41 白熱する実況
時は遡る。
『さあ菊池。いよいよ本気だッッッッッ!』
『ん~菊池のフィギュアヘッド、絵になりますね~。なんと言いますか、戦闘ロボットを女体化したような、そんな尊さを感じます』
『えっ?』
『えっ?』
『……』
『ん~。菊池、真剣な表情ですね~。アンチPTAカテゴリがもっと出るかも知れませんね~』
『いや、ちょっと、珍しい技が出ました。Mリスペクトです。ここのガードレールで行くとは……効率が悪いんじゃあ……』
『ちょっとリプレイ見ますね。ん~速いですね~。もしかするとフィギュアヘッドでMリスペクトすると路面への復帰の効率が良いかも知れませんね~』
『これはちょっとした発見になるかもですね。菊池は隠れて練習したんでしょうか?』
『どうでしょうね。Mリスペクトを練習できる環境なんてそう無いはずですから、ん~コーナーに長いガードレールや壁があるコースは意外と少ないですよね~。まさかメインやバックのストレートの壁と言うわけでも無いと思いますよ。まっさらな壁でMリスペクトをしても、コーナーのガードレールに応用できるとは思えませんし』
『ですが菊池は努力型のちくライダーとされてますよね、ひらめきで実行して成功するタイプではありませんから。おっ、いま32LAPに入りましたッッッッッ!』
『速いですね~。非公式でも序盤を上手くやれば菊池駿馬を上回ったでしょうに。ん~』
『いえ、ここからでしょう。…………えっ、嘘だろ?』
『まさか、このヘアピンでッッッッッ!』
『アンチPTAカテゴリ第3弾ッッッッッ!』
『『12.1ッッッッッ!』』
『いや、待って、次の直角コーナーこの速度で、えっ、クロックで行けんの?素材カツオでしょ?マカジキでしょ?』
『んおおおおおおおおおおおおおおッッッッッ!』
『クロックしつつフィギュアヘッドに以降ッッッッッ!ガードレールッッッッッ!当たる前にちくわを曲げッッッッッ!Mリスペクトッッッッッ!』
『インのガードレールを無理やり……失礼、洗練されつつありますね、ん~』
『その後のスラロームは……交互に路肩に乗り上げながら進みます。次のS字の減速も兼ねてるんでしょうか』
『上体を小刻みに上下させてアスファルトへの衝突を避けてますね。ちくライダーは様々なところから動きを盗んで、ちくわ操縦に生かすのですが……何の動きでしょうね~』
『菊池は、彼女に限らずちくライダーはスポーツとは無縁の方が多いです。せいぜい釣りくらいしかしません』
『いえ、水泳をなさる方は多いですね、ん~。素潜りは水泳の範疇には入りらないかも知れませんが』
『まあログイン中に銛を片手に海に入るプレイヤーは多いですしね。私もこの間【アワビ自治区】で小判鮫獲りましたし』
『菊池は一本釣り漁船に乗ることが多いと聞きますからね~、釣り竿の動きにインスピレーションを受けたのかも知れませんね、ん~』
『そうですね。釣り餌用のイワシを買い食いしながら物色した、との情報がありますね』
『誘ってくれませんかね~ん~』
『実況や解説がプレイヤー……特にちくライダーにプライベートで関わるのは……おっと菊池、S字入りました』
『理想的なアウト・イン・アウトですね。これは……』
『菊池、ボタンを長押し……出ますか?』
『最初のコーナー、半分過ぎて……』
『ここでリバースッッッッッ!その回転を生かして背後に飛ぶッッッッッ!ロデオワイヤーが伸びきってリワインドッッッッッ!慣性に従いS字後半をちくわは曲がる。シートに着地ッッッッッ!』
『『これが12.1ッッッッッ!』』
『進行方向へのシートへの着地によってちくわはわずかですが、たった0.1チクワンですが加速しますッッッッッ!たった0.1でもスペック以上の加速を得るッッッッッ!』
『それがアンチPTAカテゴリ第3弾、12.1です。12チクワンの状態で使えば12.1チクワンになるんですよ、ん~』
『通常のリワインドに見えますが、かつて絶対王者として君臨していた菊池駿馬が、親御さんと同伴のお子さんを、この12.1でぶっちぎって泣かせ、日本各地のPTAを怒らせた曰く付きの技ッッッッッ!先ほど『第3弾』と言いましたが、フィギュアヘッドと12.1はセットです。12.1はフィギュアヘッドが前提になります』
『誤解を招く解説誠に申し訳ありませんでした。ですが12.1までやるとは思いませんでしたね。ん~しかし当時の……お子さんを泣かせた駿馬サン、よくアカウント剥奪されませんでしたね……ん~』
『菊池駿馬ーー以後駿馬とさせていただきます。当時の彼はちくフルの顔と……おっ、また菊池が12.1ッッッッッ!』
『12.1は主にコーナー後半からストレートへの立ち上がりで使われます。ん~わずかな加速でも積み重ねれば大きな結果になるのです』
『菊池との対戦は、視界に彼女を入れるよりも視界から消えてしまった方が危ないんですよね』
『そうですね~。今回のような非公式レースでは、状況によって徹底的にアンチPTAカテゴリを使って来ますから。ん~』
『もしこんな消極的な戦術で菊池……に限らず、ちくライダーを相手にするなら蟹系素材は使うべきではありませんね。ちくライダーの闘志に油を注ぐことになります。今の菊池のように思い切ったことをしてくるでしょうか。記録に残らない状況はちくライダーのひとかけらの良心を奪い取るのですから……』
『全くもってその通りです。私は結構ね、万智緒は善戦したとは思います。現在32LAP……ここまで持ったんですよ。一般のプレイヤーなのに30周持って……ん~追い付かれるまで40LAPかかるんじゃないかなぁ』
『ある意味……万智緒は一般プレイヤーの中で最強と言って良いと私は思います。レースが終わったら、皆さん万智緒に温かい拍手を送ってあげてください』
『ちくフルに限っては、一般プレイヤーとちくライダーとの間に限っては……よっぽどのことが無ければ逆転はあり得ません。ロデオワークができるかできないかで、ちくライダーかそうでないかが決まります。そこまでの差があるんですよ』
筆が遅くてすみません。




