050 公爵令嬢、本屋行きを所望する
一通り漫才を終え、湯あみをして着替えも終えた後、再び今日起きた事の中で知った疑問について、二人で相談していた。
「『奇跡のバラ』を咲かせて、女王陛下たちは何をされようとしているのでしょうね」
「うーん……。何だったのか全然思い出せないわ」
「そもそも、ミュリエル嬢が奇跡を起こすことが出来るなら、わざわざバラを咲かせなくても、直接頼めばいいのに、とも思います」
「確かに!」
「ミュリエル嬢では起こせないような、大きい奇跡なのでしょうか」
「わたくしがもっとちゃんと思い出せたらなあ。……まあでも」
「なんでしょう?」
メリーローズの顔に塗るパックの用意をしながら、シルヴィアが聞き返す。
パックはメリーローズが育てたバラを混ぜて、いい香りがしていた。
「ほら、ゲームとは色々設定が変わっていたりするから、思い出せたとしても、それと本当に同じとは限らないわ!」
「それはつまり、思い出せなくても自分に責任はないと、こう仰りたいので?」
「うふーん?」
顔からバラの香りをさせた公爵令嬢は、いつものように妙な踊りをおどりだした。
(ごまかしきれていませんけど?)
踊るメリーローズの両肩を抱き、シルヴィアはニヤリと笑う。
「変化していたら、その時はその時。まずは思い出していただきます」
「ええーっ! 無理よう。思い出そうとはしてるもーん! それでも思い出せないんだもーん!」
漫才からコントにカテゴリーを変えた主従のドタバタは、深夜にまで及んだという。
* * *
「奇跡のバラ」云々はともかくとして、学園生活は順調に過ぎてゆく。
先日、皆で大聖堂に出掛けた日に、アーネストがヘザーにドレスをプレゼントするという話は、そのアドバイスをしたメリーローズを再び巻き込んだ。
「メリーローズ嬢、申し訳ないのですが、女性のドレスを発注したことがないので、ついてきていただけないでしょうか?」
女性の扱いに手慣れていそうなアーネストが、意外にもそう言ってモジモジとお願いをしたきたのだ。
とりあえずドレスを作るためのサイズなどは、ヘザーからもらったそうなのだが、それだけではドレスは出来上がらない。
「そう……ですわね。デザインもどうすればいいか、わからなそうですし、言い出したわたくしが、責任をもちますわ」
という話になったのだが、なぜかそこにアルフレッドまでついてきた。
「僕の婚約者が、気心知れた相手とはいえ、男性と二人で出かけるのはいかがかと思ってね」
「二人じゃありませんわ。シルヴィアも一緒ですわよ?」
ニブいメリーローズはそう答えたが、シルヴィアは半眼になってそんな主人を眺めた。
(ジェラシーに決まっているじゃないですか! まったく)
ヘザーのドレスを仕立ててもらうのは、王都でも指折りの仕立て屋だ。
元々メリーローズ行きつけの店であることと、例の話が出てすぐに予約を取ったので、比較的早く受けつけてもらえたが、普段ならそれだけでも二、三か月は待たされる。
それだけ、腕のいい店である証でもあった。
「ヘザーのサイズ表をいただけるかしら?」
するとアーネストは封筒に入ったメモ用紙を渡してきた。
今日は用事があるというヘザーは、自分の体のサイズを紙に書いてアーネストに渡していたのだが、アーネストの方でそれを見てはいけないと考え、封筒に入れておいたということだった。
「ヘザー嬢とはいえ、男の自分が女性のサイズを見るわけにはいかないのでね」
「まあ、さすが紳士でいらっしゃるのね」
にっこりと微笑みながらも、少しひっかかる。
(ヘザー嬢、とはいえ……ねえ)
子爵家の次男であるアーネストから見て、伯爵家令嬢のヘザーは身分が上だとは認めたが、女性としてはかなり見くびっているということがわかる言葉だ。
受け流しつつ、店員と一緒にそのサイズ表を見たとき、意外な印象を受けた。
(あの子、子供体型かと思っていたんだけど)
全体的にはほっそりしているのだが、バストサイズが思った以上に大きい。
「けっこうグラマーな方のようですね」
普段から女性のサイズを見慣れている店員もそう頷く。
いつものヘザーの姿を思い浮かべて、なぜ印象が違うのかがなんとなくわかった。
学院の制服は、彼女に少し大きめだったのだ。




