蛇つかいとアントヘル
朝を迎えた。
昨晩の寒さは消え、じりじりと温度が上がっていく。
気温は四十度に迫る勢い。
遅刻!
遅刻じゃ!
誰も起こさないで全く!
とっくに太陽が上がり出発の予定が狂ってしまった。
なぜ誰も起きん? サンチャゴ。
いやー旅の疲れですかね。
顧問はどうじゃ。
私は目覚ましがないとどうにも。
蓮!
うるさいわね! あんたが一番年寄りなんだから責任は文豪。
儂は起こされるまで寝ているタイプじゃ。年寄りでもない。
あら、ごめんなさい。てっきり早起きかと思って。
サマーマンはだいぶ前に目を覚ましていたが余計な事はしないし言わない。
何を言い争っている。急いで荷物をまとめろ! 今日は絶対にトレインに乗るんだ!
顧問の檄が飛ぶ。
急いで出発。
ラクダを走らせる。
早朝一発目にチャグロトグロが現れた。
気を付けろ。触ると大変だ。距離を取れ。
顧問! どうすれば?
モンスターは独特の臭いを放つ。
嗅ぐな! 悪臭が神経を弱らせるぞ。
ダメです。顧問。もう耐えられません。
ホセ君。堪えてくれ。
サマーマンが発散。
ウォーターを使用
綺麗に流された。
チャグロトグロは次々に現れた。
発散!
あらかた綺麗に流された。
サマーマンはレベルアップした。
蓮とホセもレベルアップ。
文豪はもう少し。
旅に戻る。
砂漠を下っていく。
幽かに何かが見えて来た。
幻?
間もなく砂漠も抜ける。
暑い!
文豪は手で庇を作り太陽から逃れようと無駄な努力をする。
隣には勢いよく水筒を傾ける蓮が涼しそうな顔で笑っている。
暑いわね!
その時いきなりラクダの歩みが止まった。
蓮は水を零してしまう。
ちょっと何なのよ?
前のラクダも動きを止めていた。
前方で異変があったようだ。
ラクダはこれ以上動こうとはしない。
仕方なく降りる五人。
ははっは! よくここまでたどり着いたな。
蛇つかいの爺さんが声と共に現れた。
お主は何者じゃ?
儂は蛇つかい。魔王様の僕。このままここを引き返すがよい!
あら、本当のお爺ちゃん。地元の方?
止めぬか。蓮! こ奴は相当な力の持ち主。怒らせてはいかん。
大丈夫よ! ちょっと聞くけど駅はこちらでよろしいのかしら?
無礼な奴め! 儂らの力を見せてやる。
そう言うと懐から笛を出し、奇妙な音色を奏でる。
皆は唖然とし見守るしかない。
あのね、お爺ちゃん。熟練の芸を見せてくれるのはうれしけど今は忙し……
蓮やめろ! 危険だ。下がれ!
もう文豪も心配性ね。他の人も何か言ったらどうなの。
誰も反応できない。かつてない危機に固まる。
砂から無数の蛇が現れた。
マズい! こっちへ。
もう、顧問まで。たかが蛇じゃない。
冷静な蓮。気持ち悪い以外は別段害はなさそうだが……
ホセが顔を引きつらせる。
蛇! 蛇だけはダメなんだ。見ているだけで吐き気がする。
あら、ニョロニョロしていて可愛いじゃない。
文豪は蓮を無理矢理引っ張っていく。
前方が蛇一色。右からも湧いてきた。
後ずさりするしかない。
蛇つかいが演奏を終える。
どうじゃ。蛇に囲まれる感想は?
いつの間にか後方からも蛇が湧いてきた。
絶体絶命のピンチ。
顧問は様子を窺う。
サマーマンが発散の体制をとった。
文豪はラクダを見る。
はっはは ほっほほ
変な気を起こすなよ。この蛇はなサウスコブラと言って毒もある個体。
もし攻撃するなら覚悟がいるぞ。罰金は払えるか? ほっほほほ。
ふん。それがどうしたと言うんじゃ。
マズいですよ。文豪君。もし罰金が所持金を上回れば即、魔王の里へ強制転生させられてしまう。
うん? そんな話初耳じゃが。
最初に貰ったパンフレットに書いてあったでしょ。文豪。忘れちゃったの?
知らん! 忘れてもいなければ覚えてもいないわ。そんな細かい事。
急いで皆! 蛇が! 蛇が!
よし、仕方ありませんね。三方が塞がれているならもう一つしかないでしょう。
顧問の合図で左に走り出す。
あの…… ちょっと…… 罠……
サマーマンは止めるだけの力を持ち合わせていない。
蛇つかいは笑いをかみ殺している。
馬鹿め! ひっかりおったわ。
走った方に巨大な罠が仕掛けられていた。
その罠に一番に到着したのは一番若く一番前にいた蓮であった。
砂が崩れていく。
巨大な円形が姿を現した。
きゃあー 文豪。助けて!
