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25 ムービーを開始します

 飛び込んだ野球のグラウンドを、土煙を上げながら疾走する菊池。並ぶ()()()()の脇の通用口に突っ込んでグラウンドから出る。


 デケデケデケデケデケデケデケデケ……


 遅れてデコトラの大群。フェンスやホームランボールによる事故を防ぐネットを破壊し、グラウンドに無数のタイヤ痕を刻んで菊池を追う。


 校舎に逃げ込んだ菊池は、減速しながら下駄箱の隙間を抜け2階の階段を無理やり昇った。デコトラが校舎に特攻。衝撃、振動、ホーホケキョ!


 2階の教室から上手いことベランダに飛び出し、ウイリーで減速しながら疾走。デコトラは地上から追尾。ポップアップした時点でデコトラは菊池を無条件に追ってくるようだ。隠れても無駄か。


 ウイリーを維持したままガラス窓に接触しMリスペクト。通った後のガラスが昭和の学園ドラマのように次々割れて行く。


 ガラス窓が途切れた。ちくわは放物線を描く。菊池は体を天に向けちくわを下にした。地上はデコトラで埋まっている。その荷台に着地。並んでいるデコトラの上を疾走。


 水が満たされたプールを発見。現在速度は5チクワン。荷台の上から突っ込むとギリギリ着水。追うデコトラがプールに沈む。


 これはまずいと思ったが、沈んだだけでは爆発しないようだ。プールサイドの隅の出口から、お馴染みダイナミック退室、いや退場か。


 再び校舎に潜り込んで、すぐさま窓から脱出。校門から出ようとしたが、現在進行形で多数のデコトラが侵入中。グラウンドの方からは来ないのでそちらに回り、デコトラによって倒されたフェンスを乗り越えて大通りに復帰。


 動画デバイスを揃えてから、確かにデコトラの菊池へのマークは厳しくなった。


「こんなものなの?」


 一般的なプレイヤーではデコトラに対応するのは厳しいとは思う。しかし総じてしたたかなちくライダーに通用するとは思えない。デコトラの行動は菊池の想定を上回らないのだ。もっと空を飛ぶとか、ワープするとか、5台並んで変形合体くらいはあると警戒していたのに。


 大通りから別の道へ。店舗や民家を通過し、Mリスペクトを使って塀や壁を登り、屋根も疾走った。これでジャンプ台でもあれば、完全に安全地帯になるのだが。


 【スーパークバリ】が近付く。目の前の川を越えれば目と鼻の先。川は砂漠に向かって流れている。


 菊池は川に降りた。ピットインに戻ってちくわを換えることにしたのだ。どう考えてもこれで終わるとは思えない。





 川を下って行くと両岸が徐々にせり上がり、ピラミッドの近くに至る頃には断崖になった。Mリスペクトで登れるので心配は無い。


 マップを確認する。このまま行けばピラミッドの真下を川が通る。どういう構造なのか。今後の展開への伏線なのか。


 これ以上下るとピットインから離れる。菊池は断崖を登り、デコトラがあちこちで嵌まっている砂漠を抜けてピットインへ。


 【スーパークバリ】に到着した後すんなりクエスト達成するなら、ピットインへの帰還は無駄になる。【動かぬ証拠】とやらが、他のクエストのキーアイテムの可能性は高い。


 しかし、クエストを受注したNPCーークバリの言葉が気になる。


『あいつらの目を覚ますことができるはずや』


 あいつら。


 複数系だ。


「流れ的にデコトラ軍団と、そいつらの責任者でしょ……」


 【スーパークバリ】に着いてから、【動かぬ証拠】によってフラグが立ち、デコトラ軍団+責任者(?)とレース的な行為をする羽目になるのではないだろうか。


 ちくわを換えさせてくれるなら問題無い。連戦だったらまずい。相手はちくわじゃなくてデコトラだ。さらにワールドクエストーー最高難度のクエストだ。デコトラに有利な環境で疾走るのだろう。


 ……例えば難易度1の『8』の字のコースとか。明らかにちくわより速いデコトラでも、あのコーナーは曲がり切れる気がする。さすがにインベタは厳しいだろうが。


「どちらにしろゴールはしなきゃね」


 2本目のリソースの残りは、前後ともに20%を切っている。Mリスペクトを使わなければもっと疾走れた。デコトラもいなければさらにだ。


 口惜しいが3本目のカツオ100%に乗り換える。


 今度こそ【スーパークバリ】に行くのだ。






 来た経路を引き返し、川を昇ることで時間とリソースの節約に成功。前後ともに残り90%弱。川から通りに戻り、デコトラを避けて【スーパークバリ】の敷地に入る。


 敷地にはデコトラはいない。無人の駐車場から店舗の搬入口へ。そこには年配の店員が待っていた。NPCだろう。


《ワールドクエスト【イワシを届けろ!】を達成しました》


 ストレージから【イワシ500t】が消える。これでクエストは終わりか。


 まだだ。菊池は完全に停止したちくわから降りられない。頭上に『雇われ店長』とあるNPCが話かけて来た。


「あのう、ひょっとして……」


 雇われ店長はポケットから菊池が持つ物と同じ形の動画デバイスを出して、菊池の目の前に差し出した。


「これと同じような物を拾いませんでしたか?」






《『拾った』と答えますか? Y/N_》


《あなたは重大な決断に迫られています。よく考えて返答してください》





 来たか。


 菊池の返事は決まっている。


《N》






「いいえ。そんな物見かけませんでしたよ」


《ワールドクエスト【クバリに託す】が強制受注されました》


 追加でクエストか。


 詳細を見ると、スタート地点に戻るだけのクエストだ。


 ちくわが火を吹く。オートで旋回し【スーパークバリ】の敷地を出た。もう1度ちくわを再起動させる手間が省けた。


《ムービーを開始します》


 ムービー?


 突っ込もうとしたが声が出ない。


 クエストでムービーが始まるのは少なからずある。基本的にはクエストを受注したNPCがお礼を言ってきたり、何かの乗り物が動き始めたりと言う内容ばかりだ。ちくわが疾走するのは初めてだ。





 ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ……





 【ハマグリウエストポート】の大通りを疾走する菊池は、ちくわの噴射音を聞く。オートで菊池のアバターが振り向いた。


 そこには。

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