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18 ちくフル史上初のお使いクエスト

ロケットのように火を吹くちくわで、現実の公道を走るのは違法……と思われます。


読者の皆さんは交通ルールを守りましょう。




ちょっと修正


クエスト失敗後に再挑戦できないことを加筆しました。

「邪魔してすみません」


 菊池は頭を下げた。


「わかりゃええんや。作業の邪魔せんといて」


 目の前にいるネームドNPCーークバリは、悪事を働いたわけではない。


 そもそもレースで勝負するVRゲームで、はっきりした悪事をストーリーに組み込めない。






 考えてみて欲しい。


『この街の住人を暴力的な手段で拘束している。住民を解放を望むなら、レースで私に勝ってみせろ』


 とか言われても……反応に困るだろう?


 こちらは丸腰であちらは武装しているのにレースとはこれいかに、などの疑問でプレイヤーは混乱し、掲示板にあげて突っ込みまくって、ひどい時には炎上するかも知れない。


 ちくフルの世界は、NPCに悪党はいない。ただNPC同士の利害があるだけだ。それでもストーリーに無理が出てくるので、しょっちゅう物笑いの種になる。






 この状況で登場したんだから、好感度を上げろってことでしょ?


 菊池はクバリとどう交流するか考える。とりあえず1番気になる事を聞いた。


「ぁあん?数字?何でって見間違えを防ぐためやんけ」


「そうなんですか?」


 6と9は何かの間違いであるかも知れない。10はチョークが削れたら1か0に見えるかも知れない。でも『4』はいくらなんでも見間違えないだろう。


「いや、ロシア語に似た文字があってよ、取り返しのつかんミスが起きたらしい」


 あったそうだ。


「具体的に何が起きたか知らんけど。んでも、備えるに越したこたぁ無ぇわな。労力がかかるわけでもねえしよ」


 ちなみに、クバリは量販店のバイヤーで、発泡スチロールの数字はそれぞれ各支店を示している。数字を振った発泡スチロールや段ボール箱は、各支店へと配送されると言う。


「実は魚を探していたんですけど、すでに買い手が決まってるならどうしようも無いですね」


 クバリの話は面白いが、クエストは発生しないのでいったん引く。


「ちょい待ち」


 引き留めるクバリ。


「嬢ちゃん、良い目をしとるのう……」


 ちょっと話しただけで好感度が大幅上昇したようだ。





《ワールドクエスト【イワシを届けろ!】を受注しますか? Y/N_》


 希少性の非常に高いワールドなクエストなのに、ネーミングが雑だ。わかりやすいのは結構だが。


 菊池はクエストの詳細を見て驚く。


 なんとサーキットでは無い。ラリーだ。【連合ハマグリベース】郊外の倉庫から、【ハマグリウエストポート】の量販店までイワシを届ける………………と言う設定である。


 お使いやんけ、と脳内で突っ込みながら詳細をスワイプ。今受けないと菊池はもう2度と受けられず、失敗しても再挑戦できないようだ。やはりワールドクエストだ。


 コースは自由度が高い。と言うか荒野。休憩所と言う名前のピットインが1ヶ所。必ずそこを経由して【ハマグリウエストポート】の量販店ーー【スーパークバリ】の搬入口に届ければ良い。


 他に達成者も挑戦者もいない。菊池が初挑戦のようだ。時間制限は無い。リタイアしたらクエスト失敗。ピットインでちくわを取り替えられるようだ。


 クエスト達成報酬は『●●●解放』となっている。それと蟹系素材50Kg。


 一見破格。具体的な走行距離が詳細に書かれていないのを除けば。距離に関しては、どのコースでもそうだが。


「嬢ちゃん、あんたの疾走りなら……あいつらの目を覚ますことができるはずや」


 『あいつら』……?


 これはNPCからの妨害アリと考えるべきだろう。


 いずれにしろ、答えは決まっている。


「Y」


 広場の向こうの暗がりに光が指す。門だったか。


《菊池白菊のストレージに【イワシ500t】が入りました》


 どんだけだよッッッッッ!


 視界の右端にコースが浮かぶ。小さなプロペラ音、見上げるとドローン。迷ってもドローンがナビしてくれるようだ。


《搭乗するちくわを選択してください》


 コースのマップを見る限り街中も含まれているようだが、まさかオフロードを疾走するとは思わなかった。オフロードで恐れるべきは傾斜。ちくわは10cmしか浮かない。ちょっとした隆起や傾斜がちくわを削る。


 迷うことなくカツオ100%を選択。今あるちくわの中で、これが最適解……と思いたい。


 スタートラインにちくわが現れる。スモウジャンパーで行こうと思ったが止めて、初心に帰ることにした。エスケープに配置したシートの背もたれに手をかけて、ちくわを押す。


 久しぶりの重み。ちくわは少しずつ速度を上げ、菊池が飛び乗るのと同時に宙に浮く。


 門の向こうの通路の先の出口を出る。


 直感が菊池を動かし、全力のダウン。






 寸前を横切るデコレーショントラック。コンテナには劇画風の美女と『グレートダイナマイツ運送』と書かれている。







「何で?ちくわじゃなくて……デコトラ?」


 ちくわは止まらずにゆるゆる動く。とにかくクエストを続けなければ。ドローンのナビに従い、デコトラの向かう先へ。


 菊池の横をデコトラが抜いて行く。開けられた窓から指笛が聞こえた。


 ちくわは未だ3チクワン。どんなにあがいてもちくわじゃ12チクワンーー時速60km。


 デコトラは菊池を置き去りにして行く。


 ドローンのナビはデコトラと同じ方角。


 ちくわは6チクワン。デコトラはずっと向こうの十字路で止まった。


 ちくわは9チクワン。デコトラの右のウインカーが点滅する。


 ちくわは12チクワン。右折するデコトラは建物の陰に入る。ナビはデコトラの進行方向。


 菊池が疾走する道路は4車線。角度は直角だが減速はいらない。重心移動のみで曲がり切る。


 だが先に曲がったはずのデコトラはすでに見えない。


『あいつら』


 クバリの言葉が頭に響く。


「まさか……デコトラが妨害して来るなんてこと……」


 ちくわは原付並のスペック。……デコトラの説明は不要だろう。





 トラックトラックトラックトラック……





 背後から初めて聞く効果音。振り向くとデコトラ。フロントガラスの向こうで、デコトラに乗ることを宿命付けられた外見を持つ運転手がハンドルを叩いている。






 トラックトラックトラックトラック……






「クラクションの音が、ふざけすぎいいいいいいいいいいいいい」

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[一言] トラックトラックトラックトラック…… 来たよ(•̤̀ᵕ•̤́๑)トラックトラックトラックトラック……
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