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89 亡霊

「白菊先生、どうしても亡霊とレースをしなければいけないのですか?」


 ヤシの木を避けながら華麗なシャドーボクシングを魅せる岐阜。想定敵はアタルか。ボッコボコにされるのが目に見えるようだ。


「やらなきゃクエストを達成できませんよ。まさか……霊的な存在が怖いとか?」


 実はこっそり膝を震わせている離凡ならともかく、岐阜に限ってはは無いだろう……


「いえ、岐阜菊池流には除霊術も有りまして。極めたのは良いのですが、今まで1度も霊に遭遇したことは無いのです」


 斜め上ッッッッッ!しかし、遭遇したことが無いのにどうやって極めたのだろう?


「今回は見送りで……」


 色々嫌な予感がするので遠慮する。


「あっ、菊池さん。ありました」


 ご丁寧にアスファルトで舗装されている熱々の道路で、絶賛武者震い中の離凡が指差す立て看板に『墓場→』とある。墓場名も無きの墓標は金属柱で、上に歯車が点付け溶接されていた。


「全員機械なんですかね~」


 歯車に触れて離凡は言う。


「機械だからどうしたってこともないでしょうに」






 アタルが言うには、亡霊は墓場に出るらしい。


 ちくわに乗るのはレベルが低すぎるので、一緒に来れないと言われた。プライドも許してくれないそうだ。ちくフルクオリティ。


「見てください菊池さん」


 離凡は墓場を囲う金属の板に触れた。


「熱ッッッッッ!」


 墓場には日光を遮る物が無い。目玉焼きどころかちくわまで焼けそうだ。


 火傷を見せたかったの、と離凡に聞くのはさすがに意地悪だろう。金属の板を見てみる。


「スーパークバ……」


 塗料が薄く残っている。フォントは記憶に残るものと同じ気がする。


「スーパーカーか原付か何かでしょうか?」


 そう言えば離凡とクバリは面識が無い。


「きっと髪が金色に変わるのよ」


 適当に答えた。


「若い頃は金髪にして、イキッてました」


 別のアホが食い付いた。若いって素晴らしい、と適当に答えた。今この場にカオザツか鎌倉か仙台がいたらどうなっていたのだろう。面倒になっていたのは確実だ。


「それにしても……真っ昼間から幽霊が出るのかしら?」


 具体的に墓場のどこにあるのかアタルに聞いたら、プログレッシブな振動兵器かと突っ込みたくなるくらい震え出し、その上体内で回転音が激しくなったり謎の放電や瞳にノイズが走って大変だった。恐怖と言う感情があるなんて、非常に上等な人工知能を持っているのだろう。しかも霊まで知覚できるのだ。


「僕、思うんですが……砂埃を亡霊と見間違ったんじゃないかと思うんですよね」


 離凡の膝の震えを肉体言語と扱い現代語に翻訳すると、『怖い』となるのだろう。きっと肩に乗せたら凝りがほぐれそうだ。


「砂埃をちくわに見間違える?」


 離凡のトンチキ発言を岐阜は本気で考察し始めた。


「疲れていればあり得ますね」


 やっぱりコイツはアホだ。


「いや、ねーわ」


「白菊先生、シラフなのに仙台は鏡に映る自分を美女と見間違えるのですよ」


「あの人はおかしいだけだから」


 それは早い段階でわかってた。


「うむ……………………さすが白菊先生、的を得ている」


 この男が鏡に映る自分を見たら、何を見出だすのだろう?


《ムービーを開始します》


 どうやら亡霊のお出ましらしい。






「ヒャッハー!」


 お前か。ちくわに乗ったモヒカンの群れが砂埃を上げて墓場を疾走しまわる。


 しかし……なぜコイツらが。


 ムービー中なので視点は固定されているが、モヒカンの服装は視界に入っている。革のジャケットにズボン。なんかそれっぽい指輪やブレスレットに胸のネックレス。一人一人モヒカンの色が違う。サングラスをかけた個体。腕になんかそれっぽいタトゥー。ジャケットの前を開けた個体の胸や腹にもタトゥー。


 菊池は気付いた。うっすら全身が透けている。しかも墓場や菊池たちをすり抜けて疾走している。


「「「悪霊退散!悪霊退散!悪霊退散!」」」


 モヒカンにすり抜けられた菊池たちは、なぜか袈裟を着て地面に正座しリズムよく木魚を叩いていた。頭のハゲのカツラは太陽が反射して眩しいッッッッッ!


「オラオラ!ビビってんじゃねーぞ!」


 側頭部に『幽霊上等』とちくフルクオリティ全開のタトゥーの入ったモヒカンが中指を立てた。


「家には幼い子供が待ってるんです!」


 胸に『生涯童貞』と気合限界突破したタトゥー入りのモヒカンが、ショタをイメージさせようとして失敗し青い猫型ロボットの初代の声優のような声で言った。


「オレたちは自由なんだ!」


 『転職希望』と書かれた旗を背負ったモヒカンが履歴書をばらまく。意図は不明だ。勤めているスタッフの本音を代弁しているのかもしれない。


「おい!テメーら!」


 モヒカンじゃない人物が叫ぶ。


「人様に迷惑をかけんじゃねーぞ!」


「「「ういっす!」」」


 モヒカンは慌ててちくわから飛び降り、地面にひれ伏した。主のいないちくわは地平線へ向かう!


「何やってんだ!ちくわを粗末にするな!」


「「「さーせん!」」」


 モヒカン全員がちくわを追いかける。走って。


 悪霊退散、とストーリーの都合で除霊させられている菊池は、理不尽な発言をする人物にデジャブを感じた。


「チッ……学習しねー奴らだ。モヒカンも、お前らも」


 菊池はこの人物を知っている。モヒカンが従うこの男を知っている。


 男のネームは『菊池駿馬の亡霊』となっている。

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