入学試験
男は泣いた。
少しづつ冷えゆく友の死体を抱きしめて。
「母さん、行ってきます。」
「いってらっしゃい。」
僕の名前は弍替 創人。中学をもうすぐ卒業し、高校生になる。今日は高校の試験日だ。僕の受験する高校は日本唯一のヒーロー育成高校で、定員は6人と少ない。毎年10人以上受けているが、一人も受かることがなかった年もあるそうだ。入学試験は毎年異なり、筆記はほとんどの人が受かるが、実技で振り落とされる人が多い。僕は筆記をクリアしている為、今日の実技が勝負となる。僕は強い意志を持ち、家を出た。
この世界にはほとんどの人が、生まれつき「異能」と言う常人のは異なる力を持つことがある。その割合は九割を超えており、異能を持たない人類は絶滅したと言われている。詳しくは分かっていないが、人類の突然変異から異能が始まったとされている。
創人の異能は「製造」と言われるものである。頭でイメージしたものを作り出すことができる。ただし、1日に作れる量は限られており、機械類は細かいパーツまで見ないと作れない。その為、今作れるのは二つある。
一つ目は鉄のパイプで長さは1mほど。使い方は…今のところ思いつかない。
二つ目は布。大きさは自由に変えられるが、使い道は目隠しぐらいしかない。
この二つの能力を使い、試験をクリアできるだろうか…
歩き出して5分、高校が見えてきた。高校の名前は「雄藍高校」。名前の由来は、誰もが英雄になる力を育み、空の青さの様に偉大になってほしいと言うものである。校訓は「ただしき道を」。いかにもヒーローらしいものだ。そんなことを考えながら歩いていると、杖をつきながら歩く老人と歩道ですれ違った。僕は渡り切れたが、老人はまだ道路の中央を歩いている。信号は赤に変わり、状況は一気に危なくなった。老人は腰を曲げており、車に乗る人は捉えにくいだろう。どうする…助けるべきか。だが、何も起こらなかった場合、異能を使用したことになり罰せられるかも知れない。まだ決断できずに迷っていると、大型のトラックが青信号のためスピードを落とさず走ってきた。座席が高いため、老人が見えていない。
「やばい!」
急いで一歩踏み出したが、気づく。自分の異能では救えないことに。鉄パイプを作り出すことができるのは手の中だけ。そう、老人との距離はざっくり2mくらい。届かない。何もできないと気づきつつも老人に向かって走っていると、トラックの運転手が見えた。
「!!」
遠目だがはっきり分かった。
「気を失ってる…」
すると老人は異変に気付き横を向く。自分に向かってくるトラックに驚き、地面に尻もちをついてしまった。トラックと老人が衝突する瞬間、僕はとっさに目を瞑った。
「おばあさん、横断歩道は点滅し出してから渡ったらダメだよ。」
「あら、ありがとう。」
白髪の青年と老人がトラックを越すぐらいの高さに浮いていた。トラックも止まっており、何が起きたのかわからない。彼の異能だろうか…
「運転手さん!起きてください!」
青年の声を受けゆっくりと運転手は顔を上げた。
「気をつけてくださいね。」
そう運転手に言った後、青年はこちらを一瞬見て去って行った。老人も何事もなかったかの様に歩き出し、トラックの運転手が謝罪に向かっていたので、僕にできることはないと判断し、高校に向かうことにした。
学校のグラウンドに立つと、数名が近寄ってきた。
「君も受験生?よろしくね。私は佐々木梨香。あなたは?」
「僕は弍替創人。よろしく。」
一通り挨拶を交わすと、放送が流れた。
「只今より、入学試験を開始する。」
皆さんこんにちはイチゴボールです。他の作品もあるので次回は1ヶ月ぐらい開くと思います。