58 時には列車のように
「何で追い付くんだ?チートかよッッッッッ!クソ、菊池めえええええッッッッッ!」
「カタキ、何もかも菊池のせいにしちゃダメだ。このクエストに菊池は関係無い」
光線銃の言う通りである。
「ありゃあ、やっぱ越えてんな」
当たり前のことだが、12チクワンで疾走る3人に追い付くにはそれ以上の速度を出さねばならない。
「エスケープ、ターンリフト、レフトスカート、ライトスカートに続く第5のシートっつうわけだ」
鼻提灯が3人をすり抜け、ぎこちないコーナーリングで先を行く。
「光線銃、仮にこのクエストでアレが手に入るとして……」
報酬の中には含まれてはいない。
「使いこなせる気がしないね」
プレイヤーが仰向けに寝て疾走れるのか疑問だ。
「アレなら、全ての菊池を倒せそうだ」
前向きだこと、と軽口を叩いた毒皿は浅くダウンして減速。そのままインベタで緩いコーナーを抜ける。イヤミと判断し苛立ったカタキはウイリーでちくわを擦って減速して毒皿の軌道をなぞり……いや、さらに際どいコーナーリングで追うが衝突直前でストレートに入り引き離される。
「落ち着きなよ」
軽々と横に並んでなだめた光線銃だが、ストレートで遅れる。
「そうだ。協力して追うぞ」
このストレートは長い。ある方法で鼻提灯に追い付ける。
「カタキ、クエスト失敗で満足できるか?」
「クソが。………………どうすれば良い?」
次に抜かれるのを待つのはあまりにも消極的だと、カタキは理解したようだ。
「1列に並んだらウイリーで8チクワンまで減速しろ。ちくわの角度は変えるなよ」
「わかった」
毒皿、カタキ、光線銃の順に綺麗に並ぶ。
「行くぞ」
言われた通りウイリーで減速。8チクワンまで減速してちくわをフラットに戻すと。
ポンポコピー!
背後から光線銃が接触、いやドッキング。
「ライクアトレインッッッッッ!アンチPTAカテゴリはしないって「そのまま角度を変えるなッッッッッ!」
光線銃とのライクアトレインで一気に18チクワンまで加速したカタキのちくわが。
「トリプルライクアトレインだッッッッッ!」
前を疾走るの毒皿のちくわにドッキングッッッッッ!
「3連結なら21チクワンまで加速するぜッッッッッ!」
ライクアトレインは最大10本までドッキングできる。速度の上限は21チクワンとなる。
「おっしゃ、居眠り野郎が見えて来たぜッッッッッ!」
鼻提灯は次の右コーナーに入ろうとしている。
「今だッッッッッ!」
「任せろッッッッッ!」
光線銃がリバース。前のカタキのちくわの後部が弾かれアウトに流れた。毒皿のちくわがアンダーステアを起こしインへ向かう。
熟睡しているはずなのに、まるで後ろに目があるかのように鼻提灯のちくわが大きくダウンし後部を浮かせる。毒皿とカタキはその下を潜る。
「まだだッッッッッ!」
そこで毒皿はクロック。時計回りの回転に弾かれたカタキのちくわが、荒いダウンの影響で後部を跳ねさせながら進む鼻提灯のちくわへと向かう。
「ふざけんなあああああああああああああああああ」
ポンポコピー!
《クエストを達成しました》
《ムービーを開始します》
なぜか屋台の前にいる3人。鼻提灯全開で眠りこけている店主のちくわもある。
パチンと鼻提灯が弾けて、店主が目を覚ましちくわから落ちた。
「大丈夫ですか?お怪我はございませんか?」
キャラ崩壊としか思えない口調の毒皿が店主を起こし、姫君のように抱き抱えて屋台の陰の椅子に座らせた。
「まあ、これはこれは。お見苦しい所をお見せしました。面目無い」
小汚ないオッサン店主が、軽く握った拳で自分の頭を優しく叩き……テ☆ヘ☆ペ☆ロッッッッッ!
「失敗は誰にでもございますわよ。オホホホホ……」
どこから取り出したのか、薔薇の絵が書かれた扇子で口元を隠した光線銃が貴族女子風の笑いを響かせる。
「ねえねえボクちんオナカ空いたでしゅぅ~☆」
祈るように両手を胸の前で合わせ、内股で体を揺するカタキ。
オッサン店主の寂しい頭部が、イケメンが笑顔を見せた時の歯の如く輝く。
「そうですわ。こちらの精進料理、いかがでしょうか」
鰻の蒲焼き……に見せかけた別の何かをオッサン店主が差し出した。
「うわーい☆美味しいなぁ☆」
《ムービーが終了しました》
「好きなだけ食べて行ってくださいまし」
「「「鰻じゃねーのかよッッッッッ!」」」
突っ込みたい事は無数に存在したが、まずはそこからだ。
「モノホンの鰻は有料だぜ」
オッサンの口調が貴族女子風から外見にふさわしい物に変わった。
「いくらですか……」
光線銃が唾を呑み込む。
「そうだな。居眠りで迷惑かけちまったし……干しハマグリ100個でいいぜ」
光線銃はありったけの干しハマグリを差し出し、屋台へダイブッッッッッ!
「カタキ……見るんじゃねえ。食い方が汚すぎてR18だぜ」
「うわぁ」
ああはなるまい。カタキは心の中で誓いを立てた。
「とりあえず光線銃は放っておくとして……店主さんよぉ、この空間の出口はあるのか?」
店主は黙って指を鳴らすと、天井から螺旋階段が降りて来た。
「いつでも来な。居眠りしてたら起こしてくれや」
約1名を放置して2人は階段を昇る。
「どうしても突っ込んでおきたいことがある」
カタキは震える声で言った。
「言ってみろ」
「………………何なんだよあのムービーはッッッッッ!」
ライターの書いた脚本に言わされたのだ。けしてキャラ崩壊では無い。
「ちくフルクオリティだ。まだマシな方だ」
そう。
ちくフルクオリティである。
「レースはアンチPTAカテゴリ使ったから無理だがな、せっかくだしムービーを投稿しようぜ」
「ふざけんなッッッッッ!」
結局カタキの部分がカットされたムービーが、数日後に毒皿によって投稿された。バズるどころか閲覧者一桁で終わったのは別の話。
「それと、さっきのなんなんだよ!何でボクを弾き飛ばしたんだッッッッッ!」
「クエストを達成するにはアレしか思い付かなかった。そうだ、お前があの居眠り野郎にチャージしたんだったな。お前の勝ちだ。おめでとさん」
「そんなの喜べるかあああああッッッッッ!」
毒皿に掴みかかるカタキだが、螺旋階段の上下から警備員風のNPCが複数涌いてきて2人を拘束した。
「とりあえずオラ、鰻出すよ」
ブチ込まれた反省室には、すでに光線銃が待機していた。巻き込まれて反省室送りになったのだ。
「悪ぃな。俺、お茶淹れるわ」
「何で呑気なんだよッッッッッ!捕まったじゃないかッッッッッ!」
「お前が暴れたからだろう」
「クソがあああああッッッッッ!」
その時、反省室の畳が裏返る。そこから警備員が飛び出した警備員がカタキを拘束した。
「痛たたたたたッッッッッ!」
カタキを放置し、2人は裏返った畳の下を覗いた。




