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92 サブちくわ その3

 進行方向に影が伸びる。緩やかな下り坂。微妙な砂のアップダウン。疾走りがいが少ない。


 振り向いて離凡を確認。生意気に手を振って来た。砂丘の稜線から日が射すので前を向く。無視しないでください、と聞こえたが無視した。


 影を抜ける。下り坂の傾斜が増すので右に逸れた。


 絶景。どこまでも続く砂漠。遠くで長い物体が煙を上げて進む。


 勝利条件は『追い抜く』、それだけ。曖昧だ。背後から前に出れば良いのか?


 菊池は口角を上げた。


 『リタイア』ではダメなのか。


 抜かれる寸前、クロックかリバースを仕掛ければ良いのではないか?


 いちおうGMコール。すぐに来た返答は珍しく4文字のみ。






『仕様です』






「答えになってねえわッッッッッ!」


 これで給料が貰えるなんて羨ましい。この妬みと怒り。


「レースにぶつけるッッッッッ!」


 叫んでもちくわの速度は上がらない。遠くの亡霊を見て進路を予測しながら地味に疾走る。


 亡霊のちくわは良心的なことにスケトウダラ……もちろん外見だけそうであって高性能ちくわの可能性もある。色々思案して、考えても仕方ないと結論を出した。


「やるんですね」


 追い付いて来た離凡。


「……使っちゃったんだ」


 菊池は緩く右に曲がりながら進んで来たので、通ったルートの内側を通れば追えるが。サブちくわを燃やさなければ追い付けない。【ホタテ漁港】で貰ったちくわフィンガーの残りを嵌めてみたが、できるのはせいぜい離凡の感情に干渉するくらいだ。別らしい。


 亡霊にも使ってアへ顔ダブルピースさせられないだろうか?


「フォローできないかと思ったんですが……」


 自分で決着を付けようと言う気概は無いのか。離凡はあまりちくライダーに向いていないのかも知れない。支えようと考えるだけありがたい、と菊池は考えることにした。






 亡霊は大きな円を描くように疾走っている、と踏んだ……正確には期待した菊池。接触し、ちくライダーがなんたるかを亡霊のリタイアによって表現しGMへの当て付けとするには、円の内部を進むしか無い。


 長期戦は難しい。砂漠は障害物が少なく、勾配が緩やかなのでちくわは持つ。だが菊池の中の人は持たないだろう。とにかく暑い。離凡はすでに集中力が切れ始め、ふらついている。


 残ったちくわフィンガーをアイテムボックスから出してアへ顔ダブルピースでもさせ、強制リタイアさせるか?いや、背中でちくライダーとしての矜持を語ろう。


 少なくとも離凡は、『ちくわフルスロットル』を真剣にやろうとはしているのだ。某菊池流三銃士より遥かに。


 絶景を疾走る。とは言え単調……いや彼方に竜巻が見えた。日本で最も全長の有名な合体戦闘ロボットの必殺技のように放電もしている。雷の効果音が『ブイブイブイブイ』だったらどうしよう。


 いけない。暇過ぎて気が緩んでしまった。


 どうせ暇なら、と菊池は軽くウイリー。砂地での摩擦によるちくわ消耗を確認する。アスファルトに比べれば低い。ずっと前に公式イベントで行われた『バリ……だからラリー』の時よりもずっと低いかも知れない。


 ちくわは最高速が低く、ブレーキやアクセルなどの機能を持たない。キツいコーナーの多いコースなら、プレイヤーの腕や駆け引きが生きる。こう言った平坦でコースアウトの概念の無い場所ではスペックを覆せない。高い加速性と消耗の低いちくわさえ用意できれば無双できる。


 ただし、体を揺らさず真っ直ぐにちくわを疾走させられ続ける技術が必須となる。それと他のプレイヤーが連携しないと言う前提も。






 ラリー系のイベントが廃止されたのは、一部の競輪選手がプレイヤーとして参加しチームプレイで圧勝を繰り返したからだ。


 レース系のスポーツは様々ある。まず読者の皆さんが真っ先に思い付くのはF1ではないだろうか。


 この時代特有なのは、人型ロボットを用いて宇宙空間で行うモノや、大気圏で可変戦闘機を用いるモノ。詳細は省く。


 全て廃れつつあるが、ギャンブル系もある。オートレース、競馬、競艇、そして競輪。


 どのレース系スポーツにも言えるが、所属団体を同じくする選手同士のチームプレイは存在する。(ただし競馬は非常に難しい。斜行などを確実に取られ、失格となる。選手に大きなペナルティが課せられ炎上もしりだろう。よほどでなければまず行わない)


 最も露骨にチームプレイが見受けられるのは、競輪である。拠点する地域や人間関係によって派閥が存在し、その序列で勝敗が決まりやすいと言われている。


(だから競輪は当てやすいと言う人が作者の周りに非常に多いが、本当にそれで生活でき()方は1人しか知らない。その人はろくな死に方ではなかった。葬式も酷かった。正直、憧れない)


 競輪では特定の選手を勝たせるために後続をブロックしたりする。ルールの範囲内での進行妨害もある。


 ちくフルでのチームプレイは、ブロックやコーナーでの進行補助、ドッキングによる加速が当てはまる。


 ……菊池はこのレースの勝ち筋がなんとなく見えて来た。だが、それは実行できない。菊池に匹敵する『ちくライダー』複数人と十分な種類の素材が最低条件となる。


 離凡は良いプレイヤーだとは思う。残念だが『ちくライダー』には向いていない。


 カオザツでは『ちくライダー』に届かない。適性が低い。


 各菊池流は……なんとも言えない。『ちくライダー』になれ、とも言いづらい。


 結局、勝ち筋は現時点でも将来的にも目指せないと思う。ならば残虐ファイトで亡霊のリタイアを狙うのみ。






 左手後方に砂煙。接触は近い。

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