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「それで再度確認なんですが、モリスン兄妹にはまだお嬢様がマリーゴールド・リックナウだということは、バレていないんですよね?」
「ええ、全然」
シルヴィアは胸をなでおろし、話題は本題である次巻の内容に移っていった。
「とりあえず、次の巻では、アルバートの弟のフレドリックが、教師のルドルフといい感じになるのね」
「ええ。傷ついた小鳥のように震えるフレドリックを、武術に長けていて体のがっしりとしたルドルフが、綿でくるむようにそっと慈しむの。どう? 思い浮かべるだけで萌えるでしょう?」
「ええ、萌えるわあ……」
うっとりした表情のメリーローズとキンバリーが、手に手を取っていつかの夜のようなダンスを踊りかけたので、シルヴィアは全力で止めた。
「場所をお考えください! こんな人目のあるところで踊り出すなんて、はしたのうございます!」
心配性のシルヴィアをよそに、暢気な二人はテヘペロでことを済ます。
「じゃ、次に会うのは一か月後かしら。それまでにどのくらい書けそう?」
「そうね、できれば半分くらいは終わらせたいと思っているわ」
「いいわ、半分ね。リックナウ先生はいつもハイペースよね。おかげさまで我が社の売り上げもグングン上昇中よ!」
「そういえば、モリスン書房に行ったときも、丁度私の本を買いに来たお客さんと遭遇したわ。初めて読者を直に見て、嬉しかったあ」
「そうでしょ、そうでしょ」
「あ、でも……」
メリーローズは声を落とす。
「実は、そのお客さん、アルフレッド様の知人だったらしいの」
「え?」
これを聞いて、急にキンバリーは眉間に皺を寄せた。
「そのお客様の名前、わかりますか?」
「えーっと、何て言ったっけ。……デイヴィッドの妹の……何とかネヴィル。……そう! ジャクリーン・ネヴィルっていう人よ」
「ジャクリーン・ネヴィル様ですね。お待ちください、ちょっとメモします」
「名前を聞いて、どうするのですか?」
メリーローズが首を傾げる。
「その方は多分、しばらく店に顔を出すことができないでしょう。BL本を購入している現場を、王子殿下に目撃されたわけですから」
「確かに。『自分はジャクリーンではありません』って叫んで、逃げてしまってたわ」
「その方のために、『ルートX』を使います。せっかくの顧客は、手放さないようにしないとね」
それを聞いて、シルヴィアは気づいた。
(『ルートX』とは、あの学院の中にいる誰かのことを指しているのか!)
それならあの学院中、あちこちで邪気が漂っていた理由もわかる。
学院内でBL本の商売をしているなら、小説を読んで萌えた読者が、邪気を放出していてもおかしくない。
(ということは、ヘザー嬢かミュリエル嬢のどちらかが、BL本の読者ということなのかも)
魔法学の授業のとき、旧校舎の教室で感じた邪気のことを思い出していた。




