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サーキットに魚介が薫る  ~レーシングちくわに乗った菊池~  作者: 都道府県位置
フォーリングサーモン ライジングリボン
43/93

43 この鮭漁はフィクションです。ご了承ください。

調べた情報を元に、想像だけで書いています。



「やっぱ鮭かしらね」


 歩きながら話す。


 イワシは論外。嫌いでは無いが。


 エビは山ほど食べたい。食べたい、食べたいが……離凡に向かない気がする。


「鮭ですか。イクラ、美味しいですよね」


「アンタが乗るちくわの素材なんだけど」


 この男は何をしにちくフルにログインしているのだろう?


 そうだ。体操のトレーニングのためだった。





 菊池、離凡、カオザツは漁業組合の受付で法人設立の手続きを依頼すると、職員に部屋まで通された。


 部屋は広い。壁にはなんか見たことのある絵画。足元にはなんか虎の毛皮。テーブルの上には……


「菊池さん、これ……クリームソーダですよね?」


 カオザツがグラスをシャンデリアの光にかざす。


「……飲めばわかるわよ」


「菊池さんは飲んだじゃないですか。一瞬で」


 アイスクリームだろうがあ●きバーだろうが菊池は一瞬で消す、いや食べる。


「もっと飲んでみないとわかんないわね……」


「そうかも知れませんわね」


 カオザツもクリームソーダを一瞬で消した。


「クリームソーダの何がおかしいんですか?ああ、クリームソーダを一瞬で飲み干すのはおかしいですけど」


「離凡君……死ぬ?」


「……………………いえ、違います。バグを疑ったんです」


 ド●クエ知らないのにバグは知ってんの、と突っ込もうと思ったが止めた。


「クリームソーダなんて、ズズズズズ……今までちくフルで、ズズズズズ……見たこと無いですね、ズズズズズ……」


 すでに氷だけになったグラスの中を、ストローでソーダを探し求めるカオザツがお嫁に行けない態度で答えた。


「ミネラルウォーター(事実上のただの水)しか無いわ。フルダイブで味覚の再現はたいへんだからね」


 おでんを食べたければちくフルにログインしろ。そんな格言があるくらいこのゲームは食べ物に力を入れている。


「VRで炭酸を再現するのって難しいらしいわ」


「他のゲームでコーラ飲みましたけど、ズズズズズ……あのシュワシュワに規則性ができて、ズズズズズ……違和感がすごいですよ、ズズズズズ……」


「うーん、やっぱりもっと飲んでみないと、違いがわかんないわねぇ~」


「そうですね。ワタシももっと飲んでみないとわかりませんね……」


「………………どうぞ」


「離凡君、ごめんなさいねぇ~別に取り上げるつもりは無かったんだけど……」


「離凡さんは優しいですね~、ありがたくいただきます……」


「「おい待てコラァッッッッッ!」」


 2つの両手がガッチリと1つのグラスを掴む。


「カオザツゥ~テメーさっき客席で色々食ったろうがぁああああああああああッッッッッ!」


「菊池サンが叙述トリックで消したんでしょうがああああああああああッッッッッ!」


「アタシが食べた描写っぽいのがどこに隠されてんだよッッッッッ!」


「それは神のみぞ知るってヤツですッッッッッ!存在しない記憶を受け入れてくださいッッッッッ!」


「すみませぇぇぇぇぇんッッッッッ!どなたかクリームソーダをもう1つぅぅぅぅぅッッッッッ!」





 騒ぎに気付き駆け付けた職員によってクリームソーダが運ばれて来た。複数、いや無数ッッッッッ!


