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26 蟹100%のちくわ

「菊池白菊さん」


 赤い異形のちくわ。運転手は雇われ店長。シートはエスケープ。


「あなたをこのまま帰すわけにはッッッッッ!」


 異形が菊池に追い付く。


「行かないんですよッッッッッ!」


 菊池に異形が並ぶ。


「大人の事情でねぇええええええッッッッッ!」


 異形のちくわのシートの両脇には、見覚えのある物体が浮いて並走している。蟹のハサミだ。


「あなた方だけがちくわを上手く扱えるとはッッッッッ!」


 カ~二カニカニカニカニィ!


 前方を向いていた2つのハサミが下を向き、地面をハサミの先端で引っかくと、あり得ない効果音とともに雇われ店長のちくわが減速する。ブレーキだけでは無い。ハサミが前方へ移動し、ちくわの穴を塞いだ。


「思わないでいただきたいッッッッッ!」


 雇われ店長のちくわは菊池の真後ろに付く。一般的な乗用車で言う、スリップストリームなのだが……ちくフルでは悪手。なぜなら先行するちくわのバックファイアで、後ろに付いたちくわが燃えてしまうからだ。当然リソースは減少する。


 しかし、菊池のバックファイアを2つのハサミがガード。ハサミは焦げすらしない。


「どうです?前後ともに蟹100%のちくわだけに付属する、アクティブシザーのパワァは?」


 現在はムービーの真っ最中。菊池のアバターが勝手に右折し路地裏に入る。


 背後の雇われ店長は菊池よりも鋭く曲がった。蟹100%ちくわの先端が、蟹のハサミ(アクティブシザー)ごと菊池を押す。


「パワァ!パワァ!パワァ!パワァァァァァァァァッッッッッ!」


 ムービーの都合で9チクワンまで減速したカツオちくわが前方へ弾かれた。それでも左、右、左、右と菊池は雇われ店長を撒こうとしたが降りきれない。


 大通りに戻ったら、ムービーは終了した。


 どうやらスタート地点に菊池が戻るのを、蟹100%ちくわに乗った雇われ店長が妨害するようだ。





「想像を上回っ……下回って来た…………」


 デコトラじゃないのか?ピラミッドの意味は?


 様々な疑問や突っ込みは、背後からのチャージで吹き飛ぶ。対プレイヤーや対NPCの時と同じく、視界の左側に雇われ店長のちくわのリソースが出る。ムービーの分はさておき、今のチャージでは全く蟹100%ちくわのリソースが減少していない。


 菊池はウイリーで急激に減速。ウイリーの状態でのクロックで蟹100%を弾いて、雇われ店長を落ちくわさせようと試みる。


 しかし雇われ店長はアクティブシザーで急ブレーキし停車……もとい停ちくわ。


「何かしましたか?」


 雇われ店長はニチャアと嘲笑った。


 菊池はウイリーを止め前方へ進む。





 トラックトラックトラックトラック……


 トラックトラックトラックトラック……


 トラックトラックトラックトラック……





 前方からデコトラの大群。デコトラだけならどうとでもなる。このワールドクエストには時間制限は無いのだ。タイムロスを気にしなければどうとでもなる。


 問題は背後の蟹100%。リソース減少を気にしなくて良いブレーキがあり、ちくライダーを含むプレイヤーにはリスクが高いスリップストリームが、恐らくノーリスクでできる。アクティブシザーには他にも機能がありそうだ。


 まずはデコトラを撒こうと川に突っ込む。デコトラは川に方向転換。行動パターンやスペックに変化が無いと良いが。


 ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ……


 雇われ店長は菊池を追う。同じように川の上をホバークラフトのように疾走する。飛び込んだデコトラは次々川に沈んだ。


 逆にまずい、と菊池は思った。デコトラを爆発させ、それに雇われ店長を巻き込む選択肢が無くなったからだ。


 ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ……


 ちくわが火を吹く音。現在菊池は後ろに体を向けているので、雇われ店長がすぐ後ろにいるのは知っている。





 まだ難易度の高いコースの上ならやりようはある。蟹系素材はあらゆる面で優れているが、弱点はある。あらゆる状況での加速性能の高さだ。


 ちくわはクロックやリバースをするか、ダウンかウイリーで地面を擦るか、ガードレールに擦るか、他のちくわにぶつけるかでしか減速できない。だから乗用車のように気軽にブレーキを踏めない。速度調整が困難な状況で加速性能が高ければ、コーナーリングに支障が出る。


 蟹100%ちくわのアクティブシザーによるブレーキは、蟹系素材の加速が良すぎ問題を簡単に解決してしまう。


 それでもサーキットなら、コーナーなら反撃は可能だ。コーナーが急であれば、さらに連続していれば絶対に減速する。コーナーを回るコースも限定される。そこにチャージするだけだ。どんなスペックのちくわでも最高速度は変わらない。実は12チクワンを越える速度を出す方法はいくつかあるが、現状難しいのでこの状況での予測は容易い。


 しかし、このワールドクエストでは勝手が違う。街中であれば道路がサーキット並みの広さだから問題は起こらない。広い空間を疾走る時にスペック差が越えられない壁となって現れる。


 菊池は川の上で左に()()()()()曲がる。当たり前だ。ちくわにしろ乗用車にしろ、曲がる時は弧を描く。


 雇われ店長は菊池を追う。菊池のちくわの曲がり方を観察し、行き先を予測して()()()()()()()()()()()()


 ちくわの場合は疾走するステージにコーナーや障害物が無くて、最高速度が同じなら、背後から追う方が圧倒的に有利だ。


 菊池は進行方向の左に体を傾ける。緩やかにちくわが曲がる。もしもちくわにステアリングがあれば小刻みなフェイントを紛れさせたのに。


 雇われ店長は前方の菊池の曲がる角度を見て(NPCにはそぐわない表現なのだが)感覚的にちくわを曲げ、効率良く菊池に迫る。


 ここがサバンナで菊池がインパラやシマウマであったなら、四足歩行による急旋回が可能。歩幅の調整で追っ手を幻惑できるかも知れない。


 ここはサバンナではないが、雇われ店長はチーターのように俊敏に、ハイエナのように狡猾に、ラーテルのように執念深く菊池へチャージ。


 菊池は耐える。ウイリーやダウンでのカウンターは効かない。クロックは使用済み。リバースは読まれているはず。


 カツオ系素材と蟹系素材では、後者のが衝突耐性は上。菊池のちくわの後半分がどんどん炭化して行く。


 だがしかし、菊池は諦めていない。ちくわを知り尽くした彼女は反撃の機会を待っている。

Q ラーテルって何ですか?


A ヤバい小動物


  体長80cm未満で体重7~13Kg 可愛い


  四肢にデカイ爪がある 可愛い


  スカンクみたいな臭線がある 可愛い


  日本にはいない インドとアフガンとアラビア半島とアフリカにいる 可愛い


  雑食 蜂蜜を好む 可愛い


  大型動物に攻撃を仕掛けることも…… えっ


  人、ライオン、水牛に立ち向か……  マジかよ


  ライオンの歯が通らないほど皮膚が硬い


  逃げてもどこまでも追ってくるらしい ヤバい


  ラーテル歩兵戦闘車の名前はコイツが由来 なにそれ怖い

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― 新着の感想 ―
[良い点] トラックきたきた(=^▽^)♡ 激しいぶつかり合いのはずなのに、常にほのぼのしてて好き。
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