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湯気がほんのり立ち込める風呂場。曇った鏡と、少しぬるめの湯。二人きり。

それも、"風呂に入らないと出られない部屋"という、わけのわからん状況で。


タオルすら巻かない琴が、背伸びしながら、ふわふわとした湯気のなかで言った。


「てかまあ、一応自覚はしてんだけどね。距離感バグってるのは。」


「……自覚してて、それかよ。」


海斗が半分呆れて眉をひく。


「いやぁ、だってさあ。ほら、私とお前とあいつら、幼馴染の枠組みに入るだろ?」


「おう。」


「あいつらの中にはお前以外にも男子が3人いるな?」


「いるな。」


「私は、あいつらとも風呂に入れる。」


「……まあ、俺と入れるんだから、そうなるか。」


「な? 流石に、普通じゃないってのは分かるぞ?」


「……気づいたんなら、俺に気遣いとかしてくんねぇのか?」


「や。」


「や、かあ。」


「というかさー、仲のいい人とお風呂入るの好きなんだわ。家族とか友達とか。」


「へえ、初めて知ったわ。」


海斗は湯に肩まで浸かりながら、髪をかきあげた。目を逸らしてるのがバレバレで、琴はニヤッと笑う。


「私はね、お前のことが好きなの。」


「……は?」


「友愛、だけどな?」


「あ、ああ、そっちね。」


「でもさ。好きって気持ちには変わりないじゃん? だから本当は、もっと一緒にいたい。もっと近くにいたい。……だけど、一緒に風呂入ろうとすると、流石に倫理的にアウトだろ。」


「当たり前だ。」


「お前が恥ずかしいってのも、分かるし。わたしが女子って自覚もあるしな。」


「じゃあちょっとは控えろよ……」


「でもさ。今回みたいに、"閉じ込められたから仕方ない"って状況だとさ──ちょっとだけ、嬉しいんだよ。」


琴はそう言って、湯船のふちにあごを乗せて、にやにやとこちらを見てくる。


「うれしいって、なんでそういう状況でポジティブになれんだよ……」


「だって、こうでもしなきゃ一緒にお風呂なんて入れないじゃん?」


「……そりゃそうだけどよ。」


「家族じゃなくなって、異性として見られるようになったら、もう私たちはこうやって、並んで風呂に入ることもなくなるんだなって思ってさ」


「…………」


海斗は言葉を失って、琴の方を見る。いつもの軽口じゃない、どこか寂しげなトーンに、喉の奥が詰まった。


「……ま、今はその“異性として見られてない”ってことで、こうやって入ってるんだけどな!」


「お前……そこは照れろよ!」


「やだ。めんどい。」


琴は、ちゃぷんと音を立てて湯に潜り、顔だけひょこっと出して笑った。


「でも、ありがとな。海斗。」


「……なにが。」


「私と一緒に入ってくれて。こうでもしなきゃ叶わない願いだったんだ。……たとえ、強制イベントでもさ」


「……はぁ。まったく、変わんねぇな。お前は。」


海斗はそっぽを向いて言うけど、その口元にはわずかに笑みが浮かんでいた。


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