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054-2

「お、お嬢さん、不躾ながら話しかけてもよろしいでしょうか……?」


 戸惑いを隠せないままアーネストが美少女に話しかけると、少女の口からなぜかヘザーの声が聞こえてくるではないか。


「何、改まっているんですか? アーネスト先輩」


 不信感も相俟(あいま)って、ヘザーの声はいつも以上に低くなっている。


「あ……え……ま……?」


 状況から、もしかしたらとは頭のどこかに浮かんではいた。

 浮かんではいたが、到底事実と認識することができず、その可能性を無意識に頭から消滅させていた。

 その、認めたくない事実が今、現実となってアーネストに襲い掛かってくる。



「はっ…………はああああうおおおおおおっ?」



 パニックを起こして雄たけびをあげるアーネストに、ヘザーは眉間にしわを寄せながら首を傾げ、メリーローズは満足の笑みを浮かべた。



「おっ……お前っ……じゃない、えっと……あなたが、あの、ヘザー・アシュビー?」


「はい、そうですが」


「本当の、本当に?」


「嘘を言ってどうするんですか」


「確かに…………」


 その後もアーネストは「いやしかし」だの「まさかこんな」だのとブツブツと独り言を呟いては頭を振り続けた。


 混乱するアーネストを後ろから眺め、「……勝った!」とメリーローズはほくそ笑む。

 そんなメリーローズを後ろから眺め、(また、しょーもないことを)とシルヴィアは溜息をつく。



「さ、ではヘザー・アシュビー伯爵令嬢のこの美しい姿を、皆に披露しに参りましょうか!」


 メリーローズの宣言にアーネストが慌てた。


「え? 皆に? 皆に見せてしまうのですか?」


「当然でしょう! 皆さんお待ちかねですわよう。さ、さ。ヘザー」


 しかし当のヘザーはモジモジとはにかむ。


「で、でも、わたくしのドレス姿なんて、変じゃありませんか?」


「変なんかじゃない! いえ、ありません!」


 食い気味に大きくアーネストが否定した。


「あなたは……美しい。大変、美しい。こんな美貌を隠していたなんて、あなたは何と慎ましやかなレディーなのでしょう」


「メリーローズ様。アーネスト先輩が壊れました」


「壊れていません!」


「でなければ、わたくしをかか揶揄(からか)っているのですね」


「揶揄ってなどいません!」


 アーネストはメリーローズに向き直る。


「お願いです。ヘザー嬢の姿を皆に披露するのを、少し待っていただけませんでしょうか?」


「え……ええ、少しくらいなら」


 このとき、思わず許可してしまったことを、メリーローズはこの後しばらく後悔することになるのだった。



 アーネストは優雅な仕草でヘザーの前に跪き、その手を取り真剣なまなざしを向ける。


「ヘザー・アシュビー嬢。僕、いえ、私と結婚してください」


「はあ?」


「はああーっ?」


 突然のプロポーズに、ヘザーと、当事者でもないのにメリーローズが驚きの声をあげた。


「先輩、何を言っているんですか」


「そうよそうよ! 何を言っているのよ!」


「何と言われましても、僕の理想の女性を見つけてしまいましたので、他の男に取られる前に約束を取りつけようかと」


 それを聞いてメリーローズは、先ほどのヘザーとアーネストの会話を思い出した。


『それなりの階級(クラス)出身で、教養があり、見目麗しく……』


 アーネストの理想の女性像だ。


①それなりの階級(クラス)出身

 ヘザーは伯爵家令嬢、つまりそれなりの身分がある。


②教養があり

 生徒会の正式メンバーに入れるほどではないが、学年で十位以内に入る成績なので、これも充分クリア。


 そして第三の条件……

③見目麗しく

 今日、見目麗しくなった。今、クリアした。


「ああああああ!」


「メリーローズ嬢、うるさいですよ。静かにしてください」


 アーネストを罠にはめたつもりで、自分が望まない結果を導き出してしまうとは……


(不覚ーーーー!)


 のたうち回るメリーローズを見ながら、シルヴィアが溜息をついた。


(また一人、アルたんのダーリン候補が女性に恋してしまいましたね)

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