054 公爵令嬢、のたうち回る
メリーローズはここに来る途中での、ヘザーとアーネストの会話を思い出していた。
「ヘザー嬢も女性の端くれなら、もう少しおしゃれをしようと努力すべきだぞ」
「なぜ、そんなことを決めつけられなくちゃいけないんですか?」
「そりゃあ、男というものは美しい女性を求めるものだからな」
ヘザーにおしゃれを勧めつつも、アーネストがヘザーの容姿を評価していないことはあきらかで、本人にもそれは伝わっている。
「はあ。では聞きますが、アーネスト先輩が理想とする女性ってどういうタイプなのでしょうか?」
「そうだな……」
少し考えた後、アーネストは自信ありげに答えた。
「それなりの階級出身で、教養があり、見目麗しく……」
「ふっ……浅い」
途端にヘザーからのダメ出しが入る。
「あ、浅いだと?」
「お子様並みの恋愛観ですね。くすす」
「なんだ、その変な笑い方は!」
「くすす、くすす」
会話はほぼヘザーによるアーネストへの突っ込みというか、揶揄いで占められていたが、アーネストの言葉の中にはいつもヘザーを馬鹿にしているニュアンスがあったので、むしろ大人しく引っ込んでいないヘザーに内心感心していたメリーローズだった。
でももしかしたら、表に出していないだけでヘザーもまた傷ついていたのではないか。
ルッキズムによる他者への攻撃は、低レベルではあるけれど当人にとっては心を深く抉ることがある。
さきほどの、化粧を拒み続けたヘザーの言葉から、長年蓄積した容姿へのコンプレックスの根深さを感じ取ることができたくらいだ。
(見ていなさい、アーネスト。反撃開始よ)
「シルヴィア、アーネスト様を呼んできてくれないかしら?」
メイクの後、髪を結いあげて準備を整え終わると、優雅な笑みを浮かべてメリーローズが言った。
「あ、はい……」
なぜ皆がいるところにヘザーを連れて行かずに、アーネストだけを呼びつけるのか、シルヴィアには意図がわからない。
が、とりあえずメリーローズの指示通り、アーネストにだけ試着室に来るよう耳打ちした。
「メリーローズ嬢、どうかしましたか?」
何が自分を待ち受けているのか想像も及ばないまま、アーネストは無防備にやってきた。
「いいええ、準備が整いましたので、今回ドレスをご提供くださったアーネスト様に、いち早くヘザーの姿をお見せしようと思いまして……」
おほほ……と笑いつつ、メリーローズが後ろに移動する。
すると彼女の陰に隠れていた小柄な姿が、真っ直ぐにアーネストの目の中に飛び込んできた。
ヘザーと同じ赤い髪。
ヘザーと同じ低めの身長。
しかしそこには瓶底厚レンズ眼鏡の、生意気で不細工……いや、容姿に不自由な少女の姿はなく、代わりに大きな瞳を不安げに揺らした美少女がいた。
彼女は茶色のつややかなグロリア地に、膨らんだ袖のドレスを纏っている。
以前ヘザーのドレスを作る際にメリーローズがアドバイスしたもの、そのままだ。
そして、ヘザーはいない。
アーネストがいつも、心の中で密かにこき下ろしていたヘザーはどこにもいない……




