恐怖のクリスマスケーキ
離婚した夫が毎年クリスマスにケーキを送ってくれる。ネット通販で買ったものが私たちの住所に送られてくる。冷凍状態で届いたものを冷蔵庫に入れて解凍し、イルミネーションで飾りつけた部屋で息子と娘、3人笑顔で食べる。
夫とは円満離婚だった。しかし子どもたちに会わせる気はない。息子が5歳、娘が3歳の時に別れ、10歳と8歳になる今、子どもたちには父親は死んだと教えてある。
乱してほしくないのだ。子どもたちに、『パパはおまえたちを捨てたんだよ』なんて、本当のことは言いたくなかった。
今年もそれは届けられた。
『今年のはスペシャルだよ』と、彼からメールで知らされていた通り、どうやら通販の既製品ではないらしい。百均のものらしい化粧箱がたどたどしくピンク色のリボンで飾られ、手作り感満載だった。
「今年もサンタさん、ケーキをくれたね!」
娘が顔を輝かせて声をあげる。
「僕、チョコがいいな! チョコのだったら嬉しいな!」
息子が自分の願望を口にする。
「開けるわよー。せ〜の……!」
そう言って私が箱を開けると、中から出てきたのはいびつな形の白いホールケーキだった。真っ白だ。
「さすがに私の好みをわかってるわね」
私はほくそえんだ。
「余計なイチゴとかいらないのよ。ケーキは真っ白でいいの」
「ちぇ〜……。チョコじゃないのか〜」
「お母さんがいつも言ってるでしょ、お兄ちゃん! ケーキは真っ白なのが正義なのよ」
「そうよ。これが正しいの。教育した甲斐があったわ」
私は子どもたちに言い聞かせる。
「あなたたちも、しっかり覚えなさい。イチゴだのチョコだのは邪道よ。真っ白なのが正しいの」
包丁を入れると、ケーキの中から赤い汁が滲み出した。
「あら」
私は不機嫌になった。
「わかってないわね……あのひと。真っ白でいいのに。フルーツなんて……」
匂いですぐに違うと気づいた。
ザクロのケーキなんて珍しいと思ったのも束の間、それが動物臭なのだとわかった。
なんなのだろう、これは。そう思い、ようやく添えられていた小さな手紙を開き、読んだ。
『メリー・クリスマス! 子どもたちに会えないのはやはり辛いよ。僕の寂しい心をケーキに挟むことにした。食べてくれ。君たちと僕をひとつにしてくれ』
ケーキの生地をめくってみると、どうやら挟み込まれているものは、彼の心臓をスライスしたもののようだった。
心を挟むといったのは、こういうことか。
(くだらねーことしやがって……)
私はムカついていた。
(こんな女々しいことするヤツだから離婚したんだよ! あてつけみてーに……!)
固まって眉間にシワを寄せている私を見て、子どもたちが不思議そうに聞いてきた。
「どーしたの、お母さん?」
「早くケーキ、食べようよ」
私は生クリームとスポンジ生地だけのところを、彼の血がついていないかよく確かめてから、切り取って子どもたちに与えた。
「おいしいね!」
「おいしい! おいしい!」
よかった。ふつうのケーキのようだ。
子どもたちに毒見をさせると、安心して私もお皿に取った自分のをいただいた。
しかし食べながら気になっていた。
彼が自分で自分の心臓をスライスしてケーキに挟み込むことなど出来るだろうか? いや、出来ない。
だとすれば、誰がこのケーキを作り、送ったのだろう?
冴えないコミュ障のあのひとに協力者がいるとは思えないし……。
「お母さん!」
「お……、お母さん! ぐえぇ……!」
急に子どもたちが喉をかきむしって苦しみはじめた。
しまった! やはりあの野郎、ケーキに何か仕込んでやがったか!
「お……お母さん……! ぐぇろぼぼ」
娘の眼球が飛び出しはじめた。
「悲しいよー……苦しいよー……」
息子の顔が父親に似てきた。
私はなんともない。
なぜだ?
おおきな窓から誰かが覗いていた。
その気配に急いで振り向くと、サンタのおじさんが笑顔で中庭に立ち、にこにこと笑っている。
「やあ、奥さん! あなたの元夫さんの怨念を届けに来ましたよ!」
鍵はかかっている。大丈夫だ。そう思っていると、サンタは白い袋の中から鋼鉄のバールを取り出し、それを勢いよく振るって窓ガラスを粉砕した。
にこにこ笑顔を崩さずに乗り込んできたサンタに、私は罵声を浴びせた。
「てめえっ! あの野郎に雇われて来やがったのか!?」
「はい。あの方は私の御主人様です。お金を貰い、あの方の最期を看取り、心臓をケーキに挟み込んだのはこの私です。そして最後のご依頼を今、完遂させに参りました」
「ギャアアアア!」
娘が何か羽根の生えた悪魔のようなものに姿を変えて、窓から飛び出していった。
「ぬふふふふ……」
息子は父親の姿になり、私の背後に立った。
「おまえが悪いんだ。僕から幸せを奪うから。ぜんぶ、おまえが悪いんだぞぉ〜」
こんなこともあろうかと用意していてよかった。
私は落ち着いて、食器棚の横に立てかけてあった金属バットを取ると、構えた。
戦いはこれからだ!
まったく……なんてクリスマスだ!
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