77 ハイウェイ ~超展開を超えた超展開~
「パピィ~コイツら酷いんだぁ……雇われ店長さんがぁ」
ハイウェイの上で寄り添い合うモヒカン親子。
重低音の甘えボイスが、色違いモヒカンの口から流れる。
合流した菊池と岐阜、軽トラに乗ったクバリは示し会わせたかのように上に向けた片手を口元に寄せ、ろくでなしが歌うブルースのような表情をした。先行している鎌倉と仙台も同じ表情をしているかも知れない。
「泣くなマイサァン。ここは親子で……」
モヒカンに味方無し。これまでの経験でそれを知った菊池は、父親をガン見している色違いのモヒカンへアクティブシザーを飛ばす。避ける色違いモヒカン。その進行方向に菊池は飛び込み、リバース。
「パピィッッッッッ!」
色違いモヒカンは弾かれ、ハイウェイの下へ墜ちて行く。菊池に容赦無し。ムービーでも無いのに喋っているモヒカンが悪いのだ。
「岐阜さん、コイツらよりもヤバいのが出てくるはずよッッッッッ!」
岐阜の眉間のシワがさらに深くなった。
「『雇われ店長』ってヤツなんだけど「……さっき倒しました」
「……いや、けっこう良い疾走りするヤツで「……さっき倒しました」
「なかなかあいつしぶといから「さっき倒しました」
完全にまぐれではあるが、岐阜との衝突でリタイアしている。
「息子の仇ぃぃぃぃぃッッッッッ!」
くっちゃべってる2人に元祖モヒカンのアクティブシザーが飛ぶ。すんでのところで菊池はアクティブシザーえ防いだ。
「「卑怯なッッッッッ!」」
ちくライダーである菊池と、徐々に染まりつつある岐阜の叫びがシンクロする!
「お前が言うかッッッッッ!」
モヒカンはちくわを菊池に寄せた。菊池は受け止める。ぶつかり合うちくわとちくわ。火花が飛ぶのは……演出だ!
「岐阜さんッッッッッ!どういう状況?」
岐阜は少し考えて。
「かくかくしかじか、と言うわけですッッッッッ!」
わかったと菊池は頷く。『かくかくしかじか』で伝わったのは御都合主義であるッッッッッ!文字数の節約は大事だッッッッッ!
「アタシがコイツを引き受けるから……「ヒャッハー!」
遅かった。新たな合流地点から復活した色違いモヒカンが乱入。
「くっ、新手かッッッッッ!」
岐阜の動きはまだぎこちない。ちくフルに精神が染まろうとしていても、技術が着いて行かない。色違いモヒカンは子供たちが閉じ込められたデコトラの背後に回る。徹底的に守り切るつもりだろう。
「「「「「エア紙芝居ッッッッッ!エア紙芝居ッッッッッ!エア紙芝居ッッッッッ!」」」」」
コンテナの中で子供たちが叫ぶ。
「何?」
菊池が岐阜に問う。
「何だ?」
モヒカンも岐阜に問う。
「ねえパピィ、『エアカミシバイ』ってなあに?」
色違いモヒカンは、父親に問う。
「あんた、何か知ってるの?」
ちくわ同士がぶつかり合うことで生まれる火花の向こうのモヒカンを、菊池は睨み付けた。
「俺は何も知らねぇッッッッッ!」
読者諸兄はご存じだろうが、モヒカンはエア紙芝居については何も知らない。
「パピィッッッッッ!パピィに知らないことは何も無いんだろう?コウノトリが赤ちゃんをキャベツ畑に連れてくるのだって、パピィが教えてくれたんじゃないかッッッッッ!」
「菊池さんッッッッッ!かくかくしかじ「モヒカン野郎……知っていることを吐きなさいッッッッッ!」
岐阜の御都合主義は菊池には届かない。菊池はリバースで奇襲!読んでいたモヒカンはウイリー!赤いちくわの前部が、後部を擦りながら減速するモヒカンのちくわを潜る。
「だからかくかくしか「知っていても教えねえッッッッッ!」
モヒカンのアクティブシザーが菊池を狙う。菊池はクロックしながら自ら飛ぶ。ちくわと菊池の間を1対のアクティブシザーが通り過ぎるッッッッッ!
「かくかくしか「謎ワードの答えッッッッッ!吐かせてみせるわッッッッッ!」
菊池は鮮やかなロデオワークでちくわへ着地。
「かくかく「パピィ~今加勢するよぉ~!」
色違いモヒカンはデコトラの護衛をやめて、菊池に進路を変える。
「かく……これはッッッッッ!」
……デコトラは孤立していた。
ハイウェイは右へと曲がる。ただでさえ遅いデコトラがブレーキを踏んだ。
固まっていた岐阜に、減速したデコトラが前方から迫る。
ポンポコピー!
岐阜は青ざめた。ゲームとは言え、コンテナに子供を載せたデコトラを轢いたのだ。
《ムービーを開始します》
デコトラの後部が浮く。時間がスローモーションになる。
なぜか岐阜の隣に菊池。それだけではない。先行したはずの鎌倉と仙台も並んで疾走っている。
ムービーに関係なく岐阜の記憶が甦る。
幼い頃、稽古から逃げて倉に隠れた時。段ボールの中に見つけた骨董品のゲームソフト。
VRゲームが創作物の中にしか存在しなかった時代の、当時人気のあった野球アニメのタイアップ。
主人公はダ…………メジャーなリーグのピッチャー。背中に向く顔。あり得ない位置に立つバッター。試合展開に関係無く、アニメと同じ展開になる仕様。
幼き日々の思い出と現在が重なり合った。
ここからだ。ここから岐阜はちくライダーへの階段を登って逝くのだ。
「任せろ」
それは置いておいて、背後から頼もしげな声。軽トラ、軽トラといくつもの効果音。
「「「「「助太刀に来ましたッッッッッ!」」」」」
複数の軽トラは例外無く箱乗りで操作されている。運転手のネームは『雇われ店長』。全員が同じ顔で色違いの『雇われ店長』。
いや、訂正する。アフロが3人いた。
「「「「「クバリさんッッッッッ!心を入れ替えましたッッッッッ!」」」」」
なぜか満足げに頷くクバリ。
前方のデコトラは…………状況を無視してスローモーションで前に転がろうとしている。根拠も無くコンテナが開く。子供たちは飛んだ。いや、翔んだ。背中に羽根が見えるのは気のせいだろう、と岐阜は思った。
空中で一回転した子供たちは、それぞれ軽トラに降りて行く。
デコトラがハイウェイから落ちて、モヒカン親子が捨て台詞を吐いて、ムービー終了のアナウンス。
「皆さん、ワイの軽トラに着いて来ぃや」
クバリのデコトラが先行した。
「ねえ岐阜殿……」
仙台が岐阜に声をかける。
「少しやつれましたか?」
岐阜は無言で存在しない矢を仙台の額に放った。
リクエスト終了のアナウンスは、まだ流れていない。