055 公爵令嬢の悲しみ、波紋を呼ぶ
寮の部屋で、メリーローズは再び悲嘆に暮れていた。
「ううーっうっうっうっ」
「また卵を産むのですか?」
「失礼ね! 前回も今も、卵なんて産んでないし、産まないわよ!」
シルヴィアの突っ込みを受けて、ふかふかの羽根布団を涙で濡らしながら叫ぶ。
「お嬢様……」
「わかってるわよ、シルヴィアが言おうとしていることは! 『ヘザーとアーネストの婚約を祝福して、アーネストとアルたんのことは妄想で補いましょう』って言いたいんでしょう?」
「ご明察! さすがでございます、お嬢様」
背中をよしよしと撫でながら、シルヴィアは軽く息をつく。
(まあでも今回の二人は、あまり祝福のムードではなかったけれど……)
今を遡ること数時間前……
例のテーラーの試着室では、アーネストによる突然のプロポーズという爆弾が落とされていた。
「どうか僕と結婚してください」
ただし求婚されているヘザーの反応はいまひとつだ。
「ええー、どうしてそうなるんですか?」
「ずばり、君は僕の理想だからだ」
「はあ……」
「君はどうなんだ? 僕は君の……理想とまでいかなくても、少しは好きになってくれる要素はないか?」
「そうですね……」
学院では美形男子として女子学生に人気のアーネストからのプロポーズも、ヘザーにとってはさほど嬉しいものではないらしい。
「わたくしにも、結婚相手に求める条件があります」
「何なんだ、言ってくれ」
「まず、わたくしは実家の爵位を継がなければいけないので、ご自分の家を継ぐ必要のある嫡男の方ではダメです」
「クリアだ! 僕は次男坊だ」
「それから、わたくしのような容姿の持ち主でもいいと言ってくれる方」
「君の容姿が好きだ! クリア!」
「それと……わたくしの実家は貧乏なので、お金を持っている方、もしくは稼ぐ力のある方でないと……」
「うちは子爵家だが、それなりに資産はある。結納金をはずもう!」
「商談成立! このプロポーズ、お受けしましょう」
「やったー!」
このやりとりを、メリーローズは呆然と見ていた。
(こんな、ロマンチックさの欠片もないプロポーズで、アルたんのダーリン候補が奪われていくなんて……)
しかも、この結果を招いたのは自分自身。
ヘザーの美しさをアーネストに見せつけようとした、自分の行動が招いてしまったという事実が、メリーローズを更に打ちのめす。
まだ二人の間だけの約束ではあるが、婚約を成立させたアーネストはヘザーの手を取り皆の前に意気揚々とエスコートした。




