049-2
「ううーっうっうっうっ」
「卵でも産む準備ですか?」
「失礼ね! 泣いているのよ!」
寮の自室に戻ったメリーローズは、ミュリエルのフィルバートルートがほぼ確定したことを、この調子でずっと嘆いている。
「もう、お諦めくださいませ。よろしいじゃないですか。なんだかんだと、お似合いの二人ですよ」
シルヴィアとしては、むしろミュリエルがアルフレッドと結ばれるルートにならないことにホッとしていたのだ。
「でもお! 言ったでしょう? フィルフィルは貴重な年下枠だったのよ! 平民にして年下! ダブルの意味で、下剋上! 下剋上からしか得られない栄養が、そこにはあったのよおおおおう」
「……『下剋上』とは、なんぞや?」
「あ、そうか。この世界にはない言葉なのね。身分が低い者が高い者を倒してのし上がることを言うの。これを腐界隈では、年上受け×年下攻めとか、上司受け×部下攻めのときに使うのよ」
「ああー、つまり『水剋火』とか、『火剋金』の『下上』バージョンですね」
シルヴィア――腐女子用語を、五行相剋 になぞらえて理解する女。
「お嬢様のお嘆きはよくわかりましたわからないけど」
「どっちよ?(しくしく)」
「ミュリエル殿とフィルバート殿の恋路を、ここは笑って祝福しましょう。それとも……」
「それとも?(しくしく)」
「お嬢様は、現実に男同士のカップリングが成立しないと、妄想できないような、そんな半端な腐女子でいらっしゃるのでしょうか?」
「……ハッ!」
「埋められぬ現実の穴を、妄想で埋める。それが腐女子道だと仰られていたではありませんか」
「……確かにそうよ、その通り」
シルヴィアは右手でベッドに突っ伏していたメリーローズの肩を抱き、左手で空中を指さした。
「妄想です。お嬢様の心、そして頭の中を、妄想で埋め尽くすのです。あのBLの星に向かって!」
我ながら言っている意味がよくわからない、とシルヴィアは思ったが、メリーローズは勝手に理解してくれた。
「わかったわ。妄想よ。妄想でアルたんに想いを寄せるフィルフィルの物語を完結させるのよ!」
「その調子です。お嬢様!」
こうして今日もメリーローズの部屋では、腐女子漫才が繰り広げられるのであった。




