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サーキットに魚介が薫る  ~レーシングちくわに乗った菊池~  作者: 都道府県位置
フォーリングサーモン ライジングリボン
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52 道険し

【連合ハマグリベース】はアメ横に無理やり港を付けたイメージ。

「この海はもう安全だ。白菊ちゃん、鮭と各種鱒の水揚げは任せてくれッッッッッ!」


「「「「「あんたのために命を賭けるぜッッッッッ!」」」」」


 漁と水揚げと市場への運搬は、助けたNPCが中心になってやってくれるらしい。本来ならスタッフとしてNPCを雇用しなければならないのだが、菊池はほとんどのNPCからの好感度がやたら高いので……ちょっと『お☆ね☆が☆い』すれば格安で簡単に引き受けてくれた。





「リアルでも……こんなに上手く行けば良いのにね」


 リアルの職場は………………しんどい。


「お仕事が辛いなら……菊池サン、ワタシのアシスタントになりませんか?」


「カオザツ……あんたみたいにね、人と人との仲を取り持つのは誰にでもできることじゃ無いのよ」


 菊池のコミュニケーション能力は低い。ランカーでなければ相手にされないだろう。


「指1本で、月10万として……」


 カオザツは右手の指を全て折って、伸ばして、さらに折った。


「ごめん。お金の問題じゃ無いから。お金だけで生きていけるほど、アタシ器用じゃ無いもの」


 ため息をついて食堂の窓から外に目をやると、『菊池企画』とマーキングされた巨大漁船が港を出ようとしているのが見えた。クエストの最初で乗った船はチュートリアルのために貸し出された物だ。レースに負ければ船は手に入らなかったのだろう。


「そんで、【ホタテ産業保護区】に行くわけ?」


 菊池は、海鮮丼が入っていたはずの丼を名残惜しそうに見た。離凡はログアウトしている。自分の海鮮丼を奪われ続けて拗ねた。


「菊池サンは反対ですか?」


「通貨の干しホタテはさ、確かにあそこで生産されてるのよ」


 ちくフルの通貨は干貨(かんか)ーー干した貝類が使用されている。発行しているのは各自治体。当然使える地域も種類によって変わる。


 菊池が設立した『菊池企画』で雇用した数十人のNPCは干しホタテでの支払いを認めてくれた。しかし【ハマグリ資本連合】では菊池が知る限り食用以外の需要は存在しない。この辺りを拠点にしているプレイヤーもあまり使わないはずだ。


()()()でも干しホタテが弱いのはわかるわよね?」


 ちくフルの世界全体でも干しホタテの通貨としての価値は低い。例えばハマグリなら、1個両替するのに最低20個は要る。


「仮に、カオザツが考えるように……さっきのワールドクエストに続きがあるなら、ホタ産では無いと思うわ」


「根拠を聞きたいです」


「公式はワールドクエストを受けるプレイヤーにちくフルの改革をさせようとしてるんじゃないか、とアタシは思ってる」


「まあMMOの秩序はプレイヤーが作って行くべき、とは思いますけど」


「干しホタテを1兆持ってるアタシらが、今の素材枯渇の状況でジンバブエ化しているホタ産に行けばどうなるかわかんないわ」


 NPC同士の繋がりは広い。誰かが大金……大貝を得ればすぐに伝わる。


 公式が目指しているのは『改革』であって『秩序の破壊』では無いはずだ。プレイヤーは客だが、運営行為の妨害をすればアカウント凍結などの措置を執るだろう。


 営利団体が運営しているのだ。『お客様が邪神(かみ)様』でも許さないはずだ。


「まあ、ホタ産でも何かは起きてるかも知れないけどね」


 【ホタテ産業保護区】にはちくライダーはほぼいない。あまりちくライダーが好む素材が水揚げされない。せいぜい鱈くらいか。


「駿馬さんは、あそこが好きでしたね」


「だから()()なったのよ」


 過去に菊池駿馬が大暴れした影響もあるだろう。【ホタテ産業保護区】はNPCはランカーを嫌う傾向がある。


 拠点にするプレイヤーのほとんどは釣りか刺身が目的だ。


「北西には他にもあるでしょ」


 【ホタテ産業保護区】の先には、【貝類禁漁区】と言うエリアもある。


 【貝類禁漁区】には自治体が存在しない。しかし高難易度のコースと、ちくライダーに匹敵する実力を持つNPCが複数存在する。


「あそこの住人はモヒカンほどじゃ無いけど、『ヒャッハー』してるわ」


 レースの時に意味も無く鉄パイプを持ったりする。ちくわであっても、運転中に暴力を振るえばコンプラ違反だ。ちくわでのチャージは、フィクション性が高いから許されているのだ。


「今回みたいに、いきなりチーム戦じゃキツいわ」


「面目無い。でも離凡サンは頼りになりませんか?」





 もしも菊池が、これから何年もちくフルを続けられるなら面倒を見れるが。


「少なくとも彼に『菊池企画』は渡せないわ。カオザツ、アンタにもね。ちくライダー中のちくライダーにしか後を任せられない」


「難しいですね……」


 後継者にふさわしいちくライダーは何人か浮かぶ。確かに難しい。カオザツが考える理由とは別の意味で。


「どうして菊池サンには人望が無いのでしょう……NPCの間では人気者なのに。あっ、ちくフルの世界に転生すればどうです?」


「ブッ殺すわよ……」


 人間関係の問題以外にも、すでに菊池と同じように法人を設立している可能性を考えるべきだ。ちくフル内ではクランなら吸収合併はできる。法人のヘルプにはできるかどうか載っていなかった。


「ワールドクエストに賞味期限とかあるかも知れないけど、それより仲間になってくれるちくライダーを探さなきゃ」


 店員が新たな海鮮丼を2人の前に置く。そして一瞬で消失。店員が離れる前に追加しようとして。


「あっ、そろそろアタシもログアウトしなきゃ」


 連休終了まで、残り10時間。色々疲れたしぐっすり寝たい。


「次は……2週間以内にログインする…………と思うわ」


 一応菊池の中の人は社会人だ。


「日、月、火って休みなのは珍しいですね。祝日でも無いのに」


「会社の都合よ」


 勤めてる工場で事故があり、作業を止めざるを得なかったのだ。


「そんじゃお疲れ~」


《ログアウトしました》





「いや~リアルの食事は侘しいわね……」


 ドカ食い防止低カロリープレートを細々と味わいながら情報端末を起動させる。


 会社からメールが来ていた。


「何々……アタシにメールなんて珍しいわね」


 彼女は平社員である。せいぜい忘年会と新年会のお知らせと、(ドカ食いゆえに)遠慮の要請のメールくらいしか来ない。


「早期退職者……募集?」


 工場の事故は死傷者は出なかったが深刻らしい。

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