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78 スーパークバリ新本店

 クバリが相変わらず箱乗りする軽トラの後を着いて、菊池たちはハイウェイを降りる。雇われ店長の群れも箱乗りで追って来た。


「ちくフルクオリティね……」


 ボソッと菊池が呟く。


「そうか、そう言うことか。これがちくフルクオリティ……」


 (元々いくらか壊れてはいたが)壊れ始めた岐阜が、うんうんと頷く。


 やっぱりこの人も鎌倉や仙台ほどじゃ無いけどおかしいんだなぁ、と菊池は脳内のメモの書かれた『岐阜は3人の中の良心』と言う項目を消した。


 ハイウェイを降りるとすぐ、スーパーがあった。スーパークバリ新本店と看板がある。


 駐車場にちくわを止めると……燃え尽きる。駐車の意味があったのか?


 雇われ店長の群れが乗って来た軽トラから子供たちが降りる。


「「「「「綺麗なお姉さぁぁぁぁぁんッッッッッ!」」」」」


 自分のことかと思った菊池はにやつきながら両手を広げるが。


「無事で良かったわね~♪よしよし♪」


 仙台、大人気である。


 オラオラオラオラと心の中でラッシュをかます菊池だが、トドメとばかりに仙台の額へ見えない矢を放つ岐阜を見て自重した。


 いったい何が。いや、コイツ……最初に切腹とか抜かしてたわぁ、と菊池は岐阜を狂人認定して自己解決。めでたしめでたし。


 そんな菊池を見て頷く鎌倉。ろくなのがいねー。


「そんじゃあ中に入ってやぁ」


 クバリが1番まともなのか、と自分を棚に上げているのに無自覚な菊池は誰にも聞こえないようにため息。


 そんな菊池を見て頷く鎌倉。頷いているのではなく、首の運動なのかも知れない。


 正面入口から新本店の中に入る。


『本日オープン記念につき全品無料』


 食欲と言う名前の獣を心に飼っている菊池は、さっそく入口付近に並んでいるこれまでのちくフルでは絶対あり得ないフルーツ類に飛びかかろうとした。


 しかし獣にも理性があった。【ハマグリ資本連合】の状況を菊池は思い出したのだ。


「ずいぶん景気が良いのね」


「日頃の努力やねん」


 いかにも農家らしい服装の痩せたおばさんから受け取った蜜柑を、乱暴に剥いて手近な子供に渡したクバリはつかつかと店舗の奥へ向かう。


 入口付近は青果コーナー。隣のパン屋から香ばしい匂い。


「好きなの食べなッッッッッ!」


 クバリの言葉を聞いた子供たちは、片っ端からパンを手に取りかぶり付く。菊池は踏みとどまった。


 フランスパンをかじった子供が咳き込む。菊池は背中をさすろうとしたが、自称綺麗なお姉さんが『この稚児は渡さぬ』と言わんばかりに滑り込む。


「大丈夫?綺麗なお姉さんがついているからね?」


 フランスパンで頭割れねーかな、と呟く岐阜。子供の咳は止まらない。






「おい誰かッッッッッ!この子に飲み物をッッッッッ!」


 クバリの怒鳴り声で店内が静まり反った。


 風が当たっただけで粉々に崩れ落ちそうなほど痩せた店員が……………………よりにもよって一升瓶を持って来た。ラベルは『星の完敗』だ。ノンアルコールの表記は無い。


「何考えとんねんッッッッッ!」


 クバリがビンタすると、痩せた店員はフィギュアスケートの選手のように3回転か4回転をキメながら吹き飛ぶ。


「10.0や」


 痩せた店員は積んである缶詰にぶつかった。酷い音が響く。


「笑うところやでぇ」


 鎌倉が真顔になった。岐阜も。仙台は近くの飲料コーナーに駆ける。雇われ店長の群れは揃って下を向いた。


「やり過ぎでは?」


 確かに『飲み物を』と言われて酒を持って来るのはどうかと思うが。


 顔をしかめた鎌倉が、缶詰の下敷きになった店員に向かおうとしたが、他の店員が救出していた。


「まあイベントにハプニングはつきもんや。次は鮮魚コーナーやでぇ。開店祝いに蟹をたくさん集めたんや」


 クバリが歩き出す。子供も着いて行く。雇われ店長の群れは、全員拳を震えさせていた。


「おいッッッッッ!心を入れ換えた……そう言ったやろ?行くでぇッッッッッ!」


「「「「「はいッッッッッ!ただいまッッッッッ!」」」」」


 雇われ店長の群れは一斉にクバリの後を行く。






「あっ、咳が止まらない稚児は……」


 仙台は飲み物を持って戻って来た。…………ただし強炭酸コーラであったが。


「稚児……子供のことか。一応止まったみたいです」


 その子供はクバリに手を牽かれている。こちらには見向きもしない。


「良ければこちらをどうぞ……」


 突然声をかけて来た猫背の男性店員が、発泡スチロールの器を菊池に差し出す。やはり男性店員も細い。菊池が硬いモノを爆食したときに発生する騒音で崩れてしまいそうなほどに。


「アンコウ汁です」


 器の中からの豊潤な香りはブラックホールのように菊池を惹き付ける。それでも菊池は踏み留まった。唇を強く噛んで、血を顎から垂らしながら踏み留まった。


「どうか受け取ってください。後で叱られてしまうのです」


 猫背の店員が震え、器からアンコウ汁がこぼれた。


 仕方なく菊池は受け取り、すする。


 味はする。まろやかでコクがある。しかし味わうつもりになれない。そばにいた岐阜に器を渡そうとしたが、自称綺麗なお姉さんが奪い取り……鎌倉に差し出す。しかもウインクで。


 鎌倉と岐阜は存在しない弓で、同時に仙台の額を撃ち抜く。だが仙台には効かないッッッッッ!


 この3人はリアルでどのような関係なのだろう。菊池が疑問を抱いたその時。






「マグロ解体ショーが始まるよぉ~♪」


 マグロの着ぐるみを着た……店員と思われるNPCが菊池たちの前を通り過ぎる。


 数メートル離れてから反転し。


「マグロ解体ショーが始まるよぉ~♪」


 再び通り過ぎて、反転。


「マグロ解体ショーが始まるよぉ~♪」


 これは鮮魚コーナーに行け、と言っているのだろう。4人はクバリを追うことにした。


 アンコウ汁は自称綺麗なお姉さんが美味しくいただきました。


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