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目が覚めたとき、海斗はまず天井を見上げた。白い。なんか、やたらに白い。
「……ここ、どこだ?」
起き上がると、ベッドどころか自分の部屋じゃないことに気づいた。四方を見回せば、無機質な壁。窓もなく、ドアはひとつだけ。それも、風呂場に続いてるような曇りガラスの引き戸。
「おーい、海斗起きたー? ねえ、こっちにさ、テレビみたいなモニターあんだけど!」
明るい声が響く。聞き慣れた声──琴。
「お前もいるのかよ!?」
声を辿って出向けば、モニターにははっきりとこう書いてあった。
《一緒に風呂に入らないと出られない部屋》
「…はぁああああああ!?!?!?」
「うっわー!出た出た出た、ネットで見たことあるヤツ!これマジであるんだ!?すげー!」
琴はやたらテンション高く、まるで遊園地にでも来たかのようにモニターを指さして興奮している。
「お前、何テンション上がってんだよ!? やばいだろコレ!」
「いや、でもさぁ。これくらいならまだ健全じゃない? ふつう“エッチなことしないと出られない部屋”とかだぜ?」
「いや、いやいやいや。お風呂って、だいぶエロい部類だと思うんですけど!?」
「ふーん? じゃ、さっさと入るか!」
「は!?」
驚く間もなく、琴はシャツを掴み、勢いよく脱ぎ始めた。
「お前!?ちょ、待──!」
「なに? 海斗、まさか私の裸とかで動揺するとか? 今さら? 小学生んとき、ふつうに混浴してたよな?」
「いや、それとこれとは話が違ぇだろ!? お前、今、思春期って概念忘れてないか!?」
「そんなの、お前相手なら適応外。私は“お兄ちゃん”に裸見られても気にしないタイプの妹系女子。」
「妹系女子てなに!?新ジャンル作るなよ!」
「ほら、さっさと脱ぎな?こっちはもう涼しいよ~」
琴は既に下着も全て脱ぎ終え、全裸で仁王立ちしていた。堂々と。えらく堂々と。
「いやいやいや! だからせめて隠せ!せめてタオル巻けよ!!」
「やだ。タオル巻くのめんどい。てか、こっちは別に見られて困るような体じゃないし~。ほら、私は“琴”だぞ? 親しき仲に恥じらい無しってな!」
「お前の辞書に“慎み”の文字ないのかよ……!」
海斗は頭を抱えつつ、とうとう腹を括った。
「……チッ、しゃーねぇなぁ。覚悟決めるか……」
服を脱ぎ始めながら、内心では(琴は絶対この状況を楽しんでる)と確信していた。
全裸になってもなお、涼しい顔で髪を結んでる琴に、海斗は肩を落とす。
「マジで……なんなんだよ、こいつ……」
「なにブツブツ言ってんの。さ、風呂入るよー!」
「わかったよ……でもその前に、頼むから! 胸だけでも隠してくれぇぇぇぇ!」
「えー。やだ。お前が恥ずかしいって思うの、面白いもーん」
「お前、性格悪ッ!!」
それでも──
不思議と、息が詰まるような閉塞感はなかった。
…いや、まあ、視線のやり場に詰まりまくってる意味では息は詰まってたけどな。