「うーん、やっぱりもっと飲んでみないとわかんないかなぁ~」


「一瞬で消えちゃいますもんねぇ~」


 わんこそばのようにテーブルにグラスが積み重ねられる。


 いよいよテーブルに置き場が無くなったとき。


「すみません。お待たせしました~」


 いかにも苦労人、と言ったビジュアルのNPCが部屋に入って、頭部の哀しい部分の汗をハンカチで拭きながら菊池たちの向かいのソファーに座る。


「本日は法人設立と言う事で……」


 菊池がグラスの上で書類にサインする。


「あっ、なんかクエスト始まったわ」


 苦労人のお辞儀を背に受け、3人はクエストの指示通り港へ向かう。






「鮭ですから、川ですよね?」


 港から出た船は海原を進む。


「どうなのかしらね?」


 ド●クエを知らなくても鮭が川を昇るのは知ってんのか、と思いながら菊池は釣竿をスタンバイ。


「菊池サン。どうして『世界を釣る』つもりになってるんですか?鮭は川に昇ったとこを網で一網打尽にするんでしょう?」


「カオザツ……この大海原のどこに川があんのよ?」


 あるはずが無い。


「その……釣るのは良いんでしょうけど……鮭釣りって何を餌にするんですか?」


 離凡が釣り針から目を逸らす。


「えっ?」


 すでに釣り針には()()()が刺さっていた。


「そう言えば、鮭って釣ったこと無いわね……」


 ゲーム中ではカツオやマグロが多い。鯛は釣れなかったが、なぜかアンコウが良くかかる。


 リアルでは、釣りに取れる時間そのものが無い。


「……離凡さんの言う通り、先走り過ぎです。クエスト名は【鮭を水揚げしろ】なんですよね?『釣れ』では無いんでしょ?NPCの皆さんも釣竿スタンバって無いですし」


 カオザツの言う通り、船の乗組員らしきNPCはのんきに談笑している。


 一応出港前に聞いてはみたが『行けばわかる』とか『元気があれば何でもできる』としか言われていない。


「まさか……プロレスを?」


 ちくフルにそんな機能は無い。


「とりあえず顎を闘魂にして燃やしますね」


「菊池さん、カオザツさん、突っ込み切れません」





「魚影が見えたぞッッッッッ!」


 NPCの一人が叫んだ……しかし、他のNPCは動かない。


「さてと……」


 サングラスをかける菊池。


「いや……菊池サン。なんか意識内にウインドウ出てます」


「僕にも見えますね。水中です」


「ホントね。視点が動くわ。右横に鮭。左横に鮭。下にも鮭。上は水面と鮭……後ろは……船?」


「この船で群れを追っているんでしょうか?」


 3人で船首に向かう。カオザツが有名な沈む船の映画の真似をしようとしたが、残り2人はスルー。


「だいたい50mくらい先?魚群っぽいのが見えるわね」


「現実の鮭漁もこんな風に魚群の影が見えるんでしょうか?」


 離凡がうっすら銀色に光る魚群を指差しながら菊池に問う。


「……どうなのかしらね?ゲームだから水中の影が見えるんじゃないかしら」


 ちくフルに限らずフルダイブ式VRゲームは、脳内の毛細血管に常駐する医療用ナノマシンを利用してプレイヤーに映像を送る。実際に目を使わないから弱視でも全盲でもプレイできる。


 ちくフルではプレイヤー全員の視力は2.5に設定されている。リアルでそれ以上の視力を持つ人は(日本ではまず存在しない)、プレイ中に視力が下がると不利になるので、公式に申請すると視力を上げてもらえる。


「ひょっとして、漁師ってみんな目がいいのかしら?」


「どうなんでしょうね」


 菊池も離凡もリアルの漁師のことなんて考えたことも無かった。


「ちょっと!菊池サン、離凡さん、せっかく船に来たんですから船首でそれっぽい事しましょうよッッッッッ!」


「客船ならわかるけど、今乗ってるの漁船よ」


「それっぽい事……」


 離凡が何か考え出した。


「調理場に行って、セ●ールっぽい行為をしてきましょうか?」


















 離凡は滑った。


 菊池とカオザツは何も言わずに意識内のウインドウを見る。2人の目が変な風に動いた。


 自分はボケキャラじゃあ無いんだ。離凡は少しだけ大人になった。


リアル鮭漁師の皆様、鮭ばかりでなく全ての漁師の方。


いつもありがとうございます。


どの漁も調べれば調べるほど苛酷な事だけはわかります。


どうかお体をお大事に。

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