052 公爵令嬢のメイド、ルートXの正体に近づく
「ええっ! アルフレッド様をモリスン書房に連れていったんですか?」
「しっ。シルヴィア、声が大きいわよ」
次の休日、キンバリーと次巻の打合せのために待ち合わせたカフェでの会話である。
「いやだって、よくもそんな危ない橋を、自分から渡ろうとしましたね?」
「でしょう? 私も彼らから報告を聞いて、びっくりしたのよ」
キンバリーが、あはは……、と笑いながら同意する。
が、シルヴィアに比べ、さほど危機感が感じられない。
「だって、アルフレッド様に『行きたいところはあるかい?』って聞かれたから、素直に答えただけよ」
メリーローズは何でもないことのように言うと、ウェイトレスにラズベリージャムのサンドイッチケーキを注文した。
「しかし、ご自分が書かれた発禁本が置いてある本屋ですよ? バレたらどうするつもりなんですか!」
「バレない、バレない」
「ちょっとヤバかったけど!」
メリーローズの言葉で、シルヴィアは沈静化するどころか再び興奮して詰め寄る。
「ヤバかったって、何があったんですか!」
「もう、シルヴィアったら、声が大きいわよ」
「そうそう、貴族のお嬢様と私みたいな蓮っ葉な女がコソコソ会っているところを、あまり他人に見られたくないでしょう?」
キンバリーは暑い季節に向けてなのか、胸元が大きく空いた服を着ている。
派手な赤い髪を緩く巻いて無造作に結い上げた髪型も、セクシーな大人の女という感じだ。
(いや、最初に会ったときはもっと寒い季節だったが、やはり胸の開いたドレスだったな)
細かいことまで憶えている、無駄に記憶力のいい女、シルヴィアであった。
「お嬢様と会うときは、もう少し品のある恰好をしてきてくれませんかね?」
シルヴィアの苦情も、大人のキンバリーは軽くいなす。
「だあーって、お上品なドレスなんて持ってないもーん」
ただし喋り方は大人らしくない。
「いいじゃない。人は好きな服を着る自由があってもいいと思うわ」
「話がわかるじゃない!」
「そしてわたくしにも『好きな話を書く自由』があるわ!」
「その通り!」
手と手を合わせて幸せそうなメリーローズとキンバリーに、頭痛を禁じ得ないシルヴィアであった。
「まあ、確かにモリスン兄妹もアルフレッド殿下のご来店には、かなりビビッていたみたい」
「そうね。隣にいたわたくしのことは、印象に薄かったのではないかしら」
「いえ、噂で聞いていたのとは、イメージが違うと言っていたから、ちゃんと印象には残っていたみたいよ」
「やだ、爪痕残しちゃった」
キンバリーの言葉に、メリーローズが嬉しそうに両頬を手で押さえて顔を左右にねじる。
この二人、嚙み合っているのか、いないのか。
「それで、イメージと違うというのは、どういう意味なのでしょう?」
シルヴィアの問いかけに、キンバリーは率直に答える。
「ああ、アルフレッド殿下の婚約者のランズダウン公爵令嬢と言えば、真面目で融通がきかなくて、四角四面で厳しい方だと聞いていたけど、そんなことはなかった……って言っていたわ」
「あはは……、その調子じゃまさか、そのランズダウン家令嬢がエロいBL小説書いているなんて、思いもよらないでしょうね!」
「まったくだわ!」
あはは……うふふ……




