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サーキットに魚介が薫る  ~レーシングちくわに乗った菊池~  作者: 都道府県位置
フォーリングサーモン ライジングリボン
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47 この爆破に巻き込まれると、リタイア扱いになります

 ウインドウのレース準備を押すと、コースのピットインに移動した。


「うわっ、なんか透けてるウインドウが顔の前に出て……見辛いッッッッッ!」


「チーム戦ですから。同じチームで通信できるんですよ」


 ウインドウにカオザツの顔が映る。驚いた離凡が尻もちをついた。


「……離凡サン。本当に大丈夫ですか?」


 ちくフルの、ちくライダーを含めたプレイヤーのほとんどは、初心者に親切だ。よほど反抗的な態度を取らない限りは、クランに一時加入させて初心者を卒業できる程度まで面倒を見る。


 もし新規プレイヤーからクラン加入を断られてとしても、できるだけフレンド登録してもらっていつでも相談や質問を受け付けるのだ。


 不届き者はいるが、プレイヤー間での暴力的な行為はもともとできない仕様だし、揉めそうになると絶対にNPCが割って入る。


 ちくフルにはNPCが介入できない空間は存在しない。仮にプレイヤー2人で小舟で大海原に乗り出し口喧嘩を初めても、海中から多数のNPCが小舟に乗り込み取り押さえる。


 それでも嫌がらせの手段はある。例えば大人数で囲んで移動を阻害する、など。





 話がだいぶ逸れてしまった。


「まさかとは思いますけど……チーム戦の経験が無いんですか?誰も声をかけてくれなかったんですか……」


 気まずそうに離凡はカオザツから目を逸らす。


「誰だって最初はぼっちの初心者よ。あんたもアタシも、離凡君もね」


 苦虫を噛み潰した顔のカオザツへ菊池が言う。カオザツの顔が青ざめた。


「菊池サン、このクエストを諦めても失うモノが無いなら……「カオザツを失うじゃない」


「……ぐぬぬぬ。ワタシ、責任は取れませんよ」


「それじゃ行くわよ!」






 勢い良くちくわに向かったのは良いものの、3人はコントローラーを持ったままピットインで待機する。


「別にタイムや周回数を競うんじゃないから。相手をリタイアさせるのが勝利条件だし」


 ピヨピヨピヨピヨピヨピヨ……


 メインストリートをチーム『モヒカンと人質』が通り抜ける。


「1周およそ8分ってとこかしら」


「地下の空間はそれほど広くないんですかねぇ?」


 地下へのスロープに『モヒカンと人質』が駆るちくわが入って、体感3分前後で操舵室のエレベーター前の吹き抜けからちくわが真上に飛んだ。


「縦に飛ぶなら、Mリスペクトが前提になるのかしら?」


 ちょっとしたジャンプならあった。某公道最速漫画のいろは坂編のようなエグい跳躍もある。しかしモヒカンのように20mは跳んでいるように見える。


「案外地下には他のルートもあるのかも知れません」


「あのジャンプはショートカットとは限らないのね」


「……」


 離凡は菊池とカオザツのコース考察に口を挟もうとするが、何も浮かばず結局黙った。


「まあ行ってみるわ」


 鮭100%のちくわをゆっくり押して、動かしてから乗る菊池。チーム全員でわざわざ同時に疾走する必要は無い。今回のようにチーム一人一人の実力差が大きく、連携に期待できない場合は特に。


「PTチャットでコースの解説しながら疾走るわ。アタシが1周してからどのタイミングでスタートするか指示する」


「了解です」


「僕、がんばります」


 手を振って応え、菊池はメインストリートに合流。少しずつ下るコースを進み、思ったより緩いコーナーを攻める。


「想像以上に速度が伸びないわ。逆に離凡君には疾走りやすいかも」


 鮭は下り坂では速度が伸びない。じれったいが悪くは無い。速度が乗らなければコーナーは曲がりやすい。離凡のコースアウトの心配が減る。


「そろそろスロープに入……」






《【菊池 白菊】は電波の届かない地域に入りました》


「「えっ?」」


 なんじゃそりゃあ。


 腹から血を流したジーパンの刑事のように叫びかけたカオザツ。


「電波?電波って、電波?」


 アナウンスを聞いてパニくっている離凡を見て、落ち着きを取り戻す。


「離凡サン……大丈夫ですよ。菊池サンがリタイアしたら即終了ですから」


 菊池に限らず、誰がリタイアしても即終了となる。


「そうか。そうですね。待っていればそのうち……」


《ただいまより100秒後にピットインを爆破します……ピットインの爆破に巻き込まれると、リタイア扱いになります》


「「えっ?」」


《残り99秒……98秒……》


 カオザツは、手のひらを天に向け、顎の前に置いて舌を出してから慌ててちくわを疾走らせる。ドッキリなどちくフルには無い。離凡も後に続く。


「早く早く早く早く……」


 カオザツがメインストリートに合流。10秒遅れて離凡も。爆破まで残り20秒。






《ムービーを開始します》






 カオザツと離凡のちくわが並ぶ。


 背後からいつものヒヨコ音。


「おいおい、コースに出てきて良かったのかよ~」


 ちくわフィンガーのモヒカンが並ぶ。ちくわフィンガーの手にはコントローラーは握られていない。後続の過積載ちくわ2本も、誰かが操作している様子は無い。


 ピットインで爆発。爆発音はサンバ風だ。


「あそこで終わっておけば良かったって、きっと後悔するぜぇッッッッッ!」


 ちくわの嵌まった指が前に向けられ、過積載ちくわが2人に迫る。


《ムービーを終了します》






「何でいきなり後ろに来るんですかッッッッッ!おかしいッッッッッ!」


 ワールドクエストはそう言うモノなのだろう、とカオザツは離凡に言い返したかったが、言い争いになりそうなので黙っていた。


「離凡サン、前に出てッッッッッ!」


 ダウンで減速し、離凡の盾になる。しかし過積載ちくわはあっさりカオザツを避けた。


 雄叫びと助けを呼ぶ声があがる。


「まずは1匹、最初で最後の1匹だぁぁぁぁぁッッッッッ!」


 正面は120度くらいの長目の左コーナー。ぎこちなく曲がろうとする離凡へ、アウト側から叫ぶ過積載ちくわが衝突。押されたせいでオーバーステア気味にインに向かうが、そこには別の過積載ちくわが。


「ヒャッハー」


「助けてー」


 ここは通さねえ、と言うオラつきと悲鳴。


 意外にも離凡は冷静だった。スムーズにリバースが発動。アウトの過積載を弾いて、そのままインの過積載を抑えながらコーナーを抜けた。





「……いや、結構上手いですね」


 自分よりも上手いのでは?


 カオザツは胃に痛みを感じた。

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