忘れた宿題
「ねーねー、何か怖い話聞かせてよ」
家で友人とお酒を飲みながら談笑していたら、突然怖い話をしてくれと話を振られた。
どうして怖い話なのかと聞き返してみたら、
「安直だけど、もう夏だから聞きたいなーって思って、夏といえば怖い話でしょ?」
そういう事か、と一応は納得はしたが、
「怖い話かー、思い浮かばないな……」
怖い話自体得意ではなかったので、思い浮かばなかったのだ。
「そっかー、思い浮かばないか、んー、テレビで見た話とかはない?」
テレビで見た話と言われても、詳しく覚えていないので話しようがない。
「テレビで見たのとかそんなに覚えてないから話せないよ、……あ、無いって思ったけどあったかも」
「ん? 何か怖い話思い出したの?」
先ほどまで忘れていたが、小さい時に夢で見た事を思い出した。
「うん、でもさ、夢で見た話なんだけど、いい?」
「いいよ、いいよ! 夢で見た話かー、どんなのか気になるね」
小さい時の事を今になって思い出すのは不思議な気持ちだが、それだけ他に怖い話も知らないのだ。
「今から話すのは、夢の事のはずなんだけど、妙にリアルに感じた事なんだよね」
「あー、たまにあるよね、本当の出来事みたいに感じる夢って」
「うん、そうなんだけど、これは……なんというか、特別リアルに感じたんだ、ちょっと話すの嫌になってきたかも」
今思い出すだけでも背筋がゾクッとする夢だったので思い出したくもなかったが、今さら話さないと言ってもだめだろう。
「おぉ、それは気になる、言い出したんだから、最後まで話してよ」
「分かってるよ、あー、思い出したなんて言わなかったらよかった」
今さら後悔しても遅いが、仕方がないから話すことにしよう。
「それじゃあ、話すね、あれは小学5年生の時で、今と同じ夏の事……」
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6月某日、夕方6時
ベッドの上で起き上がり、んーっと言いながら伸びをして一息つき、時間を確認すると、時刻は丁度6時になった所だった。
この日は、放課後に友人と走り回って遊んでいたのですごく疲れていた。
帰宅したらすぐベッドで横になり休んでいたが、いつの間にか寝ていたみたいだ。
晩御飯まではまだ時間があるので、宿題をやっておこうと思い、カバンから宿題のプリントを出そうとするが見当たらない。
「あれ……確かに入れたと思ったんだけど……」
ノートの間に挟まってるかと思い、調べてみたが見当たらない、中身を全部出しても見つからなかった。
これは宿題のプリントを学校に忘れたみたいだ。
学校に取りに行こうかと思ったが、少し迷った。
まだ明るいとはいえ、もう夕方の6時を過ぎていたからだ。
気が進まない理由はもう一つあり、今まで何度か忘れたことがあって、また先生に怒られるのが嫌なのだ。
「どうしよ……」
少し悩んだが、これ以上悩んでいたら時間が過ぎていくだけなので、取りに行くことに決めた。
家族に、学校に忘れ物をしたから取りに行ってくると告げ、家を出た。
学校までは歩いて10分ほどの距離なので反対はされなかった。
そして、外に出て1分ほど歩いた時に違和感を持った。
辺りを見回してみても人っ子一人見当たらないのだ。
この辺りは、住宅街なので帰宅途中の人が多くいるはずなのに、全く見当たらない。
「……おかしい」
人だけでなく自動車もまったく通らない、ここが大通りから外れているとはいえ、こんなことは考えられない。
ありえない現状に気が付き、背筋がゾクッっとして帰りたい気持ちになったが、宿題を忘れて先生に怒られる事を思うと、帰るに帰れなかった。
怖い気持ちを誤魔化すためにも、早く変えるためにも、走っていくことにした。
はぁはぁ、と息を切らしながら3分ほどで学校までたどり着いた。
しかし、学校の前で愕然とした。
普段ならこの時間帯には校門が閉まっているが、教職員用のは開いているはずなのだ。
今日に限って閉まっていて、入ることが出来ない。
以前に忘れたときは、教職員用の校門を通って取りに行ったので、今回も開いていると思っていたのだ。
どうしようかと少し悩んだが、正門付近に登って入れる場所があるので、そこから入ることにした。
しかし、正門まで来てみると、人一人分が通れるくらい開いていた。
「開いてるじゃん」
教職員用が閉まってたのは、正門が開いていたからか、と納得をして正門から普通に入ることにした。
でも、誰かに見つかりたくはないと思っていたので、慎重に辺りを見渡しながら入った。
ここも道中と同じで人がいる気配がしなかったので、ツイているという気持ちと、怖い気持ちが入り混じっていた。
次は校内に入るために開いている窓を探さないといけないと考えていたが、正門が開いていたなら玄関も開いているかも、と考えて向かってみると、開いていた。
もしかしたら大人たちの集まりがあって開いているのかなと思い、とりあえず納得した。
玄関で靴を脱ぎ、靴下のまま教室へ向かう事にした。
上履きだと音が大きいので、一応気が付かれないためだ。
耳を澄ませながら辺りに誰もいないことを確認しながら階段へ移動した。
今まで誰とも出会わなかったので、誰か居てほしいとも思いながら周囲を警戒しているが、まったく人気が感じられない。
改めて人がいないことが身に染みてしまって、更に怖さが増していった。
日が傾いてきているので、校内も薄暗くて怖い、いつもは学校に誰かがいるし、これだけ静かな時はほとんどないのだ。
