057-2
「他の人がBLを書いたくらいで、目くじら立てるつもりはないわ。むしろ歓迎よ」
「じゃあ……」
喜んだキンバリーの顔に、メリーローズは人差し指を突き立てた。
「ただし、この内容は納得いかないわ。なんでアルたんが攻なのよ!」
「え?」
指を引っ込めると、再び本に目を落とす。
「これ、この主人公の設定、丸々私の小説のアルバートじゃないの! それが名前だけ変えたところで攻なんかにされたら、許せないわ!」
「……そこ?」
これにはシルヴィアもキンバリーも目が点になる。
「そこは重要よ! シルヴィア、あなたならわかってくれると思っていたのに、がっかりだわ! 受か攻かは、重要な問題よ、いえ、最重要課題よ! ありえない、ありえないわ! 攻のアルたんなんてー!」
興奮したメリーローズは、その本を引き裂きかねない勢いで怒り出した。
「待って! 本を壊さないで! それにもうその作家とも契約は済んでいるから、今更発行を止めるわけにはいかないのよ!」
前世で社会人経験のあるメリーローズは「契約」という言葉の重さを知っている。
既に契約済みなら、簡単には覆せないことも。
「それなら、それなら、わたくし……」
低い、地の底から聞こえるような低ーい声に、キンバリーはゴクリと喉を鳴らした。
メリーローズとは小説一巻ごとの契約なので、「次からモリスン書房では本を出さない」と言われてしまえばそれまでである。
二兎を追う者は一兎をも得ずというが、欲張ってBL小説の新シリーズを出したばかりに、今や看板作家となったメリーローズを失うことになるかも知れないとは、とんだ大失敗だ。
後悔してもしきれないし、モリスン兄妹にもなんと言えばいいのか……。
その思いは、メリーローズの言葉にかき消された。
「こうなったら、わたくし、もっともっとアルたん受けの本を、書いて書いて書きまくりますわ!」
「……え? そっち?」
再びキンバリーとシルヴィアは目が点になる。
「そっちって、どういう意味よ」
「だからその、他の出版社に移籍する……とか?」
恐る恐るキンバリーが言うと、メリーローズは呆れた。
「こんな危ない本、どこの出版社に持っていくのよ。下手に持ち込んだら、お縄になるじゃない」
「ええ、確かに」
「だからわたくしは、アル攻本の存在を皆が忘れてしまうくらい、アルたん受本をたくさん書きまくる所存よ!」
キンバリーは安堵の息を吐くと、笑顔で揉み手をした。
「毎度ありー! 先生、よろしくお願いしゃっす!」




