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65 スタグフレーション・チルドレン その3

「菊池が疾走れる道なんざ無ぇんだよッッッッッ!」


 サーキットで、やはり塩ぶっかけを食らった。


「ペッ、ペッ……疾走るの子供たちなんだけどッッッッッ!」


 塩ちくわを思う存分疾走らせたい気持ちはあるが、今は子供たち優先だ。


「まさか住民はレースできないとか……言わないわよね!」


 よくよく考えてみると、NPCが自主的にレースをしてるのを見たことが無い。プレイヤーのクエストに登場する形のみだ。


「子供?」


 サーキットの職員は値踏みするように子供たちを見る。


「早く言えよ……」


 さすがに子供たちに塩ぶっかけをするつもりは無いようだ。ブチ切れ寸前だった鎌倉の拳が緩む。


「ずいぶんいるな。でもちくわがあればお客さんだ。まずは1列に並んでね~♪」


 職員が笑顔を見せた。存在しない腰の刀に手をかけエア居合切りを行おうとしていた岐阜の手がだらりと下がり、すでにエア射撃を行っていた仙台は存在しない弓を降ろした。


 コイツらがややこしくしているのでは、と菊池は思ったが……言葉には出さなかった。


「それじゃあ良い子のみんな~♪ちくわはあるんだね~♪」


「人数分は用意できなかったわ」


「そりゃ、この人数だものな。レースで素材や資金を集めてどんどん造ってくしか無いな。『菊池』じゃ無ければ市場でも売ってくれるだろう。子供だからオマケしてくれるかもな」


 菊池はホッとした。


 が。


「それじゃあ、先頭の子から『身分証』を出してね~♪」






 身分証?






「アタシら、そんなの出したこと無いけど」


「あんたら『遠い場所』からやって来た『プレイヤー』は、この大陸の住民に四六時中監視されてるからいらないんだ。住民がレースやタイムアタックをするには身分証が必要なんだ」


 なんだ、その設定はッッッッッ!


「【国際ちくわ機関】が決めた規約ではそうなってる。良い子のみんな~♪身分証の内容は絶対に悪用しないから安心してね~♪悪用すると……おじさんは家族ごと処刑されちゃうんだ……」


 ディストピアかッッッッッ!


「さあ、()()()()()()()身分証を持ってるはずだよ。無くしても世界中どこの役所でもすぐに発行してくれるし、サーキットの職員……おじさんが役所に電話すればピザの配達よりも遥かに早く役人が届けてくれるから、お名前教えてね~♪」


 役人の待遇がブラックッッッッッ!


「ねえ、どうしたのボク?身分証を無くしても、お名前を教えてくれれば、3秒で役人に持って来させるよ……」






「ボクら……コセキ持って無いんだ」






 職員の目付きが汚物を見るモノに変わった。ニュー人類並みの反応で鎌倉が職員の前に立ち塞がり、光の速さで放たれた塩を独りで受け止める。


「浮浪児が疾走って良いサーキットは無ぇんだよッッッッッ!」





















「おじさん、おばさん……ごめんね。ボクら、みんな捨て子なんだ。気が付いたときには、地下水路で暮らしてた。本当の名前もわからないんだよ」


 1番歳上の男の子のネームは『Aー1』だ。シナリオライターの手抜きと判断していた菊池は、これまで突っ込まなかった。


「謝る必要なんか無いわ」


 子供たちが地下にいた経緯がわからないから、親や社会のせいとは言えない。


「悪いのはシナリオライターよ……」


「何を言っているの……白菊のおばさん……」


 ついメタ的な発言をしてしまった。


「困ったわね」


 ここまでで、子供たちに関するクエストは始まっていない。何らかのフラグが欠けているのだろう。いくらちくフルクオリティでも、貧しい子供を見殺しにするような展開にはならないはずだ。なったらなったで炎上させるつもりだが。


「白菊先生。もしもですが……あくまでももしもの話です」


 鎌倉が深刻な顔をしている。


「稚児らを……私の養子にすれば……」


 菊池は鎌倉の口を手で塞いだ。変な期待はさせない方が良い。


「受け入れてくれるNPCを探しましょう」


 言っては見た物の、菊池に心当たりは無い。


 ちくフルクオリティの分際でノーヒントだなんてッッッッッ!


「白菊先生、気付いたことがあるのですが……」


 岐阜が渋い顔で言った。


「【ホタテ漁港】は1ヶ所を除いて回りました。他の地区への移動を考えるべきです」


 ここでは無理だと、岐阜も感じたのだろう。


「いや、待って。1ヶ所回っていない所って、どこです?」


「地下水路の、稚児らが暮らしていた場所の奥です」


 確かに探していない。何かがあるとは思えないが。


「……ガラクタしか無いよ」


 Aー1が言った。


「そうだね。ガラクタしかないよね」


 別の子供ーーBー1も言った。


「うん。ガラクタだけだね」


 Cー1も。


「ガラクタばっかりだよ」


 Dー1も。


 以下略。






「白菊先生、岐阜君、仙台君。私はね、最近若者の文化を勉強しているんだよ」


「「さすが鎌倉先生ッッッッッ!」」


 いきなりなんだろう、といぶかしげな顔をした菊池は、姑属性メンチビームを浴びた影響で『(棒読み)素晴らしいです』と賛同した。


「特に『お笑い』と言う物が興味深くてね。古典の映像を調べてみたんだ」


 何が言いたい。


「3人組のグループが『押すな、押すな』と言うのがとても印象深かった。稚児らは『ガラクタしか無い』と言うが……これは『押すな、押すな』と同じことでは無いかね?」


 怪しい、って普通に言って欲しい。

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― 新着の感想 ―
すんなり子供たちが走る幸せ展開にはならぬのですかー!?…世知辛いの世の中じゃー!。゜(゜´Д`゜)゜。<ちくわの様に、心にぽっかり穴が空きそうです〜(←マテ) 次回のガラクタに期待ですね!(☆▽☆) …
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