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31 声に出して読み上げたい日本語 ゴットリピンッッッッッッッッッッ!

「菊池さん……本当にオークションに出すんですか?」


 【連合ハマグリベース】の中央市場にて。


 フレンド登録はしていないが、『顔を会わせれば雑談するくらいの友人』が言った。


「だっだっだっだっだっ……出すわよ」


 未練たらたらの菊池は立ったまま痙攣を始めた。


「ちょっ、大丈夫ですか?」


 顔を会わせれば雑談するくらいの友人ーー略してカオザツが菊池の肩を掴んで痙攣を止めた。『顔を会わせれば雑談するくらいの友人』はこのプレイヤーのネームである。


「大丈夫よ」


 非常にか細い希望的観測だが、菊池は漁業権を利用してそう遠くない未来に蟹を獲得できるとにらんでいる。





 菊池が漁業権を持つイワシ漁場のG1、シャケ漁場のG1、エビ漁場のG1。


 A、B、C、D、E、F、Gで7番目。


 駿馬のレガシークエストの前編の達成者は5人。駿馬の残した動画には蟹が並んでいた。


 菊池が『G』なのは偶然では無く、他に漁業権を持っている者が6人いるとして……その1人が駿馬だとしたら?


 漁業権の果てに蟹食べ放題とちくわ作り放題があるとしたら?






 蟹100%ちくわに乗りたいィィィィィッッッッッ!


 アクティブシザー使いたいィィィィィッッッッッ!


 たらふく蟹を食べたいィィィィィッッッッッ!






 今持っているだけの蟹では菊池の欲望を満たせない。


 もちろん最後のひとつも……


 プレイヤー『菊池』の感覚では、満腹感を得られぬVR空間では、たかがトンを越えぬ量など『たらふく』とは言わない。







「本当に競り(オークション)に出すんですね?ワタシ……買っちゃって良いんですねッッッッッ!」


 カオザツは菊池と同じ人種だ。ちくライダーと言う意味ではない。ドカ食いと言う意味でだ。


 涙を堪えてうなづく菊池。


「よっしゃあああああああああッッッッッ!」


 カオザツが飛び跳ねて()(にん)の元へと、ちくわ顔負けの速度で走る。


 競り人が右手を上げた。


「では菊池白菊さんが出品した蟹系素材、平均品質33。一箱1Kgずつ……で箱単位の購入で……一箱干しハマグリ10億個から……」


1,()100()000()000()ッッッッッ!」


 競りに参加したNPCが1億1千万個とコール。


 『ピン』とは数字の『1』を指す。数字の『1』が男特有の器官がピィィィィンとライジングする光景を連想させるから、と言われている。


()000()000()000()ッッッッッ!」


 カオザツが吠えた。一気に突き放すつもりらしい。


 『サン』とは『3』……まんまの意味だ。『マル』とは『0』は見たまんまだ。


「|()800()000()000()ッッッッッ!」


 『ダリ』が『4』、『パ』が『8』。『48』でダリッパ。言ってみたくなる言葉だ。コールしたプレイヤーがニヤニヤしているので冷やかしだろう。


 ちなみに今回は下8桁は省略されている。


「ピンマルゥゥゥゥゥッッッッッ!」


 『ピン』と『マル』で『10』。『4,800,000,000』から『1,000,000,000』に下がったのではない。下9桁省略になったのだ。『10,000,000,000』だ。倍額以上であるが。


「ゴットリピンッッッッッ!」


 野獣のようにカオザツが吠えた。


 『ゴットリ』は『神』でも『GOD』でも無い。何かの勇者やロボットでも無い。確かに某有名ロボットの大戦に出そうだが、『5』だ。ピンが付くので『51』となる。


 ……『51,000,000,000』である。


 …………5倍以上である。


 他にコールする者はいない。


 カオザツは左手を開いて前に出し、右手を真横に伸ばして、股を45度に開いてポーズをキメた。彼女の脳内では『ゴットリピン』はスーパーロボなのだろう。






 うわぁ、わかってたけど頭がおかしい……


 競りに出しておきながら、菊池はドン引きした。もちろん自分を棚に上げている。


 完全に流通が死亡しているとは言え、低めの品質なのにここまで伸びるとは。


 競りが進むうちに、やや低品質の蟹の相場はさらに跳ね上がった。元々持っていた分に、レガシークエストと【イワシを届けろ】の報酬を合わせて200Kgは、競りで干しハマグリ3兆個を大きく越えた。


 端数の半分は手数料プラスご祝儀として競り人に渡した。もう半分は勝利の宴のために調理され、ホクホク顔の菊池の胃袋に入るはずだが……


「菊池さ~ん、ひとくちッッッッッ!」


 山盛りのハマグリの佃煮に、カオザツは手を突っ込んだ。明らかにひとくちを越えた量が、意地汚いカオザツの口の中に消える。






「てめえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッッッ!」






 戦争。


 もしもちくフルが一般的なVRMMOハクスラアクションであれば、一般のプレイヤーごと消滅させる凶悪な一撃が放たれただろう。


 幸い、ちくフルにはPvPやPKなどは実装されていなかった。そして菊池は通貨を勢いでばらまくのでNPCの好感度が非常に高かった。


「「「「「シラギクちゃんを守れええええええええええッッッッッ!」」」」」


「ちょwwwwwおまwwwww」


 瞳に¥……じゃなかった、干しハマグリを映したNPCがカオザツを取り押さえる。


「どうしてくれようか……」


 干しハマグリは通貨だが、食材でもある。


『たくさんあるんだから、ちょっとくらい』


 菊池自身が他人にそうたかるのは仕方の無いことだが、他人がそれをするのを彼女は許しはしないッッッッッ!


「ごめんなさい……返すからッッッッッ!シジミにして返すからッッッッッ!」


 カオザツは選択を誤った。シジミではなく……アワビであったなら……


有罪(ギルティ)ッッッッッ!」


「「「「「死刑ッッッッッ!死刑ッッッッッ!死刑ッッッッッ!死刑ッッッッッ!……」」」」」


 干しハマグリに染まったNPCがシュプレヒコール。


「ヒィィィィィ……」


 と言ってもプレイヤーを死刑になどできない。HPの概念が無いのだから。


「別に怖いとも思ってないのに、ビビった振りしないでよ……」


 菊池がNPCをなだめ、カオザツを解放させた。


「いやあ、ノリで」


「それと……………………持ってるんでしょ?干しアワビ」


 山盛りの干しハマグリが菊池の口に消えた。

Q どうして『4』が『ダリ』なの?


 トルコ語の4(ドルトウ)がなまったと言う説が有力らしい。


 他の説は県位置は知らぬ。




 地域によって数字の隠語は異なりますので注意。


 どう考えても数字系隠語って戦後発祥だよな……

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