67 アクティブシザー再び
《これでアクティブシザーのチュートリアルを終了します》
「イケるか、嬢ちゃん?」
「もちろんよッッッッッ!岐阜さん、子供たちと鎌倉先生と仙台さんをお願い。【ちくわ資本連合】行けば、味方はいっぱいいるわッッッッッ!」
「それしか無いようですね」
暴徒の狙いは『菊池』だ。しかし子供たちを保護してからこの騒ぎになった。無関係とは……ちくフルクオリティだからあり得るのだが、巻き添えを受ける可能性がある。
(プレイヤーのマナー違反に対するNPCの挙動を除いて)このゲームでは残酷な表現は避けられている。ただほのめかす表現はある。またシナリオライターが気付いていないだけで、客観的に見て残酷な結果になる場合もだ。
「嬢ちゃん、なんか戦車出てきたで!アクティブシザーでも厳しいかも知れん!」
とうとう戦車まで出るとは。だが。
「それがどうしたッッッッッ!」
ちくわは、蟹100%のちくわは、疾走り出したら止まらない。
ピヨ。
シャッターが開く。
ピヨピヨ。
大通りの暴徒が菊池を見る。
「まさか、このシチュエーションで……」
ピヨピヨピヨ。
「蟹100%に乗るとはねッッッッッ!」
アクティブシザーが暴徒を薙ぎ払うッッッッッ!
チュートリアルによると、アクティブシザーは人にぶつかっても怪我させない素材でできているから安心だとのこと。またアクティブシザーに弾かれて壁や物や生き物にぶつかっても安全らしい。ちくフルクオリティ!
「菊池はここにいるぞおおおおおッッッッッ!」
ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ……
アクティブシザーで作った道を、赤いちくわが疾走る。
《ちくわフィンガーのチュートリアルを開始します》
モーセが割った海のようにできた道を少しずつ加速するちくわに股がりコントローラーを咥えながら、左手の親指を除いた4本のちくわを暴徒に向ける。
チュートリアルに従い、左目に浮かぶ赤い4つのマーカーを暴徒の中の手近な4人に思考操作で重ねる。ロック完了。
『喜 怒 哀 楽 恐 虚』
6つのアイコンが意識内に浮かぶ。なんとなく『楽』を選択。
「「「「アヘェ~」」」」
対象となった暴徒NPCは丁寧に松明を地面に置いた後、アへ顔ダブルピースッッッッッ!
「凶悪過ぎる……」
レースでこれをやれば一発終了だろう。あのモヒカンリーダーはよく自重したものだ。
「「「「「菊池ッッッッッ!何をしたッッッッッ!答えないなら吊るしてやるッッッッッ!」」」」」
暴徒が迫る。
ちくわはまだ20チクワンに届かない。ちくわフィンガーを向け、近付くNPCを片っ端からアへらせる。するとちくわフィンガーの先端が焦げた。無限に使えるわけでは無いらしい。
ちょっと困った。
アクティブシザーでや☆さ☆し☆くNPCを吹き飛ばしても問題は無いが、ちくわそのもので轢くとクエスト失敗と、説明文に書いてあった。
「どんどんレースゲームから、かけ離れていくわね……」
暴徒を避け家屋に向かってウイリー、そのままMリスペクトで壁を疾走。松明を投げようとするNPCをちくわフィンガーでアへらせる。
それにしても、どうしてこうなったのだろう?
全ての始まりは菊池駿馬(とその仲間……菊池白菊は当然含まれる)による、当時敵対していたPTAへの経済的な攻撃だった。【ホタテ産業保護区】の住民は相場の乱高下に巻き込まれただけ……まあ自業自得なのは理解している。
報復にしても、もっとやり方があるだろう。それよりも通貨のジンバブエ化に対処すべきだ。公式だってテコ入れしても良いだろうに。
いや。テコ入れとしてレガシークエストを利用したのか?
ちくフルクオリティだから……あり得るッッッッッ!
とにかく今は囮を演じなければならない。レガシークエストの目的は『子供たちの救出』なのだから。
何からの『救出』なのかは不明だ。誰が立ち塞がるのかは、すでに想像はついている。
「出て来なさいよッッッッッ!」
いちおう怒鳴って挑発する。ちくフルクオリティなのだ。どこかのタイミングでヤツも蟹100%のちくわに乗ってくるはずだ。
壁から屋根に登り、見下ろしながら疾走る。
ドーン!
何の効果音だ。ちくフル的に考えれば爆発物では無いだろう。ちくわの排気音がヒヨコの世界だ。
ニャンニャンニャンニャンニャンニャン……
猫のじゃれ声。空には円柱状の何かが舞う。
何かは方向を変えて菊池に迫る。
「何、何、何なのッッッッッ!」
円柱状の物体の後部からバックファイア。まさか。
「ちくわが追いかけてッッッッッ!」
菊池を追尾するちくわの弾丸を、慌ててアクティブシザーで弾くと爆発。屋根が吹き飛ぶ。
《建造物の破片や瓦礫はプレイヤーやNPCにぶつかってもケガしない安全な素材でできています。それらの下敷きになってもケガはしません。お父様、お母様、ご安心ください》
「コンプライアンスッッッッッ!」
そう言うとこがちくフルクオリティッッッッッ!
ドーン、ドーン、ドーン!
ニャンニャンニャンニャンニャンニャン……
ニャンニャンニャンニャンニャンニャン……
ニャンニャンニャンニャンニャンニャン……
効果音に突っ込む前に、発射元を叩くべきだ。
安全なはずの瓦礫から逃げ惑う暴徒の隙間を縫って、菊池は発射音の出所を目指す。
ピヨピヨピヨピヨピヨピヨ……
建物の向こうからちくわの排気音。
少し先のY字路で合流するはずだ。
来たか。
「お久し振り……お前かッッッッッ!」
「ヒャッハーッッッッッ!」
『鮭を独占する会』のモヒカンとは予想していなかった。しかも蟹100%のアクティブシザー付きでちくわとは。
並走する菊池とモヒカンは、ちくわフィンガーを向け合う。




