33 カオザツは生き延びることができるか?
次回投稿時には入院してると思います。
みなさん、どうか体をお大事に。
予約投稿できるほど書けませんでした。
申し訳ありません。
プレイ料月2000円の設定を忘れていました。
修正しました。
「そうですか、法人ですか」
口を押さえてデュフフフとカオザツは笑う。陰キャ系ギャグ属性の仕草のせいで、いやおかげで、ほとんどのプレイヤーは彼女をウザいだけのサンドバッグ女と判断させる。
だが菊池は知っている。知り合って7年くらいの間に、何度か利害が一致して役に立ってもらった時にこの女の怖さを思い知った。
「あんたに利益ある?」
あるのだろうとは思ったが、あえて聞く。多分、多少は予想もしていたのだろうと思う。でなきゃ蟹系素材を競りに出すくらいで声かけなどしまい。
「あんたが法人のリーダーになっても……」
「誰も着いて来ませんよ。デュフフフ、ワタシは自分を理解しています」
広く、浅く、目立たず、さりげなく、裏から、誰にも恨みも妬みも買わず、警戒すらさせずに、最小の労働力で、それなりの利益を、途切れることなく定期的に。それが『顔を合わせれば雑談するくらいの友人』ーーカオザツ。
彼女はリーダーシップを取るタイプでは無い。上に立てば下の人間に振り回されるだろう。舐められるのを武器に生きてきた者は、他人に何かを任せることができないものだ。
「優れたちくライダーに、菊池さんの後継に立って貰えると素晴らしいと思うんですよ」
いかにもこれからトリックを暴きます、と言った声色でカオザツが言った。
「後継って……大げさよ」
「サービス開始からやってる100位以内のランカーは、もう10人もいないでしょう?」
そんなにいないか、と菊池は指折り数える。
「昔は『菊池』さんがいっぱいいましたよね」
サービス開始初期は自動でプレイヤーネームを選ぶと、必ずと言って良いほど『菊池』姓が付いた。公式のスタッフの大半が菊池姓だったから、お遊びでそうしたと言われている。
「現役の『菊池』って言えば、ほとんどの方はあなたを連想するはずです」
首をひねって考えても、他の『菊池』を菊池は思い浮かべることができなかった。
「ベテランで著名で実力のあるちくライダーって、もうあなた以外いないんですよ」
現在のドライバーランクの100位以内で、引退者以外のほとんどは後から来たプレイヤーだ。3年目が多いと菊池は思う。
「菊池さんはワールドクエストを受け、見事達成したと言いましたね」
レガシークエストの存在はカオザツには伏せている。どうせ察しているだろう。必要ならこの時点で勘ぐるはずだ。
「ここ3ヶ月でワールドクエストがですね、ワタシが知る限り98件発生しています。その中でクエスト達成は22件です」
菊池は10年続けて2件のみ。他人が発生させたと言う話は7件知ってる。嘘の可能性はあるが……
「多い。そう思いません?」
「多いかどうかはなんとも言えないけど……」
菊池の情報収集能力は一般プレイヤーよりも低い。ログイン率が少なく、食べ物のトラブルをしょっちゅう起こすので……人間関係を上手く結べない。ゆえに他者から情報が回って来る機会が少ない。
「思うんですけど、公式はちくフルの改革を行おうとしているのでは?」
「大型のアップデートを企画している、って言いたいの?」
最後の大型アップデートは、駿馬の引退直前だった。
「アップデートはもう済んでるはずです。プレイヤー自身でワールドクエストの達成と言う形で行わせたいのだと思います」
「改革ね……」
「プレイヤー自身で、素材の流通を管理して欲しいんですよ。公式はね」
以前駿馬が言っていた。プレイヤーによる公式だの運営に依存しない自治が行われているVRMMOの方が、RMT業者は介入し辛いと。
ちくフルはRMTが多い。業者は菊池にも接触してきた。断った……いや、業者を名乗るプレイヤーの目の前で秒間t単位で様々なマグロを消費して見せたことによりドン引きさせたと言うのが正しい。
菊池はRMTが嫌いだ。絶対につまらなくなる。
しかしちくフルにはRMTを行うプレイヤーはいる。外見が大きく変わらないように、数%だけ蟹素材を混ぜたレース用ちくわは多い。ちくわをサーキットで疾走させれば、ちくライダーは必ず見抜く。
「公式そのものがRMTを仲立ちするオンラインゲームはありますが、どこもサービスの寿命が短いです」
オンライン、それもVRで10年続くゲームは少ない。ファイナル●ァンタジーには及びはしないが、中堅の上澄みとの自己主張が許されるほどの地位がちくフルにはある。
何よりちくフルが恐ろしいのは、他のゲームより廃人や廃課金者が少なく、ゲーム内の広告収入でのみ運営できている事実である。ほとんど全てのプレイヤーはプレイ料金以外に1円も払っていないのだ。
また世界観がいい加減で個性あるNPCが非常に少ないので、ちくフルを題材にした同人誌が存在しないのもスポンサーからの高い評価に繋がっている。
だからちくフルの広告料は群を抜いて高い。それゆえ数が少なくて済む。エンドコンテンツのレイドボスが鎮座する洞窟の壁に『このネックレスで札束風呂』とか『オ・ト・コの活力アップ』とか、世界観を凌辱するような広告は一切無いのだ。
「ちくフルが無いと困るんですよ。ワタシはしょせん紹介屋ですから。失業したら……経歴が白紙の履歴書を面接官に見せなきゃならない……」
他人事なのになぜか菊池は胃痛を感じた。
「ちくフルが無くなると……カオザツは生き延びることができるか」
「ロボットアニメみたいな言い方やめてください」
「あまりに深刻そうに言うから、つい」
「深刻でしょ。少なくとも【連合ハマグリベース】の流通は止まってるんですから」
交流掲示板を見て、と言われて菊池は開く。
「うわ。どこを見ても『バグ』とか『プリーズ詫び石』とか『引退宣言』ばっか……」
こりゃこのままじゃ簡単に引退できないな。菊池はいくらかでもちくフルに貢献しようと決めた
ご唱和ください。
ゴッドリピンッッッッッ!
次回投稿は3週間後、退院してからになります。
これまで読んでくださった方、申し訳ありません。




