他のサークルは、そして、ヨッちゃんは……
一番気になっていて、一番思い出すことを避けていたのが、親友ヨッちゃんのことだった。
(うちのファンや他のサークルの人たちからも「プロになれる」、「プロを目指しなよ」って、よく言われてたんだよなー)
いつまでも自分と同人活動を続けるヨッちゃんに、何度か聞いたことがあった。
「私と同人誌なんか作っていてもいいの?」
自分やこのサークルでの活動が、彼女のプロへの道を遠ざけてしまっているのでは、とよく考えたものである。
しかし菜摘が質問するたびに、ヨッちゃんは笑って否定したのだ。
「私は、自分がしたいことをしてるだけだよ。なっちゃんと『レジェンダリー・ローズ』の本を作っているのが、一番楽しいんだから、そんなこと言わないで!」
あの後、彼女はどうしただろう。
サークル活動は止めて、プロになっただろうか。
きっと漫画家として活躍していただろう親友の、その作品を読むことができなかったという心残りが、今も胸を苦しくさせる。
「あーあ、追いつかれないように、気を張って頑張っているんだけどな!」
菜摘、いやメリーローズは今の現実の世界に意識を集中した。
前世の記憶に追いつかれてしまうと、二度と戻れない世界への郷愁に、押しつぶされそうになる。
今の自分が、あの頃の人々にできることは、自分がいなくなった世界でも幸せに過ごしていて欲しいと、祈ることだけだ。
しかし、そんなメランコリックな気分に浸ってはいられない事件が起きた。
それはやがて、今メリーローズが生きている世界そのものを揺るがす、激震となる――




