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72 デコトラが真上に(以下略)

「どのデコトラだ?」


 岐阜の前を走るデコトラは7台。


 どれかに子供たちが乗せられている……はずだが。


「岐阜殿、わたくしに考えがあります」


 普段はろくなことを言わない仙台だが、緊急時には凄まじい閃きを見せるのを岐阜は知っていた。


「頼みます」


 並んだ塩ちくわ。2人は揃って頷く。
























「良い子のみんな~♪エア紙芝居が始まるよ~♪」


「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」


 歓声は先頭のデコトラのコンテナからだ。


 すげぇ……


 本当に仙台は(こんな時限定で)頼りになる。


「稚児らの居場所はわかりましたが、どうやって助けましょうか……」


「岐阜殿、お任せします」


「えっ」


「お任せします」


「……えっ」


「良い子のみんな~♪今から~♪カッコいい岐阜のお兄さんが助けに行くからね~♪」


 エア紙芝居は?


「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」


 子供たちよ、それで良いのか?


「おいッッッッッ!」


 本当に仙台は頼りにならない。岐阜が自分でどうにかするしか無いようだ。


 デコトラは大きい。当たり前だが。


 ちくわもそれなりに大きい。


 しかし、ぶつかればどうなるか。ちくライダーを名乗るどころか、初心者以下の岐阜に体当たり(チャージ)と言う選択はできない。実はクロックやリバースもろくに使えなかったりする。


 この物語が有名少年誌に掲載されている野球やサッカーやバスケットボール漫画とかなら、岐阜の身体能力や流鏑馬の知識が主人公補正で増幅されてうまいこと行くのだろう。


 残念だがこの物語はかなりギャグ寄りのVRモ…………モーター……………………スポー……ツ物のクソラノベであり、岐阜に主人公補正は無かった。救いはテニヌ漫画では無いことだろう。


 スペックと人間関係と社会性以外は凡人でしか無い岐阜は、どういうわけかちくわを大きく引き離さない程度の速度で走るデコトラを、慎重に1台ずつ抜いて行くことにした。子供たちの載せられたデコトラに近付かなければどうしようも無い。


 最後尾のデコトラの左のサイドミラーに映る位置を押さえて、小刻みに体を揺すりデコトラの反応を見る。ちくフルの乗用車は右ハンドルだ。デコトラはブレーキをかけながら、見辛い位置の岐阜に車体を寄せた。


 岐阜はちくわを左に寄せようとしたが、うっかり縁石に乗り上げ、前部を跳ねさせてしまう。


「良い子のみんな~♪カッコいい岐阜のお兄さんを応援してね……」


 仙台の声が遠ざかる。彼女は変わり身が早い。


 苛立ちながら岐阜は立て直そうとウイリー。後部がアスファルトに強く当たり、かえって跳ねが酷くなる。


「じゃじゃ馬ほどでは無いが……」


 馬のしつけほどの危機感は無い。問題はちくわを制御する方法を、岐阜は身に付けていないことだ。


「今、この場で制するのみッッッッッ!」


 後にリボン・サムライソードはこう語る。絶対馬のが難しいです……と。


 岐阜は両手それぞれのコントローラーを強く握り、ワイヤーを牽く。


「ハイヤッ!」


 馬、じゃなかったちくわの上にエスケープに設定されたくシートの上に立ち、身を右斜め後方に傾ける。

傾くちくわ。ちくわがあった場所へデコトラが寄せられ、縁石が吹き飛ぶ。


 あの後輪、材質は何だ?


 普通ならタイヤがパンクする。タイヤが損傷せず、縁石が壊れたのはちくフルクオリティである。


 いまだに跳ねるちくわの上で鋭く体を垂直に戻しながら岐阜は考えるが、金属製で無いことくらいしかわからない。


 それでも右方向にちくわを導く。デコトラが後ろに目があるかのように(実際、後部にカメラはあるのだが……)岐阜の前を塞ぐ。


 菊池なら道沿いの家屋をMリスペクトで登って屋根を疾走るのだが、岐阜にその発想は無い。






 ニャンニャンニャンニャン……






 岐阜は後方から猫の声を聞いた。


 振り向く。


 かなり遠い位置の仙台の後頭部が見える。彼女も振り向いていた。すぐさま顔を岐阜の方に向けたが、その表情は青い。


 その向こうの空に流星。


 ミサイル?






 ニャンニャンニャンニャン……






 いや、ちくわだ。ホーミングちくわである。


 仙台が必死でちくわを叩く。ちくわは馬では無い。


 遠く、疾走って来た道の先が赤い。風が吹く。微かに爆音。


 ちくわの形状のミサイルなのだと岐阜は判断した。


 詰んだな。


 岐阜は素直にそう思った。


 せめて手元に弓と矢があり、股がっているのがちくわでは無く愛馬なら……それでも詰みか。


 進行方向を向く。デコトラの後部が迫る。


「死なば、諸ともッッッッッ!」


 岐阜はちくわの向きを左の後輪に修正して、そのままデコトラに突っ込む。






 ポンポコピー!






 デコトラが真上に飛んだ。岐阜の頭上でコンテナの天井を見せ、フロントをアスファルトに打ち、そのまま転がる。


「仙台殿ォォォォォッッッッッ!」


 馬ならともかく、仙台のちくわ操縦技能では避けられまい。


「避けろォォォォォッッッッッ!」


 いや待て、なぜ自分は無傷だ?






 ポンポコピー!






 デコトラが真上に飛んだ。仙台の頭上でコンテナの天井を見せ、フロントをアスファルトに打ち、そのまま転がる。


「ん?んん?」


 まさか。デコトラは弱い?


 とりあえず、次のデコトラに接近。コーナーで速度を緩めたので体当たりしてみる。






 ポンポコピー!






 デコトラが真上に(以下略)






「岐阜殿、わたくしたちの連携も、けして捨てたものでは無いですねェェェェェッッッッッ!」


 調子の良いBBAがニッコニコで岐阜に近付いて来る。


 岐阜は目を逸らして考える。


 体当たりで吹き飛ばせるのは良いが、コンテナに載せられた稚児らをどう救えば良いのだ?

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