ウームーイーツ配達を生業としていた底辺生活者だった俺が、交通事故であっけなく死に、気がつくとロングレンジライフルを構える暗殺者になっていた・・・
俺の名は、まぁ、佐藤健太(仮)。
新聞奨学生をやりながら、大学に通い結局勉学に時間を注げず、まともなキャンパスライフも出来ず、友達もいないカリスマぼっち。そして、大学は中退し、今では、まともな職に就いたことのない所謂ギグワーカーをしている。スマホに送られてくる指示に従ってただひたすら高そうなご馳走を金のある奴に届けるだけのつまらない生活。
いつまでこんな日々が続くのだろうと将来に何も希望もない人生。いっそ生まれ変われたら・・・、そんなことを考えながら原付を運転していたある日、俺は事故った。そして、死んだ・・・のか?
ついさっき、並んで走るダンプカーが目の前に左折して迫ってきたところまでの記憶はあるのだが、その後は強い衝撃と体がひしゃげる激痛が走ったところで頭のメモリーが、ブラックアウトしている。
一体俺の身に何があったのか?
言うまでもない。ダンプカーの左折に巻き込まれて多分下敷きになったのだろう・・・・・
気がついた時には、タイトルに書いた通りライフルを構えて暗視タイプのスコープを覗く俺なのだった。
【佐藤が転生した先の時代背景】
現在とはちょっと異なるアメリカマンハッタンをモチーフに。
銃規制は緩い。
あらゆる殺しの依頼案件を扱う、暗殺ギルドの本部がマンハッタン島の西側チェスターにあるらしい?
ギルド関係者以外、立ち入ることはほぼ不可能と言われる。
厳重な入場規制が行われている。
殺しの依頼は多種多様、要人から一般人、はては司教なども暗殺対象に指定される。
報酬は依頼内容次第で、高いものだと数億ドルになるものまであると言う。
もちろん暗殺に失敗した場合はノーギャラ。
案件によっては自らの命を危険に晒すことも珍しくなく、まさにハイリスク・ハイリターンである。
【登場人物紹介】
クルス・カイザー(佐藤健太(仮))
暗殺者ギルド屈指の狙撃手。
狙った獲物は絶対に消す。
沈着冷静、寡黙、感情を表に出さないポーカーフェイス。
淡々と依頼を片付けて次から次にこなして行く。
実妹もかなりの腕前のスナイパー。だが、或る事件をきっかけに仲違いを起こし、今では互いに憎み合う関係。格闘技(中華拳法をベースにした近接戦闘タイプ)にも秀でており、怪力の持ち主でもある。グリズリーを一人で締め上げて倒したことがあるとかないとか・・。
恐るべき妹である。怖い・・。
クルスは気配を察知する能力に長けており、背後を取られたことは数えるほどしかない。運転技能も目を見張るものがあり、カーチェイスで、彼の右に出る者はいないと、もっぱらの評判である。
標的をとことん追い詰め、最後はスナイプショット、というのが基本的な殺しのスタイルである。
稀に心を乱され、冷静さをやや欠いたタイミングで、狙いを外すことがあるらしい。たが、それを観た者は大抵彼にあの世に送られている。
決め台詞「フィニッシュ!」だとか。
ちょっと草生える・・・(当人は無意識らしい)。
ケーシー・カイザー(クルスの妹)
独断専行、命令無視、猫まっしぐらな熱血凶暴女。
狙った獲物は絶対嬲り倒してからトドメを刺す。二つ名は冷血王女。人を殺すことに快感を覚えたかなり頭のいっちゃってるクルスの妹。
或る事件をきっかけにお兄様と殺し愛の仲に。
「殺しは究極の愛情表現」というのが彼女の哲学、だとか。
子供の頃はおとなしく物静かで、兄を慕ってどこでもついてくる可愛い妹だった、とクルスは記憶している。今となっては影も形も残っていないが・・・。
兄妹揃って暗殺者を生業にしているが、動機がかなり異なる二人である。
彼氏募集中(但し、自分より強い男に限る)・・・。できる見込みは薄い(笑)。
サム・エクスプロージャー(クルスの頼れる数少ない戦友の一人)
トラップや地雷、手榴弾からロケットランチャーに至るまで、あらゆる武器を使いこなす爆破大好きジジイ。
ターゲットのいるビルごと吹き飛ばし、何度もポリ公に追われるハメになることしばしば。爆発は芸術だっ!がモットー。普段はおとなしい好々爺なのだが、いざ戦闘となると人が変わったようにターゲットをぶっ飛ばすバーサーカーに変貌する。武術の心得もあり、ボクシング、ムエタイ、空手、柔道など幅広く芸を会得している。
素手でヒグマをぶっ飛ばした経験がある、とは自称。真偽は定かではない。
ケーシーとも何度か戦ったことがあるが、毎回死にそうになるところで、クルスに救われるというパターンが定番である。お前の助けなぞ不要じゃ、この若造め、といつも強がってはいるが、内心クルスのことを当てにしている節がある。
