08 高明 その1
高明は真玉との縁談を断ったあたりから、深酒をするようになりました。
もともと酒が強く、いくら飲んでも酔わず顔にも出ないタイプでした。
調べものをする時には、食事しない事が多く。不摂生を重ねていました。
時房は朝時には、高明の出自を知らせ、義時が高明を害する事が無いよう注意する旨伝えていました。
御所の警護をする朝比奈義秀は朝時とは子供の頃から知り合いでした。朝比奈三郎も仕事で御所に泊まる事が多いのですが、朝時と違って自分の部屋を持っているわけではありませんでした。義秀の従弟:朝盛も実朝のお気に入りの近侍として御所に仕えていました。
義秀は高明が酒が強いと知ると飲み比べをしましたが、高明には適いませんでした。
それ以後、義秀は時々、朝時と共に高明と酒盛りをする事がありました。
義時は、高明が和田一族と近しくなるのを苦々しく思っていました。
政子は琵琶の演奏にことよせて高明・沙夜達を尼御所に呼び寄せる事が多く、義時は、政子が高明に情が移ると、たしなめましたが、政子はとりあいませんでした。その会話をたまたま耳にした泰時は、高明が一族に何か関係があるのかと思いましたが、父に聞くことができませんでした。
ある夜、朝時が御所の高明の部屋に行くと、高明が具合悪そうにしていたので、人に知られぬように連れ出し、とりあえず御所に近い時房邸につれて行きました。
途中で高明は吐血します。高明は、暫く休んでいれば治る。自分は深酒すると吐血する事があるが、気にしないでくれと言いますが、朝時は時房に使いを出し、医師もよびました。
医師は過労と深酒が原因と診断し、暫くの休養をすすめました。医師は高明には、このような生活を続けていると長くは生きられないと言いますが、高明は、承知の上と答えました。
翌日、高明は長谷の邸に帰ろうとしますが、時房が数日は佐介で静養するように説得しました。
長谷の邸に使いを出し、書庫の番を手配して、高明の乳兄弟が身の回りの世話にやってきました。高明はやつれた姿を見せないように時房にも、几帳越しに会話するほど気を使っていました。
泰時は、朝時に高明の事を尋ねます。朝時は、泰時が父から何も聞かされていないのに多少驚きながら、高明が宗時の孫である事を伝えます。知っているのは政子、義時、時房おそらく三浦義村は宗時と仲がよかったから気が付いているだろうと。
泰時は、なぜ自分には知らせれなかったのかと聞きますが、朝時は、自分は御所で高明と会うことが多いから、時房から高明の事を気にかけてほしいと言われただけだと、嘘をつきました。
高明は邸から琵琶をとりよせて、昔、母から聞いた今様を口ずさみました。その昔、宗時が葵に習って謡ったものでした。
高明が今様を謡ったと聞いた政子は、宗時を思い出し、その今様を聞きたいと伝えます。
政子は神社の参詣の帰りに時房邸によるという形で、高明の今様を聞きます。政子は義時も時房の邸に来るようにすすめます。
高明の声は宗時によく似て、昔を思い出せました。
義時は、宗時が幼い桜子をあやしている姿を思い出しました。宗時は、自分は葵と一緒になるから、家は義時が(小枝と)継ぐと良いと言って笑っていました。
義時はその事を思い出し、涙ぐみました。義時は、宗時を懐かしく思い。高明を愛しいと思ったのでした。
御台所信子は、高明に酒で倒れる事がないように、体を気遣うように、そろそろ身を固める事を考えてはと言いますが、高明は、自分は人と暮らすことが苦手で、琵琶や書物と一緒にいる方が気が楽なので身を固めるつもりはないと言います。
高明が徐々に体調を戻し、長谷の邸に戻ろうとしていた矢先、京から高明の姉:千草と皇子が急死したという知らせがもたらされました。皇子が病気になり看病をしていた千草ともども亡くなったとのことでした。
高明はショックで、吐血し、意識不明の状態になります。数日間、高明は生死をさまよいますが、意識を取り戻しました。
真玉は本当は高明の看病をしたかったのですが、高明の世話は、長谷から来た高明の家人が行っていました。
実朝は御所での静養をすすめましたが、高明は長谷の邸に戻りました。
高明は、院に出家を願いでますが、院からは、千草は坊門家の縁者として皇子に仕えていたのであり、形の上では高明とは他人であるため、出家も服喪も許さないとの返事がありました。