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当主含めた対談(3)


「そんな……。なぜそんな思想を、危険なものとして禁止になさらないのですか?」

「外国からの交易で旨味を得ている者たちが、買収されてやっていることです。思想は自由であるべき、という外国の考えに、純粋に憧れる層もいますが。千年という長き時間、界寄豆(かいきとう)を封じ込めていた努力は……帝を始め、央族が自我を殺してでも続けてきた忍耐力によるもの。それを古いものとして一新していくべきと声を上げており、若い者を中心にその思想は広まり続けているのです。規制などしようものなら、奴らは鬼の首を得たとばかりにそれを責めるでしょう。我らの代ではともかく、五十年後には結界が一つ一つ壊れていくのではないかと言われています」

「そっ……!」

 

 じょ、冗談だろ!?

 そんなことになったら界寄豆(かいきとう)が再び成長してこの“世界”が侵されるんだぞ!?

 外国だってもう、他人事だけじゃなくなる!

 それでもやろうっていうのか……、まさか!?

 

「我々は今の時代を守ればええんどす。未来のことは、未来に生きる者が決めるでしょう。その思想を正しいとするのなら、その正しさにおいて国を守るなり滅ぼすなりするはずどす。外国の者どもも思いしればええんどすわ。わたくしたちが千年、なにからなにを守ってきたのかを。そして、自分たちが広めた思想のその先を。そんなん、今を生きるわたくしたちが知ったこっちゃあありませんわ」

 

 え、えええ〜〜〜……。

 びっくりして、口を開けたまま固まってしまった。

 なんというか、腹が据わっているというか、なんというか。

 いや、実際五十年後はともかく百年の未来のことなんて俺たちにはどうなっているのかなんて想像もつかんけれども。

 しかし、今ですら禍妖(かよう)に日々脅かされているっつーのに、その元締めみたいなやつをそのままに結界を蔑ろにしかねない“思想”による侵略なんて……。

 

「舞はんにはそんなつまらん未来が少しでも“遅く”なるように、霊術や霊符をもっと親しみやすくしてもらえたらええと思うてるんどすよ。そういう研究をされてはるんでしょう?」

「あ、は、はい」

「素晴らしい。今の時代に、まさに必要とされておるものよ。金は出し惜しまぬゆえ、どうか馬鹿でも使える霊術・霊符を教えておくれやす」

 

 美澄様が頭を下げてくる。

 ちょおおおお!?

 

「そんな! 頭をあげてください! 私のやっていることなんて趣味でしかなかったのです! お役に立つのでしたらなんでも!」

「ふふふ、ありがとう。舞はんの研究結果、近くお聞きしたいわぁ。今日のところは結婚についてのことやけど……他になにか質問なり希望なりある? なんでも気軽に言ってええんよ」

「そうですわ。もっと我儘言っていいのですよ」

「あうあうあうあう……!」

 

 そんなこと急に言われましても……!

 研究費を出してくれる、と言われても……和紙はなんなら自分でも手作りできるからなー。

 素直に「今はまだ思いつかないです」と項垂れると、当主お二人にはただただ微笑まれた。

 

「失礼ながら、わしの方から一つお聞きしたい」

「なんでしょう?」

「娘には大名家に嫁がせるような専門的な教育をしておりません。しかし、最低限の務めは果たしたいと娘は申しております。そのあたりの教育など、受けさせていただけますか?」

 

 あ、そうだった!

 俺ってば自分でやるって言ってたのに、思い出せなかった!

 ナイス、親父!

 

「ああ、それなら心配ないんよ。家の仕事はわたくしと黎児、妹夫婦で回っとる。滉雅はお嫁はんを貰ろたら、分家の扱いになる予定やったんよ。本家のお仕事はうちらでやるさかい、年末年始の親戚づき合いさえやってくれたらええかなぁ? ああ、けれど舞はんは霊力豊富やから、四季結界補修には参加してくれたら助かるわぁ」

「は、はい! 役に立てるのなら頑張ります!」

 

 それが噂の一年に四回の儀式か!

 もちろんだぜ、俺の霊力量ガンガン役立ててほしい!

 さっきの“思想”の話も聞いたし、結界は大事だろ!

 でも、まあ……そんなつまらない思想と切り捨てることもできない程度には、外国から入ってきた思想は人の心になにか訴えかけるものがあるんだろうな。

『女は家を守り、男は外で稼ぐ』って思想はクソだと思うけど。

 女だって外で稼ぎたいよ!

 少なくとも滉雅さんとの婚約話が出なければ、俺は外で稼いで自立して生活したかった。

 その思想がおもっっっっクソ邪魔してくれやがって!

 可能ならなんとか会ってやつ、ぶっ潰してぇー!

 

「心強いわぁ! ……近年女性の霊力量が少なくなってて、いくつかの結界が薄くなっとって禍妖(かよう)が増えとるから、一等級のお嬢さんが四季結界補修に参加してくれはるのはほんまに期待してまうわー」

「そうですね。ええ、ええ! 舞さんのお仕事は結界の補修と霊術と霊符の開発でお願いしたいわ! 思いっっっきり期待しちゃうから、よろしくね!」

「………………はい、頑張ります」

 

 圧……!

 期待が重い!

 しかし、年末年始の親戚づき合いだけでいいなんて神。

 

「あの、年末年始の親戚づき合いというのは、どんなことをするんですか?」

「難しいことはせぇへんでえぇよ。顔と名前覚えて面倒くさいなぁ、思いながらウンウン愛想よく笑って終わるまで頷いとればええねん。もしもなんや頼まれごとされたり無茶振りされるようならわたくしか滉雅に相談し。シバいたるわ」

「オッ……ぁ……は、はい。わ、わかりました。ほ、ほうれんそうですね……!」

「ほうれん草? なんで急にほうれん草?」

「あ、報告・連絡・相談です」

 

 社会人のほうれんそう。

 最初に教わるやつよ。

 それをいうと美澄様と黎児様が突然手を叩いて「ホウレンソウ!」「アンタほんまに天才やな!」と大爆笑。

 ……え? ギャグ扱いされてる……?




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― 新着の感想 ―
[一言] 序でで良いから舞の仕事に霊力豊富な子供を産む事入れといた方が良いんじゃないの
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