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55 CとD

「狭いッッッッッ!」


「くっ、光線銃が太り過ぎて通れないッッッッッ!」


「何やってんだあんたらッッッッッ!」


 反省室の畳から下へ伸びる縦穴を3人が降りて行く。やや太めの光線銃がどうにか通り抜けて底にたどり着き、毒皿と『ママの敵討ち』が後に続いた。


 その空間は……サーキットだった。


「ちくわの音が鳴ってたから予想はしてたがよ」


 毒皿たちはコースを歩いて行く。何か濃厚な匂いがした。


「タレみたいなべとつく匂いがする。何らかのクエストかな?」


 光線銃は寿司をアイテムボックスから出した。


「状況的にそうだろうな……食ってんじゃねえよ。…………匂いをおかずにするな。寿司は寿司で食え」






 ピヨピヨピヨピヨ……


 ギリギリギリギリ……






 コースの果てでちくわが吼える。


 何やら硬い物を擦るような音も聞こえた。


「どっちのクエストなんだ?」


 『ママの敵討ち』は2人を交互に見た。


「ボクは何のフラグも立てていないぞ。だいたいログインしてリアルじゃ3時間経っていないから」


「初期村でチュートリアルやって、直でここに来たのか?」


 チュートリアルの報酬を全額突っ込めば【連合ハマグリベース】にはどうにか来れる。


「普通は初期村ーー【シジミ自治区】で素材集めてから、近場の拠点を回るもんだがよ」


「初期村は過疎ってるし、菊池が1人もいないから仕方ないさ」


「チュートリアル以外にレースをしていないんだな?間違いないな?」


「ボクがレースで闘うのは菊池だけだッッッッッ!」


「……案外わからんぞ」


「オラもそう思う」


 ちくフルのクエスト発生条件は、VRモノのライトノベルの影響が強いと言われている。


『チュートリアル終了後、一切レースをせずにかなり離れた【連合ちくわベース】でいきなり反省室』


 ネット小説ならチートスキル獲得間違い無しだ。





()()()よぉ、お前はちくわ持ってるか?」


 毒皿はすでにレースへと心の準備を始めている。光線銃が色々食べ始めたのも……多分そうだろう。


「イワシならある……って『カタキ』って何だよ?」


「母性を感じない人間を『ママ』なんて呼びたくねえぜ。カタキ、お前がクエストのトリガーの可能性がある」


「母性って何だよ……」


「毒皿の言う通りだ。オラたち何度も反省室に入ったけど、畳の下に通路なんて出たことないぞ」


「通算100回目とか1000回目とかじゃ無いの?」


「100回目ん時は花束を渡されたな」


 毒皿はアイテムボックスから枯れた花束を出した。


「1000回目はカニの缶詰だったぞ」


 光線銃は開封済みの缶詰を出した。


「それがトリガーじゃ……無さそうだね」


 ママの敵討ち改め、カタキが指差す。





『う』





 サーキットには明らかに場違いな屋台の、暖簾に書かれている文字だ。匂いもそこから流れてくる。


「この匂いはタレ「鰻だあああああああああッッッッッ!」


 毒皿が言い終わる前に光線銃が暖簾を潜った。


「カタキッッッッッ!止めるぞッッッッッ!」


「えっ?」


「ちくフルのシナリオライターにヤバいレベルのジ●リファンがいるッッッッッ!」


「それが?」


「タダ飯食おうとしている光線銃の巻き添え食いてえのかッッッッッ!豚にされてえかッッッッッ!身を粉にして働く娘なんざいねえだろッッッッッ!」


「いくらなんでも……」


「もう光線銃のせいで3回豚にされてんだッッッッッ!」


 ちくフルクオリティである。


「やめろッッッッッ!光線銃さんッッッッッ!勝手に食べちゃダメだッッッッッ!」


 タレたっぷりの蒲焼きを口に入る寸前で、2人は光線銃の暴走を止めた。


「オラの鰻ぃ……」


「テメー、アイテムボックス開けんなッッッッッ!」


 ぶちこまれようとした蒲焼きを、そっと網の上に戻す。


「これで本当に豚にならないんだな?」


「だと良いがな。おーいッッッッッ!誰かいねえかッッッッッ!食おうとしたのは光線銃だッッッッッ!俺たちじゃねえぞッッッッッ!」


「もし豚になるとどうなるんだ?」


「レースに勝つまで豚だ。メリットは何ひとつ無い」


「……」





 とりあえず名前を奪われたりとか豚にされたりとかはなかった。


「カタキ。ちくフルはストーリーをまともに受け取ると世界一のクソゲーに成り下がる。遊ぶならほどほどにしとけ」


「ストーリーに意味なんていらないよ。ボクの苦しみをあんたら菊池に味わわせるまで、どこまでも続ける。それと、カタキって言うな」


「そうかい。ゲームってのは恨み節でやるもんじゃねえがな……」


 周囲を見渡して屋台の持ち主がいないのを確認した毒皿は、地面に座り込んだ。


「お前、ワールドクエストの経験は?」


「何それ。どこぞの有名MMOじゃあるまいし、ちくフルに……「「あるんだよ」」


 沈黙。カタキの唾を呑む音。


「俺と光線銃はすでに経験している」


「何が言いたいの?」


「復讐がしたければいつでも言え。俺がお前の気の済むまで受けてやる。だがな、そう言う気持ちでワールドクエストを受けないでくれ。ワールドクエストはちくフルユーザー全員に影響する」


「そう言う気持ちでって、クエストはクエストだろ?」


「今の【連合ちくわベース】で起きているインフレは俺の「毒皿、お前のせいじゃ無いぞ」


「インフレ?」


「ああ、知らないのか。今【ちくわ資本連合】では素材の価値が異常に上がっているんだ。ちっとばかり供給にしくじっちまってよ」


「だからお前のせいじゃないぞ、毒皿。取引したNPCが上手だった」


「何を言ってるのかわからないよ」


「そうか。そうだな。ワールドクエスト達成で得られる物には責任が伴うって話さ」


「ふうん。ここで受けられるクエストは……凄そうってことか」


「まあな」


「受けなければ?」


「恐らく俺たちは2度と受けられない。発生条件も変わるだろう」


 カタキは腕を組んで天ーー正確には天井を見上げる。


「……忠告を聞いておくよ。何の罪も無い人に迷惑をかけたくないし、ちくフルの沼に自分から嵌まるつもりも無いさ。来た道を戻れば良いのかな?」


「察しが良くて助かる……」





 ピヨピヨピヨピヨ……


 ギリギリギリギリ……





 ちくわの音が近付く。


 擦る音もだ。


 3人は距離を取る。


 ちくわが横切る。


 運転手はちくわに仰向けで寝ている。鼻には鼻ちょうちん。


「「「えっ?居眠り運転?」」」





《クエスト【お客さん、来たら起こしてね】を受注しますか?》


「ただのクエストじゃないかッッッッッ!」


「……ただのクエストみてーだな」


「ただのクエストだ。オラ、鰻食べたい」

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