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1:なんで、よりによってジュネに転生したの!?


 それは、自国が魔の国との戦争中であり、しかも国王不在というあり得ない条件下で、強引に執り行われた王宮の夜会での出来事。

 その夜会を開いた張本人、アーネスト王子は私の背中へいきなり不躾な言葉を投げつけた。


「見つけたぞジュネ・エスモンド。お前は俺にふさわしくない! よって俺たちの婚約は破棄する!」


 この1ヶ月、あらゆる努力とシミュレーションを続けてきた私にはこれは想定内。

 だからくるりと振り返り、目一杯美しい微笑みを作って婚約者のアーネスト王子()()()()()()()()方向を向いてみせる。


「なっ……!?」


 周りが明らかにざわつき、アーネスト王子も一瞬声を失う。ああ、その間抜け面を拝みたかったわ。何も見えないこのド近眼がうらめしい。


「おっ、お前、ジュネなの、か……?」

「ええ、ジュネ・エスモンドでございます。殿下に直々にお招き頂きましたのに、ご挨拶が遅れましたこと、心よりお詫び申し上げますわ」


 私はこの1ヶ月間で努力して手に入れた結果のひとつ、完璧な立ち居振舞いでの礼(カーテシー)をする。更に顔を上げる際には研究しまくった表情と映える角度を駆使して、最も美しく見えるように笑む。


 周りからはざわめきを越えてどよめきが起こりつつある。そりゃそうでしょう。いつも大きな瓶底眼鏡で顔を隠し、ボソボソと必要最低限の事しか喋らず、顔はスッピン、姿勢は猫背で身に付けているのは汚れた白衣。研究室に引きこもり、魔導の研究にしか興味がない魔法オタク……それが世の皆が知る王子の婚約者ジュネ・エスモンド伯爵令嬢の姿だ。


 ここにいるのは眼鏡を外し、この日のために1ヶ月磨きに磨いた藍色の髪と白い肌を人目にさらし、背筋をきちんと伸ばした身体を豪華なドレスに包み、堂々と発言している別人のような私。

 ……まあ、魂はある意味別人なんだものね。そんな事教えてあげないけれど。


「……ところで今何か仰いましたか? わたくしが『殿下にふさわしくない』というお言葉が聞こえた様な気が致しましたが、何かの間違いですわよね?」

「い、いや! そう言ったのだ! お、お前は俺にふさわしくない! だから婚約破棄だ!」


 アーネスト王子は声を震わせつつもハッキリ言った。あぁ、地味でモサい婚約者が美しく変身して現れたら婚約破棄を思い直してくれるかも……と思ったけどやっぱり甘かったわね。

 まぁいいわ。これで私が王子に気に入られてもそれはそれで面倒だったし。ここはシミュレーション通りに行くとしましょう。


「まあ! あんまりですわ! 確かに殿()()()()()()()()()()()()()()()()()わたくしは美しくはないかもしれませんが、それだけで『ふさわしくない』と仰るなんて!」


 私の言葉で夜会の会場は完全に静けさを失った。皆ひそひそと会話をしている。アーネスト王子らしい姿の横に、派手なピンク色のドレスっぽい物がぼんやりと見えていたからほぼ間違いなく彼女だろうと思って言ってみたけれど、やっぱり側にいたのね。

 ピンクの髪を持ち、貴重な光魔法の使い手である美しきオーロラ嬢……というか、このゲームのヒロイン。


 ここは、女性向けゲームの世界だ。



 ◆◇(ここから回想がはっじまーるよー!)◇◆



 最初に私がゲームの世界に転生したと気づいたのは1ヶ月ほど前だ。

 いつも通り魔導の研究に勤しんでいた「わたくし(ジュネ)」は、加減を失敗してごく小さな爆発事故を起こした。


 火花が散りもうもうと煙が立ち込める白い世界の中で、私は魂を抜かれたかの如く呆然としていた。前もって危険時に自動で発動するようかけておいた防御魔法のシールドが守ってくれたので、全くの無傷だったにも関わらず。