かつては、米軍特殊部隊の隊長を務めたことがあり、部下からの人望も厚かったらしい。様々な任務を遂行したが、任期途中で上層部との軋轢が重なり退役したという。
軍人魂の塊みたいなジジイである。
口癖は(ほれ、見たことか。)である。
アリス・フォルマ(クルスの頼れるサポーター兼情報収集係)
情報通信のエキスパート。様々なITスキルを駆使してクルスを手助けしてくれる頼もしい女性。諜報活動なども難なくこなす経歴不詳、年齢不詳、出身地不詳の謎多き人物。クルスのことはかなり信頼しているが、自分のことを尋ねられるとダンマリを決め込む見た目二十代後半の顔立ちの整ったみめ麗しいスーパーガール。
いつもクルスのマイクロイヤホンに的確な周辺情報を柔らかな口調で伝えてくれる。クルスが人並みはずれた活躍ができるのも、彼女のサポートあってのことと言えよう。感謝の言葉を伝えても大抵無反応。感情がないのか、はたまた、口下手なのか?それともツンデレ・・・それはないか。とクルスも推し量れずなのだった。
クールビューティー。彼女にこそ相応しい言葉だ。
そんなアリスだが、時折クルスに意味深な言葉を放つことがある。あら、そんなこと言ったかしら?再び聞いてもそんな返事。やはり、謎な女性である。女心はよく分からん。クルスはいつも思うのであった。
とまあ、人物紹介はこのくらいにしておこう。
佐藤(仮)の新たな人生の始まりを語ろうではないか。
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時は二十一世紀前半、舞台は高層ビルが軒を連ねる摩天楼の大都会 マンハッタン。
俺は今猛烈にクールだった。(どっちだよ?)
真夜中午前二時を少しすぎた頃、俺は依頼通りとある大物マフィアのボス、クレイジー・ファットマン(通称)を狙撃する直前だった。そこへいつもの彼女アリスの声が耳に入る。クルス、風向きが変わったわ。南南西の風速さ毎秒6メートル。
サンキューアリス、愛してる、オーバー。彼女からの反応はない。・・・コホン、南南西6m/sだな、OKバッチリだ。クルスは照準を微調整。ターゲットとの距離は約2km。この距離を外すクルスではない。あばよ、ファットマン!さあ、フィニッシュ!
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時はやや進んで午前四時半頃。
クルスはギルドの個室で物思いに耽っていた。
クルス・カイザー・・・それがいまの俺の名か。健太(仮)はクルスの記憶を辿る・・・・・汗。
なんてやつだ!ロングレンジライフル一丁で今まで何人やって(殺って)きたんだよ!人間じゃねえ、殺人マシーンじゃんか。
クルスの歩んできた人生はとても簡単には説明できない波瀾万丈のものだった。
こんなやつに俺は乗り移っちまったのかよ。あー、どうしよ。ウームーイーツの方がマシかも。
健太(仮)の感想はそんな感じ。やばい奴になっちまった。まさか自分が人殺しになっちまうなんて・・・。もっと異世界転生もののテンプレ的なもっとこうファンタジー、キミとキミと、的なノリの世界に行けたら良かったのに。アメリカじゃん!ニューヨークじゃん!
ニューヨークに行きたいかぁーー?
やだよ。
怖いよ。
暗殺者ギルドって何なんだよ。マジこえぇよ。ジャパンに帰りてぇ〜。
頭を抱えるクルス(仮)なのであった。
○次節、『人生は爆発じゃ』好々爺サムじい、呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃあ〜!登場。
「やっちまったあ!!」
サム爺の大声が車内に轟く。
その日、クルスとサム爺は、マンハッタン島の北、ウッド・デール郡立公園の中をミリタリーカスタムを施した、ダイ○ツ製ハ○ゼットで速度MAXで駆け抜けていた。
やってくれたな、ジジイ!いい加減に誰彼構わず手榴弾でぶっ飛ばすのやめろよ。クルスは情けない声で嘆く。
今回のターゲットは超巨大レストラングループのトップ、マッズイ・タベルーナであった。依頼主はその妻。何でも不倫相手ごとまとめて殺して欲しいとのこと。
夫婦喧嘩は猫も食わんのじゃ。とはサム爺の言葉。アリスは何故か俺を睨んだ。何故睨む?クルスは首を傾げる。
マッズイが不倫相手とウッド公園で夜のデートをすると言う情報はアリスが仕入れてきた。この女、できる。いや、できないか(違う意味です)。クルスは苦笑した。
夜の公園。木が邪魔で長距離から二人を仕留めるのは流石のクルスにも困難である。そこでサム爺に先行してもらった。ところがである。
サム爺「女を素手で仕留めるのは寝覚が悪いんじゃ」とかなんとか・・・クルスは嫌な予感がした。
いやほぼ確信していた。覚悟していた、というべきか?
