実技試験開始
アナウンスの後、一人の男性が現れた。右肩から腰にかけてロープを巻いている。おそらく試験管だろう。
「それでは、入学試験、実技の内容について話す。今回の試験は、ヴィランの討伐またはゴールへの到達を基本として、採点方式で行う。ヒーローらしい行いをすれば評価は高く、逆に相応しくない行動をすれば下げられる。説明は以上だ。ヴィランはロボットだから相手の怪我の心配などはしなくていい。では、健闘を祈る。」
男が一通り話終わると、試験会場につづく門が開いた。
「うわー…広いな…」
ヒーローの育成と言うだけもあり、敷地はかなり広い。目で見ただけでは端が見えない。
「なんか緊張するね、創人くん。」
佐々木さんは言った。
「うん。」
扉が完全に開いたのを確認してから試験管は言った。
「それでは、試験開始!」
試験管の声と同時に全員が一斉に走り出した。あまり周りを見ていなかったが、よく見てみると、意外と受験生がいた。
「今年は受験生多いんですね。」
僕は敬語で佐々木さんに話しかけた。
「うん。今年は試験が簡単らしいからね。」
初めて知った。
「へー、そうなんだ。」
そんな会話をしていると、他の受験生たちは早々とゴールを目指す。
ある者は獣の様に四足で走って行き、またある者は竜の様に可憐に空を舞いながら進んでいく。そして、またある者は…ん?あの人…
「あ、あの時の…」
試験会場に向かう途中に出会った白髪の青年がいた。
(ん?あの人、おばあさんと別れた後、学校と逆方向に行ってたような…まぁ、色々あるんだろうな。)
すると青年はこちらに気づかずに飛んでいってしまった。
「……。」
今更気づいたのだが、僕自身、素早く移動する方法がない。鉄パイプを利用して高跳び棒みたいにしたいところだが、1mのこの棒じゃそれが出来ない。
「創人君は何か早く移動する方法ある?」
佐々木さんは聞いてきた。
「いや、持ってないんだ…」
「良かった〜。私もないんだ。」
(仲間!…)
仲間がいて嬉しいが、機動力がないのはこれから問題が起こりそうだ。
(何か対策を考えておかないとな…)
ふと周りを見て気づいた。
「あれ…誰もいない…」
佐々木さんは隣にいるが、他の受験生の姿が見当たらない。
「佐々木さん、走ろう!」
「分かった!」
僕は佐々木さんと、先に行った受験生を追いかけた。
「全然おらんね…」
佐々木さんが少し落ち込みながら言う。結構走ったが、全然見当たらない。そう、完全に孤立した。
「ゴールの場所もわからないし、どうしよう…」
考えても仕方ないので、一旦この木々が多いいところから抜け出そうと、再度走り出した。
しばらく走り、やっと開けた場所に来た。
「うわあ!な、なんだこいつら!」
近くで男の悲鳴に近い声が聞こえた。
「な、なんだ…」
僕と佐々木さんは、声が聞こえた方へ走り出した。
「なんだろう…ヴィランに攻撃されたのかな…」
「え!攻撃してくるの!?」
全然知らなかった…。
実は、筆記はしっかり対策したが、実技はあまり対策していなかった。まさか、こんな形で凶と出るとは。
「いた!」
僕たちの目線に、五体のヴィランに囲まれ、地面に倒れている青年が入った。青年は意識はあり、腰が抜けているのか、なかなか立ち上がれない様子だ。
「!?」
よく見ると右足が赤く染まっている。
「出血…」
ヴィラン達は人の形をしており、両手で持つサイズの銃を持っていた。
再びヴィランは青年に銃を向けた。その光景を目撃した僕は、とっさに鉄パイプを作り出し青年の元へ向かっていた。勝てないとわかっていたのに。
ガンッ。
鉄と鉄がぶつかる音がした。僕の攻撃は当たったが、ヴィランはびくともしていない。そもそも対異能用に作られているため、物理攻撃で壊せるわけがない。壊れることはないが、今一撃入れたことで、ヴィランが一瞬静止した。その隙に、僕は青年を連れて移動しようとした。元々の目的が迎撃ではなく救助なので、このまま逃げ切れば目的達成だった。しかし、問題が二つ起きてしまった。
一つ目は、青年は想像以上に足を痛めており、移動することができない。
二つ目は、ヴィランの再起動が1秒にも満たない間で終わっていたこと。
そのため、僕には青年を数メートル先に投げることしかできなかった。青年は助かったが、今度は僕がヴィランに囲まれてしまった。どうするか試行錯誤していた時、遅れて佐々木さんが到着した。
頭よりも先に体が動きやすいタイプの創人くん。中学の時は名前がなんかかっこいいと言う理由で風紀委員に入った。後悔はしていないらしい。
次回「重量操作の異能」