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20 【動かぬ証拠 3/3】

「んほおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッ!」


 12チクワンで駐車場のど真ん中をを突っ切る菊池。出所後の親分を迎えるように駐車されたデコトラが、『ギブミーチョコ』と言わんばかりに菊池に押し寄せる。


 しかしデコトラ。大型車両である。その加速は遅い。菊池が突っ切った後に衝突し、メルヘンチックな効果音を激しく鳴らした。


「ハリ●ッドかあああああああああああッッッッッ!」


 ハ●ウッド映画でもこんなシチュエーションは無い……はずだ。


 菊池はウイリー。今度はフェンスを越えられた。スーパー()()()の正面は大通り。左右から狙ったようにデコトラが迫る。


 中央分離帯を越えて減速してしまうが、どうにか歩道にたどり着いた菊池は、すぐそばの紳士服店に突入。走行可能なデコトラが追って来る……が大き過ぎて入口から入れない。菊池はガラス窓をブチ壊してダイナミック退店。


「イケる……かも」


 ちくわでガラスをブチ破ることを学んだ菊池は、とにかく歩道の店舗に突っ込む。


 派手な看板の回転寿司、有名企業から訴えられない程度に似たロゴのある乗用車販売店、おしゃれな不動産屋、アルファベットの付いた名前の接骨院、年季のある銀行、有名チェーンに気を使ったロゴのハンバーガーショップ、やはり有名店と被らなさそうな意匠のラーメン屋、誰もいないゴルフ練習場、ピンクの外壁の歯医者、外からトレーニング器具が見えるスポーツジム、やや古めかしい建物の農業車両販売店など、とにかくちくわで入店できて、デコトラが入れず、ブチ破れる窓ガラスがありそうな店舗や施設に。


 ご安心ください。店舗や施設は全て無人です。


 ちなみにガラス窓を破壊した時の効果音は……誰もが想像する通りの音だった。






 菊池は再び大通りに出る。デコトラは各店舗に特攻して爆発したのでいない。上限があるのかも知れない、と希望を抱いてドローンのナビする方向へ疾走る。


「GMコールの返答?」


 余裕ができたので開ける。


「長い……」


 どうせ『仕様です』の4文字なのだろう。菊池は流し読み。後で確認しても『仕様です』以外の情報を読み取れなかった。


「おのれGM」


 トラックトラックトラックトラック……


 狙ったように背後からデコトラが涌いた。菊池は手近なドライブインに逃げ込む。


「違うゲームをしているみたいだわ……」


 ソフトクリームのオブジェが脇にある入口にダイナミック入店。思い切り体を傾け、並ぶ自動販売機でMリスペクト。ウイリーしてガラスを破壊しダイナミック退店。体を天に向けてよじり、ちくわを元の体勢に戻す。


 ホーホケキョ!


 入口に突入したデコトラが爆発。菊池はすでにドライブインの塀の陰に退避。爆風で電線が震える。その音は想像の範囲内だ。


「ふざけた効果音はともかくとして……町の作り込みが凄いわね」


 どこで付いたのか……ある程度見当は付くが、いつ頬に付いたのか不明なナルトを菊池は口に含もうとして踏みとどまり……捨てようとしたが食い意地がそれを許さず、妥協してストレージに入れた。


「うん?ストレージに入った?」


 ナルトがキチンとアイテムとしてストレージに入っている。カテゴリは……食べ物ッッッッッ!


「あとで洗って食べるとして……クエスト中にアイテムを獲得できるの?」


 菊池はデコトラをかわしながら考える。


 これまで手に入れたアイテムは素材と調理済みの料理、漁業用の道具ーー釣竿や投網など、他には特殊な場所に入るためのキーアイテムーー入室許可証みたいな物、それと拠点間を移動するための旅券くらいだ。

例外として動画を誰かに渡すための映像デバイスもある。


 レース用ちくわは全て魚介類で造られる。例外はシートだが、疾走する時になぜか出てくる。


 釣具類はNPCから購入するか借りる。魚介類は釣りの餌にも使える。


 まさかこのクエスト中に素材を入手できるのか?


 菊池は迷った。プレイヤー自身が地面や壁に触ると、即落ちくわ扱いになるからだ。


「うーん、用水路に落ちて濡れても落ちくわにはならなかった。ナルトはどっかで飛んで来てほっぺに付いた……」


 飛んで来た物は取れる。そう言うことか。


 色々試したいが、ちくわのリソースは前30%、後22%まで減少した。チェックポイントとなるピットインにたどり着かなくては。


 マップでピットインの位置をあらためて確認。ドローンの示す方角が最短距離だが、デコトラが多過ぎる。反撃の手段は全く思い付かない。回避一択。


 減速せず曲がり、Mリスペクトで花嫁衣装が飾られたショーウインドウを疾走。街中であればMリスペクトは使い勝手が良い。道路に戻るのが一苦労だが。


 背後にデコトラが突っ込む。花嫁衣装が台無しだ。ここまででデコトラ衝突時の爆発は15秒以上50秒未満と絞れた。爆風の範囲は未だ不明。減速せずに離れるしか無い。


 壁から歩道に降りて、結婚式場に避難。誰もいない結婚式場は物悲しい。


 ホーホケキョ!


 結婚式場が震える。ちくわの横にシャンデリアが落ちた。


「危な……えっ?」


 光る物が菊池へ飛ぶ。シャンデリアの破片では無い。同じ形状のアイテムを最近見た。


 顔に向かうそれを、菊池はしっかり受け止めた。


「映像デバイス?」


 フレーバーテキストには【動かぬ証拠 3/3】とある。特定のNPCに渡すキーアイテムとも書いてある。


 3月3日、または3分の3。


 キーアイテムよりもクエスト達成を優先すべきだろう。菊池はピットインを目指すことにした。


 結婚式場からダイナミック退店する。デコトラはいない。今がチャンス。


 ナビ通り疾走し市街地を抜け……地平線を見た。


 住宅や商店街はマップの一部と知ってはいた。


「どういう環境なの?」


 21世紀の鳥取はこんな感じなのだろうか?


 砂塵を撒き散らし砂の上を疾走る。追って来るデコトラは砂地にタイヤを取られた。


 菊池は砂丘の上に疾走し、見下ろす。360度からデコトラが迫る。しかし柔らかい砂地でスペックを発揮できないようだ。


 素直にナビに従い、正面のデコトラを避け……マップ中央の砂漠のオアシスに不釣り合いな建物を見つけた。


 ピットインである。

明日から仕事なので更新頻度が大幅に落ちます。


申し訳ありません。


なるべく週1回は投稿できるようにがんばります。

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