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3:異形の魔皇子あらわる


「恐れながら申し上げます。私の恥を晒すのは覚悟が要りますが、事実は明らかにせねばなりません。私は確かに以前、オーロラ嬢に魔力増幅の指輪をお貸ししました。彼女が私と二人きりの時に『この指輪があればあなたが側にいてくれるようで安心できるから』と言われ、信じてしまったのです。……今、オーロラ嬢の中指に嵌まっているのがその指輪です」


 そう。兄のジェイムズも攻略対象の一人。彼の好感度をあげておくと、魔力増幅の指輪を貸して貰えるのだ。兄の告白で周りから再びざわめきが起きる。私は笑みをキープしたまま解説をつけ加えた。


「殿下はご存知でしょう? その指輪があれば普段は下級魔法しか使えない者でも高難度の魔法が使えますの。例えば光魔法なら『完全治癒』ですとか」


 そう、抜け道とはこのこと。私はそのシナリオもわかっていたから、そちらについても()()をしておいた。そしてヒロインはそうとも知らず、王子の目がない時には兄にすり寄ってきていたのだ。


「くっ……だまれ! 貴様ら兄妹は示し合わせて嘘を並べ立て、オーロラを貶めようとしているだけだ!」

「わたくし達の発言が真実である証拠がございますわ」

「証拠だと?」

「その指輪、実はわたくしが作ったレプリカ品ですの。魔力増幅の効果は1回だけしか使えません。お疑いなら指輪を外し、内側をご覧になれば私の名前が刻まれていましてよ」

「えっ!?」

「何っ!?」


 ああ、本当に今瓶底眼鏡をかけていないのが残念だわ。目の前ではアーネスト王子とヒロインがおそらくバタバタして指輪を確かめているのだろう。私にはゆらゆらと影のようにしか見えないけれど。


「これはどういうことだオーロラ!」

「あ、アーネスト様……」


 ヒロインの消え入りそうな声と、ギリリとアーネスト王子の歯ぎしりの音がハッキリと聞こえた。


「は……嵌めたな! これはエスモンド兄妹の罠だ!」

「嵌める? 罠を? どうやってですの? オーロラ嬢が魔力増幅の指輪目当てで兄に近づく事が私にわかるわけがないでしょう? それなのに罠を仕掛けるなどできませんわ」

「ぐうっ!」


 ……これは嘘八百だけどね。全部わかってて用意していたんだから。


「本物の魔力増幅の指輪はエスモンド家に伝わる家宝のひとつ。当然、今前線にいる私の父が持っています。その間の伯爵名代である兄に万が一の事があってはいけないので、わたくしは()()()()作成に成功していたレプリカを兄に渡したのです。その後兄からオーロラ嬢に貸してしまったと聞きましたが、お守りとして持つだけならレプリカでも何ら差支え無いだろうと思っていたのですわ。……まさか本当に使用するなんて」


 周りのざわめきはかなり大きくなっていた。よし。見えていないけれどこの夜会の招待客達の顔色は相当変わっているでしょう。

 無理やり夜会を開き婚約者を大勢の人前で侮辱し一方的な婚約破棄を突き付けた王子。しかも婚約破棄の理由は浮気で、後に次の婚約者としてお披露目するつもりだった浮気相手は弱い光魔法を使えるのみ。更に彼女は王子以外の男性にもあちこちコナをかけ、そのひとりを騙して借りた指輪まで勝手に使用していた。ここまで材料が揃えばこの場での婚約破棄を支持する人などいない筈!!

 最後のダメ押しよ。


「殿下、誤解の無きよう今一度申し上げます。わたくしは殿下の婚約破棄に異を唱えてはおりません。あくまでもわたくしとエスモンド家の名を貶めるようなお言葉を訂正頂きたいだけです。わたくしがふさわしくないという理由以外で婚約を破棄されたいのでしたら、どうぞ後日陛下と私の父を交えてお話を。では失礼致しますわ」


 キマった!! 私は完璧な淑女の礼を披露して颯爽とこの場を去ろうとする。


「待てジュネ・エスモンド!!」


 私の背にアーネスト王子の大声が響く。一応振り返った私にかけられた言葉は意外なものだった。


「わかった! オーロラとのことは白紙に戻す。だがお前との婚約はやはり破棄だ!」

「「!! 何故ですか!?」」


 私とヒロインの叫びがハモる。いやいや、ヒロインの方は理由わかるでしょ。「何故?」じゃないわよ!


