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87 遺跡

 少年NPCーー配達は、おどおどしながら玄関から出て行く。


 同じ名前のNPCとはあまりにも姿が異なる。


「白菊先生、まさか……」


 岐阜も気付いたか。


「これがちくフルクオリティですか?」


 そう来たか。……否定はできなかった。睡眠不足のシナリオライターがミスって名前を被らせた可能性は高い。


「あっ、そうだ。ガチムチ……じゃなかったハイトウさん」


 菊池は現在地の名称をガチムチNPCに訊ねようとしたが、彼はキョトンとしている。


「お名前……『ハイトウ』さんじゃないのですか?」


「えっ、おいどん……ですか?」


 予想外の一人称。


「おいどんは『クバリ アタル』と言いますけど……」


「さっきのお子さんは、まさか『クバリ タツ』さん?」


 読みも被っているのか。


「ええ、そうです。自己紹介していないのに名前がわかるなんて。まさかあなた方は、伝説のプレイヤー?」


 伝説と来たか。


「伝説かどうかはわからないけどプレイヤーね」


「まあ僕は……」


 離凡は意味も無くその場で3回転スピンしてから、プレイヤーですと名乗った。


 岐阜は対抗意識を燃やし何かしようとしたが、菊池が必死で首を振るのを見て踏み留まった。まだ良識はある。


「ええと……とにかくプレイヤーなのですね」


 矢印が120度回転し、アタルに向いた。この場にいない仲間ははワープでもしたのか。


「プレイヤーの皆様にお願いがあります」


 アタルは土下座した。


 まあ結局レースだろう。それ以外思い浮かばない。


「砂漠をさ迷う亡霊を、どうか……どうか退治していただきたいのです」


「レースですね」


 まあレースだろう。しかし先回りして言うこと無いだろう、離凡。


「そうです。そちらのスタイリッシュな方の言う通り……レースで亡霊を退治していただきたいッッッッッ!」


 スタイリッシュ?


「…………スタイリッシュ?」


 岐阜が嫉妬を孕ませた目で離凡を見た。その視線を遮った菊池が必死で首を振ると、どうにか岐阜は踏みとどまった。まだ……理性はある。やはりゲームは人をダメにするのだろうか?


「そうまでスタイリッシュとおっしゃられては、引き受けるしかありませんね!」


 何調子に乗ってんだコイツ。





 矢印の方向へ向かうアタルに付いて行く。……なんかどっかで見た感じのガレージを含めて6軒のガレージがあった。


 離凡と岐阜のガレージ以外は、この場にいない3人の物だろう。


「プレイヤーの皆様であれば、こちらの遺跡を使いこなせるはずです」


「遺跡?ガレージでしょ」


 【連合ハマグリベース】にあったガレージと同じデザインだ。外壁に損傷も色褪せも無い。


「この遺跡は『ガレージ』と言うのですか。ふむふむ……」


 アタルはメモを取り出し書き込む。


「遺跡研究が大きく進みました。『ガレージ』と言う名称さえ私たちにはわからなかったのです」


 そうなんだ、と苦笑いした菊池は、ガレージのシャッターを開けた。


「ヒィィィィッッッッッ!」


 吸血鬼退治漫画のドブネズミのような悲鳴を上げたアタルは、うずくまって頭を抱えた。


「悪霊退散!悪霊退散!悪霊退散!」


 知らないタイプの人種の行動に戸惑う3人。


 スタイリッシュな動きで離凡が中に入り手招きすると、アタルは何事も無かったように入り口を潜る。


「チート付きで異世界転生して『さす離凡』されると、きっとこんな気持ちになるんでしょうね」


「……かなりキツいな」


「アタシ、死んでから異世界転生勧められても断ることにするわ」


「お3方ッッッッッ!何をのんきにッッッッッ!遺跡の扉が開くと悪霊が現れると言い伝えがあるのですよ!」


 悪霊が出てもどうせレースだろう。菊池は構わずガレージに入る。やっぱりよく知っているガレージだ。


「菊池さん……」


 離凡が菊池の耳元で呟く。


「洗面所の蛇口から水を流すの見せたら、アタルさんはどのようなリアクションするでしょうか?」


 カオザツのクソっぷりが感染したようだ。


「馬鹿なッッッッッ!」


 アタルは洗面所を指差す。


「キター」


「離凡君、そう言うの弄っちゃダメよ」


「洗面所があると思ったら……」


 ブルブル震えながらアタルは蛇口を掴んだ。


「センサーではなく蛇口を捻らなければ水が出ない……だと。古代人の文明は……意外とレベルが低いのか?」


 岐阜が菊池の顔を見て首を振った。怒らない。こんなことで怒らない。しかし、キレッキレの突っ込みをするつもりだったのに、岐阜の顔を見たら忘れてしまった。






「ほうほう……これは」


 上から目線と書いてある顔で、アタルはレース用ちくわ作成装置に触れた。


「旧式の生命養殖装置ですな。プッ、レベル低い」


 菊池は思わず破壊の杖を手に取り、菊池ストラッシュの予備動作に入った。食い意地、空腹、ストレス、3つの力から生み出される最強の必殺技、と言う中学生の頃に考えた設定だ。


「いや、待って。生命養殖装置って何?」


 怒るのはいつでもできる。聞くべきことは聞かねば。


「……えっ。……………………………………いや、よそからいらっしゃった方ですものね。常識に疎いのは仕方ありません」


 岐阜は思わず破壊の杖を手に取り、岐阜菊池流奥義らしき構えを取った。岐阜菊池流には杖術もあるらしい。


「暴力はまずいわ。とにかく聞きましょう」


 どの口で言うのか不明だが、菊池は(実際に振るえるわけでは無いのだが)ガチの暴力を止めた。






「遠い昔です。おいどんが生まれるずっと前です」


 薩摩隼人……じゃなかった、アタルが語り出す。


 要約すると『彼らは何らかの理由で滅びた古代文明の末裔』だと言う。


「それで、生命養殖装置ってのは何?」


「生命を養殖する装置です」


 アタルは頭に被ったターバンの中から実物ーー金属製の物体を出した。


 サイズは辞典くらい、形は弁当箱に近い。


「養殖してみましょう。ポチッとな」


 ボタンが押されると、最新式とアタルが謳う生命養殖装置がスライドし、トースターのようにちくわがはみ出した。


「もしよろしければ、指に嵌めてみては?」

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