050-2
(まだ成長するかも知れないことを見越して、制服を大きめに作るのは、前世の世界でもあるあるだったわね)
ダボッとした服を着ていたので、胸の大きさに気がつかなかったようである。
(そういえば、先日の私服もダボダボした服だったわね)
これはちょっと面白くなってきた、と悪戯心が目を覚ます。
「それで、デザインの方はいかがいたしましょうか」
「そうね、胸を強調したものにしましょう」
店員の質問に、にっこり優雅に微笑んで答えた。
「お嬢様?」
「胸の大きさがわかりやすくなるよう、ハイウエストで一度絞って、ウエストの細さも強調できるよう、体のラインをしっかり見せましょう」
「なるほど、大人っぽいデザインをご希望ですね」
店員がメモをしている横で、シルヴィアが慌てていた。
「セクシーな大人っぽいドレスなんて、ヘザーに似合うと思うんですか?」
「少なくとも、サイズで見る限りは大丈夫そうよお? ……あ、胸元は大きく開けてね」
「ええー?」
「それで、同じ布地でマントを作ってね。マントは首のところで留めるようにして、胸元はそのまま見えるようにするの、胸あきスタイルで絶対領域を作るのよ!」
「絶対領域?」
「申し訳ございません。それは何でしょうか?」
「えっ?……あーっと、絶対的にセクシーに見える領域、かしら? おほほ」
つい前世のオタク用語が飛び出し、シルヴィアと店員から質問が来てしまい、慌てるメリーローズである。
* * *
帰り道、アーネストがメリーローズに礼を述べた。
「今日は本当にありがとうございました。でき上がったドレスをヘザーが喜んでくれるといいのですが」
「でき上がりが楽しみですわ。おほほ……」
無責任に笑うメリーローズに「あちゃー」となるシルヴィアである。
(知りませんよー、どんなことになっても)
店を出て少し歩くと、アーネストが少々わざとらしくメリーローズに声を掛けた。
「お、いけない。小用があるのを思い出したぞ」
「まあ、そうなのですか。よろしければ、おつき合いしますわよ。ねえ? アルフレッド様」
その言葉に、アルフレッドの口元が一瞬ヒクついた。
「いやいや! これ以上おつき合い願うのは、申し訳ございませんので、我々はこれで失礼いたします!」
「え?」
「我々?」
確認する間もあらばこそ、アーネストはシルヴィアの手を引いて行ってしまった。
「せわしない奴だね」
「そうですわね……?」
アーネストが退場するのはともかく、なぜシルヴィアまで連れていかれるのか、わけがわからないといったメリーローズの横で、アルフレッドがホッとしている。
実のところ生徒会メンバーの男子学生で、アルフレッドとメリーローズのデートを決行すべく、作戦が練られていたのであった。
「じゃあ、残された僕たちで、この後どこか行かないかい?」
「まあ、うれしいですわ!」
快い返事をもらえて、内心喜んだアルフレッドは、腕を組みやすいよう、そっとメリーローズに肘を曲げて差し出す。
気づいてもらえれば、彼女がそこに手を差し入れて、恋人同士らしく腕を組んで歩けるわけだ……が、メリーローズは気づかない。まったく気づかない。
悲しい気持ちで肘を引っ込めるアルバートは、しかし挫けずにメリーローズに問いかけた。
「どこか行きたいところはない?」
このときアルフレッドの脳内にあった行先候補として、女性客に人気のカフェとか、アクセサリー店とか、そういったものを想定していた。
しかし、メリーローズの口から出たのは……
「わたくし、行ってみたい本屋がございますの」
「……本……屋……?」
「ええ! ちょっと変わった本を置いているお店があると、聞きましたのよ」
「ふ……ふーん」
アルフレッドが立てていた、メリーローズとカフェに行って彼女が好みのスイーツを注文し、目をキラキラさせながら食べるのを眺める計画は流れた。
またアクセサリーの店に行き、正式なものとは言わないが、指輪の一つも買って彼女の指にそっと嵌め、結婚式気分を味わうという計画も崩れた。
……しかし、まあいいだろう。
本を欲しがるということは、メリーローズは知的好奇心の強い才女なのだ。二番目とはいえ、この国の王子である自分に相応しい女性ということだ。
少し苦しいが、アルフレッドはそう自分を納得させ、その本屋についていくことにする。