少し二人の様子を伺うサム爺。防弾ベストの内側に潜ませている手榴弾に手を伸ばす。
二人はイチャイチャしながら、手を繋いで公園を歩く。
サム爺「くぅ〜、わしもあんな若い生娘とラブラブしたいのぉ〜」。無線から聞いていたクルスは言う。「こら、ジジイ!軍人魂はどこ行った?」クルスはマズイと予感した次の瞬間、サム爺が吠えた。「おら、二人まとめてあの世行きじゃあ!!」
サム爺は手榴弾を十数個、イチャコラする二人目掛けて投げつけた!
ドゴーン、ドバーン!連続で投げられた手榴弾が炸裂。二人は吹き飛んで絶命した。そこまでは良かった。
マッズイには武装したボディーガードがいた。当たり前だが、二人の逢瀬を周囲から見守っていた。二人が爆発で吹き飛んだとき、彼らはその半数以上が動こうとしなかった。アリスの情報操作のトラップ(GPS情報の書き換え、無線通信の妨害etc.)も効いたようだが、なによりマッズイの妻の息のかかった者が半数近くいた(アリスの事前調査でわかっていた)のも大きい。
しかしそれでも爆心地に駆け寄る者が十数名。謎の決めポーズをとるサム爺は、周囲を筋骨隆々のむくつけき漢達に囲まれてしまう。(それ見たことか!)ジジイは自分を叱咤する。ちと流石にマズイかのぉ。百戦錬磨のサム爺でもこれ程屈強な漢達に囲まれてはなす術がない。バンジー急須じゃ。(まだ、余裕ある?)
クルス 例のハイ○ットで参上。二、三人の黒服漢を体当たりで吹き飛ばしてきた。当て逃げはお手のものである。前世の仕返しだ。それ、八つ当たりです。
サム爺は巨漢の漢数名にタコ殴りにされていた。
や、やめんか、老人は大事にせい!お前が言うな。
クルスは愛車をジジイのすぐそばに停め、車外に飛び出した。サム爺!生きてるか?返事がない。屍のようだ。まだ死んどらんわ!寒爺がボコされながら叫ぶ。ちょっと三途の川が見えただけじゃ!お前はもう死んでいる。クルスはボソッと呟いた。
だから、まだ生きとるわい!早く助けんかい、このすっとこどっこい!
クルスには近接戦の技能が少し不足していた。いっちょやりますか。彼の肉体に宿る魂、健太(仮)が思考する。健太には中学生のころから始めた合氣道の心得があったのである。唯一のとりえだった。
合氣道・・・相手と自分の氣の働きを感じ、襲いかかってくる相手の勢いを利用して投げ飛ばしたり、ねじ伏せたり、とにかく防御イコール反撃の技術である。
クルス(健太)は敵を手招きして挑発する。黒服の漢達は寒爺もといサム爺を殴るのをやめ、クルスに向かってくる。さあ来い。クルス(健太)は氣を放つ!敵に対して斜め45度の構えを取る。5人同時に飛びかかってきた。1番近くに来た黒服の右手首を自分の右手で掴み、そのままぐるっと半回転。後続の漢達の右側に回り込み、最後列の漢に手首を掴んでいる漢をぶつける。ぐはっ!漢二人同時に呻いた。あと三人。クルスは向きを変えた。と同時に敵三人が彼に突進してくる。ジェットストリームアタック!!あれはモビルスーツに乗ってないと無理だな。そんなことを考えながら相手の氣の向かう先を観る。三人バラバラだった。甘いっ!クルスはそう言って、先頭の漢の左手を掴み、重心を少し左へ、相手は勢いよく彼の右脇をすり抜けるように導かれて吹っ飛んでいき、大木に頭から激突した。アベシ。そう呻いて漢は倒れ込んだ。
次!二人目もクルスのすぐ後ろから飛びかかってきていた。単純な奴らだ。彼は振り向きざま相手の襟首を掴むと、そのまま背負い投げをかます。漢は勢いよく地面に叩きつけられた。ヒデブっ!えっ、お前もか?地面に叩きつけられた漢もそのまま気絶した。
ラスト!最後の一人は・・・襲いかかるのを躊躇とた。何が起こっているのか理解できないらしく、その場で立ち尽くすのだった。
そりゃ、お返しじゃ!サム爺はここぞとばかりに黒服の漢に飛びかかって、張り倒した。あホァっ!
