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79 カオザツは眠っているッッッッッ! 設定ミスを修正 5/21

カタキの母親が市民団体にド嵌まりしてたの忘れてました。


ちょろっと加筆。

「クソォッッッッッ!どうしてボクに彼女がいないんだッッッッッ!」


 悲しい叫びが【連合ちくわベース】のサーキット前に響いた。


 そんなの知るか。離凡とカオザツの意見が、今日初めて一致した。三十六計逃げるにしかず。2人は世界記録を狙うつもりで背後へとスタートダッシュをキメようとした。


「逃げるんじゃねえぞッッッッッ!リア充ッッッッッ!」


 カタキと経緯は違えど同じ哀しみを背負うらしいNPCが、血涙を流しながら離凡の襟を掴む!


「ここは離凡さんに任せて、ワタシは先に進みますッッッッッ!」


 逃げ足と言う競技があれば、フォームだけならカオザツは金メダルであった。しかしNPCの包囲網が邪魔だったッッッッッ!


 カオザツは周囲を伺い、テヘペロォと醜く舌を出しながら離凡の元に戻る。


「(棒読み)ワタシのために争わないでぇ」


 この瞬間、カオザツのテキトーな一言で、離凡とカオザツのカップリングの可能性は完全に尽きた。


「ええと、ママノカタキウチさんで良いのかな?……嫌でなければ差し上げます」


 大男NPCに襟を掴まれぶら下がった離凡は、カオザツに向けてアゴをしゃくった。


「(棒読み)いやぁ、離凡さんッッッッッ!見捨てないでぇッッッッッ!」


「………………絶対無理かなぁ」


 青ざめたカタキは首を振った。女なら誰でも良いわけでは無いようだ。やれやれだぜぇ、とドン引きしたNPCもこの場を去って行く。彼らにとっても、カオザツはヒロインの条件を満たさないらしい。






 ログイン早々色々疲れた離凡は、側にあったベンチに腰掛けた。


 エヘヘヘヘヘと誤魔化そうとしているのが見え見えの愛想笑いを浮かべたカオザツが隣に座る。


「ひょっとして、ストーキングされてる?」


 カタキの質問に首を縦に振ろうとした離凡。カタキと離凡の間に無理やり顔を押し込んだカオザツは『妻です』、とあり得ないことを言った。


「一応ワタシと離凡さんは、同じ法……クランに所属してるんですよ!」


 カタキの表情が地獄を見たかのように崩れる。


「クラン……脱退したら?」


 事情を知らないカタキの助言に、離凡は考え込んだ。そして。


「この人のストーキングに耐えてでも、身に付けたい技術があるんだ」


「そうか」


 カタキは少し空を見た。


「よっぽど凄いクランリーダーなんだね」


「そうなんだ!凄いんだよ!とにかくちくわを疾走らせるのが上手いんだ!」


 離凡は立ち上がって身振り手振りで何かを表現しようとした。しかし表現が陳腐かつ貧困な上に的外れなので伝わらないッッッッッ!


 伝わらないのだが、楽しんでいるのはカタキに理解できた。


「良いなぁ……」


 カタキの背中が猫背になった。






「どうしてちくフルを?」


 何らかの致命的な地雷が存在するのは明白だが、離凡は聞かずにはいられなかった。離凡自身にも、他者から理解し難い事情があり、菊池との出会いで乗り越えるめどが付いた。


 話を聞くだけで地雷は爆発するだろう。それを示唆するかのように離凡の頭の後ろでカオザツが『この人ヤバそうです、逃げましょう、ダッシュッッッッッ!ダッシュッッッッッ!ダァァァァァッシュッッッッッ!』と、まるわかりなのにも関わらず忠告を繰り返す。


「昔、ね……」


 寒いわけでもないのにカタキは、自らの体を抱き締め震え始める。離凡は自分が予想した通り、後悔を感じ始めた。


「ボクは初期のころからちくフルをプレイしていた。ママとね……」


 軽く痙攣しながら話すカタキに、離凡は絶望した。これからする後悔は海よりも深い、と予感したからだ。


「昔はさ、ちくフル内にもね……学習塾があったんだ」


 この時代、VRゲームプレイ中の体感時間加速は当たり前だ。それを生かして年齢制限の内VRゲームには必ずと言って良いほど学習塾や予備校がテナントとして存在した。


「ボクはさ、ママが願った通りに医者か官僚か競馬の騎手を目指していたんだ……」


 医者か官僚……なら離凡にも理解できる。どちらも(過酷ではあるが)高収入と高いステータスの職業の代名詞だ。競馬の騎手と学習塾の関連性が離凡には理解できなかった。怖くて自分からも聞けない。


 ちなみにこの場でも語られない。カタキ自身もなぜ母親がそんなことを言い出したのか知らない。


 当時カタキの母親が付き合っていて……破局した愛人の影響なのだが、知らない方が幸せだろう。


「ママはさ……」


 カタキは目を閉じた。瞼の裏に何が映っているのか……できるだけ離凡は考えないようにした。カオザツは聞き流しモードに入っている。


「塾のテストで100点を取ると、凄く誉めてくれたんだ……」


 ちくフルの引退と言う選択肢が離凡の中に生まれた。


「そんなある日ね……ママが豹変したんだ」






 読んでいる読者が辛いと思うので、それ以上に書いている作者が辛いので、ダイジェストにします。


 菊池駿馬と菊池白菊にカタキの御母堂がレースで負け、その弾みで悪い方向にちくフルにど嵌まり。課金やRMTで家計が傾くほど散財し、夫婦中が冷えきって御母堂の男性遍歴がばれ……一家離散。御母堂は反ちくフルの市民団体に入って絶賛活躍中。


 上記の内容を、カタキは最大限美化して語った。カタキの語彙が薄いので離凡にも美化しているのがわかった。


 カオザツは眠っているッッッッッ!






「何て言ったら良いのか……」


 まさか菊池の名前が出るとは、離凡も予想外だ。


 カオザツは眠っているッッッッッ!


「1人になったボクは、競馬学校で腕を磨いた。復讐のためにッッッッッ!」


「競馬学校か、応用できる技術があるんだ……」


 離凡の問いかけに、カタキは力強く頷いた。話を逸らせるかも知れない、と離凡の目に希望が宿る。


 カオザツは眠っているッッッッッ!

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