「お前は生意気すぎて俺にふさわしくない!!」

「は……あ……!?」


 こ、このアホ王子ぃぃぃ!! 王命の婚約を、そんな理由で破棄するとかある!?!? い、いや、確かに私もコテンパンにやりすぎちゃった面はあるかもしれないけれど……だからと言って王子の身分でそんな正直にあけすけな理由言っちゃうってどうなのよ!? それより何より、今ここで言わないでよ!! それを避けたくて頑張ってきたのにぃぃぃ!!


 驚きと怒りでくらりと意識が一瞬遠のき、私の目が足元の床を見た瞬間、目の前の空間が歪んだかと思うと、黒い靴を履いた長い足が現れた。


「そうか。では俺がその娘を貰い受けよう」

「!!」


 その言葉を聞いた瞬間、私の身体は凍りつくかのように固まった。深い、深い。想像よりはるか深淵から立ちのぼるような深みのある声。私がその声にゆっくりと顔をあげている間に、会場から悲鳴が一斉に起こった。


「きゃああああ!!」

「魔物が! 衛兵はどうした!?」

「ひいい助けてぇ!!」


 嗚呼……これが、魔の国の異形の魔皇子。目の前にある彼の姿はぼんやりとしていて、皮膚が紫色ということしかわからないけど、なんて……なんて……!


「おのれ化け物め! 妹から離れろ!」


 ジェイムズがそう叫び、直後に炎魔法の詠唱を一瞬で終わらせた。目が悪い私には眩しさと熱しか感じられないが、きっと魔皇子めがけて大きな魔法の炎が襲い掛かったに違いない。


「ふっ」


 けれど魔皇子はそれを鼻で笑って、多分腕を一振りした。その場にキィィン! という音が鋭く響いたかと思うと、あたりを冷気が包む。


「そんな……」


 兄、ジェイムズの絶望に染まった声が聞こえた。魔皇子は魔法の詠唱すらせずに氷魔法を展開し、兄の魔法を打ち消したのだろう。ジェイムズだって攻略対象キャラなのだからそれなりの実力がある筈なのに、やはり中ボスとの一対一では分が悪すぎる。


「ハハハ。人間にしてはまあまあ出来るほうだが……甘いな。俺の邪魔をする奴は許さぬ。塵となれ」

「待って!!」


 私は兄に攻撃しようとする魔皇子の前に立ちはだかった。


「ジュネ!!」

「娘、どけ」

「いいえ、どきません。貴方の狙いはわたくしなのでしょう? それとも邪魔をするわたくしを今すぐ八つ裂きにしますか?」

「……いや?」


 皇子の深みがあるバリトンボイスに、少し愉快そうな色が混じったのがハッキリわかる。……そう、意外にも顔を見れずとも彼の声の表情は実にわかりやすいのだ。すると、彼の冷たい指先が私の顎を掴んだ。


「お前のような強く美しい魔力を持つ娘は珍しい。俺の花嫁にと思って迎えにきたのに、ここで殺してはつまらないだろう。しかし俺の見た目に臆することなく歯向かうとは、中身も珍しい娘だな。ますます気に入った。是非とも俺の物にしてみせる」

「……ええ、いいわ。貴方の花嫁になります」

「ジュネ!?」


 兄の悲鳴に近い叫び声と周りのどよめきが夜会の会場中に轟く。でもそんなものには私の心は揺るがない。


「ただ、この国と魔の国の戦争にわたくしの魔力を利用されるのは気に入りませんわ。わたくしと貴方の結婚をもって、和平を結びこの戦争を終わらせることが条件です」

「それはこちらとしては願ったりかなったりなのだが」

「え?」

「そもそもこの戦争を仕掛けたのはそちらだぞ。我が国の豊富な魔石を狙っての侵略行為だ」


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