漢はまたしても気絶した。
さっきは良くも殴り倒してくれたのぉ〜。ジジイ、右足に装着しているコンバットナイフを抜き、舌なめずりをする。
おいおい、やめやめ!俺はサム爺を押さえた。だが、ジジイの気はおさまらない。止めるな小僧。奴の血の色が見たいんじゃあ〜!
サム爺は、バーサーカー状態だ。流石にマズイか。無駄な血は見たくないのだが・・・。クルスは意を決してサム爺をその場でねじ伏せた。悪く思うなよ。爺さん!
他にもまだ数名ボディーガードが残っていたが、俺たちの戦いぶりを見て戦意を失ったようだった。
ミッション コンプリート!!
○次節「殺したいほど愛してる。」冷血王女ケーシー・カイザー襲来。君は時の涙を見る・・・?
季節は夏、だというのにニューヨーク全土は激しい寒波に襲われていた。サム爺「なんなんじゃ、夏真っ盛りじゃというのに、薄着の美女が一人もおらんではないか。」それもそのはず、季節ハズレの大寒波に、道ゆく人皆、冬物のコートを着込んでいるのだった。アリス「寒いわね。手が冷たいわ・・・」。何故か俺をジト目で睨む彼女。ここはクルスが男を魅せる出番か?と思いきや、アリスはカイロを取り出し両手で揉みはじめた。クルスは差し出した手をそっとサム爺のハゲ頭に載せた。ツルツル撫で撫で・・・。
なんじゃ、気持ち悪い。この老耄のハゲ頭に勝手に触れるでない!この男色野郎め!
サム爺はクルスの手を鬱陶しそうに跳ね除けた。
クルスの手は行き場を失って、結局自分の頭に乗っかった。撫で撫で。まだ、大丈夫・・・。サム爺「何が大丈夫なんじゃ?どうせもうすぐ小僧もわしの仲間入りじゃ。往生せい。」黙れ、ハゲ!クルスは忌々しそうに吠えた。
アリス「貴方達、相変わらず仲良いわね?結婚すれば?」。アリスは平然と宣った。
「アホ吐かせ!」、「やかましいわ小娘!」クルスとサム爺は同時に叫ぶ。
フローラルパークを東に進み大きな交差点を左へ、ラングテール・ストリートを北へ向かって歩く三人はそんなくだらないやりとりをしながら騒がしく目的地へ向かっていた。
今回の依頼は大銀行コンツェルンのトップ、イヤミー・ナリキーンの放蕩息子マーヌー・ナリキーン。依頼内容は実の父親の暗殺である。自分の手で殺せば相続の欠格事由により相続権を失ってしまうので、秘かに始末してほしいらしい。なんとも嫌な依頼である。イヤミーは今、三人の向かっている先のグアカ・ショップ・メキシカングリルというメキシコ料理の店にいるらしい。経営が傾いているこの料理店、かなり評判が悪い・・・。イヤミーはこの店のオーナーに立ち退いて更地にして借金を返済するよう話を付けに来ていた。そんな話、イヤミーほどのお偉いさんがするようなものでもないのだが、なんでもその店のオーナーは大学時代の親友らしく、彼自ら説得に赴いているとの話らしい(アリス筋情報)。
店の駐車場にひときわ目立つ黒のロールスロイスが一台、二台分の駐車スペースを占有して停まっていた。「あれか」、「あれじゃ」、「あれね」、クルスたちの声は同時だった。窓ガラスは真っ黒で中の様子はうかがえない。おそらくボディーガードが数名同乗しているはずである。車の周りにも黒ずくめのたくましい漢達(アーノルド・シュ〇ルツェネッガーやシルベスター・〇タローン風)が立ち並んでいた。「帰りたい・・・」クルスは人知れず呟いた。
「どうするんじゃ、小僧、さすがにわしの見立てではありゃ防弾も完璧でかなりの衝撃にも耐えられるタイプじゃぞ。ランチャー持って来とらんぞい。」サム爺は言う。アリス「駄目ね。私のスキルをもってしても彼らの無線をジャミングできないわ。完璧な暗号通信を使っているみたい。どうしたものかしら・・・」クルス「一旦例の場所に行こう。」
クルスたち一行はその料理店から少し離れたレイクビル・ロード沿いの池のある公園に来ていた。そこには例の武装軽トラ・ゼッタン4号(クルスの愛車名)が待機していた。荷台には愛用する武器の数々が格納されていた。
「サム爺、今回はロケットランチャーを使おうパンツァーファウスト3を持って行ってくれ。俺はロングレンジライフル、センデロ SF II 300WM 26インチを持っていく。」クルスは言った。