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17 見たことの無い通路

「ねえ、ちょっと」


 菊池は問屋街でNPCに声をかけた。


「あっシラギクちゃん……」


 若いNPCは菊池を見てテンションを上げ、その後背後霊のように着いてくる離凡を見て落胆した。


「忙しいところごめんなさいね。教えて欲しいことがあるんだけど……」


 菊池が離凡を指導している間、何の魚が揚がったか、競りで誰がいくらで買ったか。キハダマグロは誰がいくらで買ったか、イワシは誰かが集めているのか、など詳しく聞いた。


 NPCは離凡をにらんだ後、質問に答え始めた。






 菊池は市場周辺のNPCから情報を集めた。


 わかったのは、キハダマグロを含む魚全般は特定の個人や企業が買い占めてるのではなく、相場が高騰しているだけ。イワシは今までに無い規模の不漁であること。


 その2つだけわかった。


「他のプレイヤーには聞かないんですか?」


「人に聞く前に、自分でも情報を集めなきゃダメよ」


「確かに……そうですね。僕も掲示板で検索して……」


 離凡はメニュー画面で情報掲示板を選んで開いた。


「た、た、た、大変だッッッッッ!このゲームそのものがハッキングされて……」


「掲示板開いてから秒速で騙される人って初めて見たわ……リボン君、ここの運営はそんなにヤワじゃないわよ。だいたいVRゲームをハッキングする技能があるような人は、もっと建設的な人生送ってると思うわ」


