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ちゃぷん。
湯の波がゆるやかに揺れる。
琴と海斗は、肩までしっかりと湯船に浸かっていた。
ちょっとだけ背筋を伸ばして、ふぅ、と息を吐くと、自然と肩の力が抜けていく。
「……これ、なんかすっげーいいお湯じゃない?」
琴がぽつりとつぶやいた。
うっすらと湯気が立ちこめる中、つま先で水面をちょいと弾きながら、満足そうに目を細める。
「なんか……トロってしててさ。ヌルつくって意味じゃなくて、肌に絡むっていうか……しっとりすんの。めっちゃ良さそう。」
「……あー、わかるかも。」
海斗も頷きながら、手をお湯に沈めて、軽くこすり合わせてみる。
「俺、昔温泉旅行行ったことあるけど、それより質いい気がする。あの時は“美肌の湯”って言われてたけど、こっちのが肌溶けそうだもん。」
「“肌溶けそう”ってこえーな。」
「例えの話だよ。」
琴はくつくつ笑いながら、両手をぶんぶん湯の中で振る。
その動きに合わせて、波がふわんふわんと立って海斗の方まで届く。
「でもさー、なんかこー……体の芯からほぐれてく感じ? こんな広い風呂で、お湯も極上。……これはもう、最高ってやつじゃん?」
「閉じ込められてる状況で“最高”って言い切れるのすげえな、お前。」
「だってさ、せっかくなら楽しまなきゃ損でしょ? この風呂、どっから湧いてんのか知らないけど、完全に上位温泉。……もう、住みたい。」
「それはさすがに極端。」
「布団持ってきたら、ここで暮らせる気がする。3日くらいなら余裕。」
「ふやけるわ。」
「ふやけてもいい。ていうか、ふやけさせろ。私の全身、ふやけきった果てに未知の癒しゾーンへ突入するかもしれん……!」
「風呂に宗教的意味を見出すな。」
くっくっくと琴が笑いながら、また肩まで潜ってご満悦の表情。
「なぁ、カイト」
「ん?」
「これって……マジでただ風呂に入るだけで出られる部屋なんかな?」
「いや、モニターにそう書いてあったけど……逆にそれ以外で出られそうなとこ、どこにもねぇしなぁ」
「だよねぇ。……となると、まぁ、もうちょいゆっくりしてもいいかな〜って感じ」
琴がそう言って、湯にあごまで沈みこむ。
海斗はその姿を横目で見ながら、ふっと鼻で笑った。
「お前が落ち着いてると、逆に俺が焦る気がしてくるな」
「私、風呂好きだからな〜。しかも広いしさ、これならお前とでも許せる。」
「“お前とでも”ってなんだよ。」
「“お前だから”はちょっと恥ずかしいからな。」
海斗が苦笑いを浮かべ、琴はドヤ顔のまましれっと湯に潜る。
そんなふうに、のぼせるまでふたりはぬるめの湯に溶けていった。