それに、ほんの小さな音でも響いて、他の音が何一つ聞こえないので、怖くて怖くてたまらなくなってくる。
小さく、自分の足音だけが響き、怖さで足が重たくなってくる。
このままでは進むのも遅くなるので、意を決して階段を1段飛ばしで上っていき、自分の教室がある4階までたどり着いた。
しかし、恐怖で忘れていたが、教室にも鍵が掛かっていることを思い出した。
前回も同じことがあってその時は先生に鍵を借りに行ったのだ。
ここまで来るのも怖くて怖くてたまらなかったのに、ここから2階の教職員室まで行って、教室に戻ってくる事はしたくなかったので、一縷の思いを託し、扉を開けてみることにした。
もし、教職員室まで行って誰もいなかった事を考えても行きたくはなかったのだ。
そして、扉に手をかけ動かしてみると、
ガラガラガラッ
と、扉があいたのだ。
「やった、開いてる」
と思ったが、開いていることに疑問を感じた。
だが、開いているなら後は宿題を持って帰るだけなので、宿題の事だけを考えた。
一歩足を踏み入れると今まで感じたことが無いくらい背筋がゾクゾクッとした。
それだけじゃなく、教室の隅の方で何かが動いた気がした。
「だっ、だれかいるの?」
問いかけてみても何も返事がない。
よくよく見渡してみると誰もいない、きっと恐怖で何かがいると勘違いしただけだと思い、宿題の事だけ考えた。
しかし、恐怖で体が震えてきて一歩が踏み出せない。
このまま怖い思いをするのも嫌だ、早く帰りたい、と思い、決死の思いで一歩を踏み出した。
宿題を机から取り出して、持って帰る、その事だけ考え、自分の机まで進んだ。
机の中を探してみると、宿題のプリントが入ってあった。
プリントを手にし、よし、これで帰れると思い、教室を出ようと振り返ると、左腕を誰かに掴まれる感触がした。
「えっ……」
ハッ、ハッ、ハッ、っと恐怖で呼吸が乱れた。
誰もいないはず、これは気のせい、気のせいだ、と強く思い振り返ると、
「あ……」
よくわからない黒くてモヤモヤっとした何かが一瞬見えた所で意識を失った。
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「ちょっとゾクッとしたー、意識を失った所で目が覚めたの?」
「うん、そうなんだけど、まだちょっと続きがあるんだ」
「え? 何? 夢の中の話じゃないの?」
夢の中の話だが、起きてからもう少しだけ続いているのだ。
「うん、夢の話だけど、起きてからちょっとした事があったんだ」
「なになに? なにがあったの」
「起きたらね、汗びっしょりになっていて、夢だったかー、ってすぐ気が付いたんだ」
「起きてからすぐわかったの? リアルな感じなら少し時間がかかると思ったけど」
「その時に時計を見たらちょうど6時になった所だったから気が付いたんだ、でもすごくリアルに感じていたからちょっと震えてたよ」
今まで味わったことが無かったから落ち着くまで少し時間がかかった。
「でもこれ以上続きあるの?」
「えっとね、起きて時間を確認した時に腕に違和感があってね」
「最後のところで掴まれたっていうやつか」
「そう、それで左腕を見てみたら黒い手形があったんだ」
「え?うそでしょ、まだ夢の中だったんじゃないの」
「いや、起きてたよ、でもね、一回怖くなって目線を外してからもう一度見たら、無かったんだ」
「それじゃあ見間違いってこと?」
「たぶん見間違いだとは思うけど、本当にあったと思うくらいはっきりと見てたから混乱してた」
見間違いだったらそれでいいのだが、リアルに感じる夢だったので、否定しきれない所があるのだ。
「まぁ、一瞬見ただけなら、見間違いっていうか思い込みでそう見えたのかもね」
「なのかなぁ、でも、見間違いだとはホント思えないんだよ」
「ねぇ、その手形があったっていうのは左腕のどこら辺?」
「えっと、左の二の腕の真ん中辺りかな」
「そこかー、……ね、それ自分でつけたの?」
少し黙ってから言ってきたので、驚かすために言ったのだと思い、
「何が? 驚かそうと思ってもそんなのに引っ掛からないよ」
「いや、ほんとに、左の腕に黒いのが少し見えてるんだけど」
二の腕が少し隠れるくらいのTシャツを着ていたので、全体は見えないのだ。
「うそ、そんなのないでしょ、めくってみるよ」
スッと袖をめくってみると、友人が言ったように黒い何かが見えてきた。
「ほら! その黒いの、手形じゃん、お、おどろかす為に付けたんでしょ」
「いやいや、つ、つけてないよ、こんなの、今日話そうとも思ってなかったし」
「え? てことは、ほん……もの……?」
読んでくださりありがとうございました。
書いていて自分の語彙力の低さを痛感したと共に、色々考えながら書くという楽しさを実感しました。
今回は、ホラーを書いてみたのですが、難しいですね。
怖さ、という物を文字でどうやって表現するか、という難しさを理解しました。
今回の物はあんまり怖いものではないので、怖いものを書ける人はホントにすごいんだなと自分で書く事で実感できますね。
他にも気になったことがあって、字下げはした方がいいのでしょうか? ネット上だとブログ記事の様な書き方の方が良いのかな、と思って空白多めでやってみたのですが、どんな風に書いたら読みやすいのか悩ましいです。
それと、最後のオチのところですが、この先どうなったかは想像に任せる感じにしてます!