「デマですか?……ひどい」


「いや、デマって言うかネタ……挨拶みたいなもんだから」


 これまで離凡はどうやって生きてきたのだろう?色々不安になる菊池だった。






「整理しましょう。市場に魚は揚がって来てるけど、NPCにすぐに買われるみたいね。それで買うNPCはランダム。プレイヤーに素材が回らない」


「掲示板では、素材のトレード希望が多いですね」


 ハッキング等の定型文には慣れたらしい。


「なるほど。……リボン君。今気付いたけど、アタシに付き合うこと無いわよ」


 リアルはもう月曜の朝8時。本来なら遅刻だが、菊池はイレギュラーな3連休。……離凡は。


「いえ、大丈夫ですよ」


 死んだ目。分かりやすい。


「学校に行きなさい」


 離凡は様々な言い訳をしたが、菊池はその全てを目力でねじ伏せた。


 フレンド登録し、明日まで休日だからログインしてるはずと菊池は伝えて、離凡をログアウトさせた。もしも再会できない時に備えて、カツオを10t渡してある。






「さーて、行きますか」


 菊池も休憩した。3時間仮眠を取り、原材料がマグロやカツオで有名な缶詰をオカズにご飯を平らげ、風呂に入ってログイン。


「状況は変わってないわね」


 今朝離凡と辿った道を1人で進む。NPCの反応が変わるのを期待して。自分が探すクエストーー『後編』の影響の可能性が高い、と菊池は踏んでいる。


「シラギクちゃん……ちょっと良いかい?」


 やたら大きな風呂敷を背負ったおばちゃんNPCが、物陰から手招きしている。


 来た。


 霊長類最強女子並みの勢いでおばちゃんNPCに迫る菊池。


「どうしたんです?」


「ああ、そのちょっとしたことなんだけどね」


 ちょっとじゃ済まないタイプの『ちょっと』だろう。そう思った菊池だが。


「背負っている荷物が通路に嵌まっちまってさ、助けておくれよ」


 本当に『ちょっと』だった。それだけだった。


 好感度。その3文字を脳内で何度も叫ぶことで、菊池はどうにかポーカーフェイスを維持。


「ありがとさ~ん」


 菊池の助けによって通路から抜け出したおばちゃんNPC。『!?』とか『ピキッ』とか浮かべそうな雰囲気で見送った菊池。


 ……ここで気付く。10年プレイしたけど、ここにこんな通路あっただろうか、と。





 菊池はいったんガレージに戻った。ちくわを造るためだ。


 あの通路が他のプレイヤーには認知できないのは確認した。通路の先は、最低でもユニーククエストだろう。


 そしてちくフルのクエストはレースだ。タイムアタックの場合もあるが。


 今ある素材でどうちくわを造るか。


 最低品質はすでに疾走して消費済み。


 蟹系は惜しい。


 カツオはとりあえず100%を5本。


 マカジキ、メカジキ……菊池は考える。マカジキはチャージ向けで追突耐性が高い。メカジキは防御向けで、衝突耐性が高い。さらにマグロ系は摩擦耐性が高い。


 ただしマグロ系は燃費が悪い。ハーフ&ハーフにするか、混ぜるか。使う覚悟ができれば嬉しい悩みだ。


 マカジキ、メカジキともに1t強。端数はためらい無く調理ッッッッッ!


「あとは……」


 トン単位で持っている素材は、(はも)と鮎。ハーフにできる500Kgあるのは、ビンチョウマグロだけ。


 素材が500Kg未満だと他の素材と混ぜなければならない。当然性能は変わるが品質とリソース以外マスクデータなので、初めて使う組合せをクエストにぶつけるのは無謀だ。


「これは虎ふぐのオマケで貰ったんだった……」


 マグロ系であるが、摩擦耐性は低い。鋭くウイリーできて、低速域ーー0チクワンから4チクワンの加速性能が高いが、高速域ーー8チクワンから12チクワンの加速性能が低い。





 カツオ100%が5本。


 カツオ100%とマカジキ100%が1本。


 カツオ100%とメカジキ100%が1本。


 カツオ100%とビンチョウマグロが1本。


「カツオ尽くしってわけじゃ無いけど、これで行くしか無いわね」


 準備はできた。菊池はガレージを出て、さっきの通路へ。


 奥から光。オレンジ色のターレがゆっくりこちらに向かってくる。


 通路はすれ違うくらいの広さはある。通路に挟まったあの風呂敷には何が入っているのか想像を膨らませながら、菊池は道を開けた。


 すれ違うターレの荷台には何も載せられていない。運転手は黒い作業服に黒いヘルメット。マスクと靴も黒。サングラスも黒だが、フレームは星型。ちくフルは変なところでふざけてる。


 ターレが通り過ぎてから菊池は奥へ。5分歩くと広場に出る。そこに敷かれたパレットの上に、発泡スチロールや段ボールがいくつも積まれている。


 発泡スチロールの中の長方形の物の蓋を開けると、冷気が流れ落ちる。中身は氷、いやその奥に影。ヒレが黄色い。


「おい、嬢ちゃん。何を触ってんねんッッッッッ!」


 でっぷりしたNPCが、菊池を背後から怒鳴り付ける。


 振り向くとNPCは葉巻を咥えた。そのNPCの頭上にはネームがあり、『配達』と書かれている。


「……ハイタツさん?」


(くばり) (たつ)じゃッッッッッ!ハイタツ言うなッッッッッ!」


 すごいネーミングセンスだ、と菊池は思った。


「ワイが買った商品にそれ以上触んなや、見てみいッッッッッ!」


 クバリは煙を上げる葉巻で、発泡スチロールに赤いチョークでなにやら書き込んでいるNPCを指した。


 作業するNPCは発泡スチロールに『1、2、3、()、5、()、7、8、()()……』と数字を書いていた。


「もう他の客に売ったんや!品質落とさんといてやッッッッッ!」

Q ターレって何?


A 荷物を載せる車両。オレンジのヤツが多い気がする。


  主にデカめの市場で見かける。逆に市場くらいでしか見たことないですね。









もともとこの作品とは別にVRゲームモノの執筆をしておりまして、


それに登場する乗り物が、神輿、精霊馬、鯉のぼり、ちくわ……だったのです。


『天がそうしろ』と命じたので、ちくわ単体で作品として書いてみました。





なぜ漁船や魚市場が出るのかって?


サイバー●ォーミュラとエア●アの影響があまりにも強いので、できるだけかけ離れた世界観にしました。


イニ●ャルD?特●の拓?


ダメだ……ネタにしちまう。天がそうしろと言うのです……

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