 だって前世で起きた爆発事故が私の死因だった……と思いだしたんだもの。


 で、すぐに「わたくし(ジュネ)」の持つ記憶と前世の記憶をかけあわせた結果。この世界は以前自分が夢中になってプレイしていた(神ボイスと神作画がてんこ盛りの!)乙女ゲーム【マジック&プリンセス~恋の魔法をあなたに♡~】の世界だ! と理解し……そして、その場で頭を抱えながらヒザから崩れ落ちた。


「ああああ!!! なんっっっで、よりによってジュネなの!?!?」


 だってジュネ・エスモンドと言えば、ヒロイン、オーロラのライバルかつ仲間候補(悪役令嬢ですらない!)で、超めんどくさい立場のキャラ。

 このままだとどう考えてもヒロインはハッピーエンド、私はバッドエンド一直線。


 このゲームは攻略(会話やイベントパート)で()()()()キャラを仲間にして、魔物との戦い(バトルパート)にパーティメンバーとして連れていくことができる。

 ジュネは魔力がとびぬけており、しかも強い魔導具(マジックアイテム)なども作成できる、味方としては大変心強いキャラ。


 彼女、ストーリー上必須のイベントバトルには参戦してくれて、そのままパーティーに入ってくれそうな雰囲気なのよ! めちゃめちゃ強いのよ! 「おおっ! 是非この子メインでパーティを組んで戦おう!」って思うじゃない。……ジュネを仲間にするにはかなりハードな条件が課されているのよ。


 それもこれも、彼女の婚約者であるアーネスト王子がメインの攻略対象だから。

 王子とヒロインが一定以上仲良くなると彼は夜会でジュネとの婚約を破棄してしまい、彼女は強制退場となる。


 その退場の仕方が酷い。断罪追放とかじゃない。ジュネはその魔力の高さゆえ敵である魔の国の、異形の皇子に目を付けられていた。婚約破棄の直後、夜会に乱入した魔皇子に花嫁として無理やり連れ去られてしまうのだ。

 そして後に、中ボスである魔皇子との決戦の際にジュネは敵として出てくる。「皇子の邪魔は誰にもさせないわ……!」とか言ってめちゃめちゃ強敵なの。


 因みに。異形の魔皇子の異形っぷりは容赦ない。乙女ゲームなんだから、ぶっちゃけ美形に角生やしとけば良いじゃない! なのにたった一枚の立ち絵は目とか点だし肌は紫色だし、タコ人間みたいな見た目。決戦の時なんか第二形態に変身しちゃって人間味は完全に消滅する。こいつに惚れるとか絶対ジュネ、洗脳されちゃったよね? って思ったわ。


 で、ジュネを魔皇子に(さら)わせず仲間にするためには、アーネスト王子の好感度はあまり上げないようにしつつ、ジュネに対しては出来るだけ仲良くして好感度を上げ、二人の婚約を破棄させない事。しかしこれはなかなかの難易度のルートよ。ジュネって人見知りで研究所に引きこもって魔導の研究ばかりしているから好感度を上げるのが難しいんだもん。


 そして今私がいるこの世界では。

 ヒロインは「わたくし(ジュネ)」の好感度なんて丸無視でアーネスト王子とベッタベタに仲良くしていた。つまり、私はこのままだと魔皇子に拐われること確定なのだ。


 で、婚約破棄&拐われるのは約1ヶ月後の王宮での夜会イベントだとわかっていたので、私はその1ヶ月、目一杯足掻いてみた。

 まずはアーネスト王子にもヒロインのオーロラ嬢にも積極的に仲良くしようとしたがまるでムダだった。アーネスト王子はヒロインしか目に入らないし、ヒロインは私を恋のライバルとして見ており、話しかけても無視される模様。


 はい、このセン詰んだー!(バンッ)


全4回。ハッピーエンドです。宜しくお願い致します。

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