051 公爵令嬢の婚約者、ヤバい本とニアミスする
メリーローズが希望していた本屋は、メインストリートから外れ、かなり奥まったところにあった。
「へえ、こんなところがあるんだね」
箱入り王子様であるアルフレッドは、こんな裏道に来ることはない。
「君はよくこういう所に来るの?」
「いいえ、住所は聞いておりましたけど、お店に入るのは初めてですわ」
一応店の前に来たことはある。が、入ったことはない。
微妙に嘘をつかないように、メリーローズは言葉を選んで答えた。
「いらっしゃいませ。……『愛の言葉』をお探しですか?」
店に入ると、三十代半ばと思われる地味……いや、落ち着いた雰囲気の男性が店番をしていた。
「愛の言葉?」
聞き返すアルフレッドを見て、その店番がギョッとする。
(あ、第二王子が来たってわかっちゃったかしら)
この国では十年ほど前に写真機が発明され、数年前くらいから新聞には、挿絵ではなく写真を載せるのが普通になっていた。
王族の動向なども報道されているので、アルフレッドの容姿も一般市民に広く知られている。
普段から王族が出入るする店なら、店員がこんなにあからさまな反応はせず、気づかなかった振りをするものだが、この店に王族が来たのは多分初めてなのだろう。
(しかも、あまり知られたくない商品を扱っていますものね。驚かせて申し訳ございませんわ)
メリーローズは心のなかで詫びを入れた。
思うに、彼がモリスン兄妹の兄、「ウォルター・モリスン」だろう。
以前キンバリーから聞いた、モリスン兄妹のプロフィールと照らし合わせる。
(そして多分『愛の言葉』は、BL本を買いに来た客かどうかを確認する『合言葉』を聞いてきたのでしょうね)
メリーローズは知らん顔で答えた。
「『愛の言葉』……? 特に愛の詩集とかは求めておりませんわ。それより、こちらでは他のお店では扱っていない、変わった本を置いているとお聞きしたのですけど、何かお薦めの本はございますかしら?」
その返事を聞いて、ウォルターはあからさまにホッとした顔で「そうですねー」と本棚を物色する。
そこに、新しい客が店に入ってきた。
うら若い、メリーローズと同い年くらいの少女だ。
ウォルターが本棚から目を離し、その客に話しかける。
「『愛の言葉』をお探しですか?」
「はい。『バラは愛を語ります』わ」
その返事を聞いて、ウォルターが店の奥に声を掛けた。
「セルマ、案内を頼む」
店の奥から二十代後半くらい――キンバリーと同じくらい――の女性が顔を出す。
「『バラの国』を希望のお客様だ」
「かしこまり! お客様、こちらへ」
セルマと呼ばれた女性はチャキチャキと答え、少女を店の奥の小部屋のように区切られた場所へと案内した。