顧問は罠の直前でストップ。寸前のところで助かった。
文豪はホセを抱えていたため危険を回避した。
ほっほほほ これは可哀想な事をした。お嬢さんが犠牲ですか。
蛇つかいはゆっくり近づいてきた。
ここは巨大な蟻地獄。
主が口を開けて構えている。
ほっほほ。儂らは魔王の僕。お主ら勇者を足止めするために使わされた。
こいつ!
許さん!
勝負してやっても良いがまずは相棒の紹介から。
奴は魔王の僕。アントヘル。
グググ シャア シャ シャー ギュルルル
醜い化け物。奇怪の音を発し、蓮を待ち構えている。
ちくしょう!
蓮!
まあ、待て。お主らは不死身と聞いたが間違いないな?
そうだよ爺!
そうか。では安心しろ。彼女はやられることはない。飽きたら放置される。
そのうち解放されるだろう。それまで見守るんだな。はっはは ほっほほほ。
あの、お爺様。どれくらいかかりますかしら?
そうさなー 三日もあれば解放されるだろう。
笑いながら離れようとした蛇つかいに奇襲攻撃。
やっちゃいなさい。あんたたち!
文豪が切りかかる。
躱したところを顧問の両刀乱れ打ち。
反撃の暇を当てることなく発散。
蛇つかいは笛を口に当て意識を失う。
三十分もしないで目が覚める。
縄で縛られ息をするのもやっと。
息が! 息が! 苦しい!
おお、目覚めましたね。あなたにお聞きしたいことがあります。
何じゃ?
蟻地獄からの脱出法をお願いします。
無い!
急いでるんですよね。
顧問は冷静だ。その態度が蛇つかいを震えさせる。
なな…… 何…… 何だ?
早く! 脱出を!
分かった。取引だ。儂を助けたら教えてやる。
下僕なのに怖いですか?
うるさいわ! 自由だろ。どうする?
分かりました。ではそちらからお願いします。
顧問は交渉に慣れている。天性のものだろうか?
いいか、思いっきり深く潜るんだ。そうすれば抜ける。奴は体力がなくなったところを押さえつけ捕食しているのだ。
そうか。 蓮よ。 深く息を吸え!
蓮は堪えていた。
なるべく動かないように体力を消耗しないように。
しかしそれも限界に近い。足を踏ん張っただけで周りの砂が大量に持っていかれる。そのままの姿勢を取るのもキープするのに体力が必要。
醜い化け物が捕食しようと待ち構えている。プレッシャーが半端なく汗もひどくなっていく。確かにさほど化け物と距離は近くないが見た目以上に縮まっていると錯覚させられる。
早く! もうダメ!
深く息を吸え! そして深く潜れ!
そんなの無理! 他に方法はないの?
おい、他に方法は?
無い!
ありますね?
顧問は蛇つかいの変化を見逃さない。
あるにはあるのじゃが…… しかし……
早く! 頼みますよ。
簡単だ。ロープで体を固定し思いっきり引き上げる。
それよ。それ。 誰か早く! お願い!
顧問は蛇つかいをじっと見る。他に隠していることは?
ありゃせん。
もう一度聞きます。隠してる事は?
視線をそらさない。
蛇つかいは耐えられなくなった。
分かったよ。儂の負けじゃ。奴はな捕食を邪魔する者を許さない。
この状況ではロープを使っても上手くいくことはない。奴の機嫌を損ねありとあらゆるものを無差別に食らい尽くすだろう。
恐ろし……
だから他に手はないと言ったろ。
分かりました。餌があればいい。そうすれば文句はなく助けられる。代わりの餌。
どうしましょう。蛇を捕まえてはまた罰金です。仕方ありませんね。
顧問はホセと文豪に指示する。
止めろ! 止めてくれ!
他に方法がないんです。上手く逃げてくださいね。
そう言って拘束を解き穴の方へ引きずっていく。
止めろ! 頼む! 儂が悪か……
蛇つかいをアントヘル目がけて放る。
何かを発する間もなくアントヘルによって食い尽くされる。
ガリガリ ゴー ギャアー ゴリゴリ
骨が砕かれる音が耳に残る。
今だ!
顧問の指示のもと蓮にロープをかけ結び目がほどけないようにきつく結ぶ。
よし、行くぞ!
全員で引っ張り上げる。
綱引きはなかなか勝敗が決さず、焦りが見えてきたがその横で捕食を完了し動きが鈍くなっているアントヘルは今にも眠りにつきそうだ。
さあもう少し! 文豪も頑張れ! ホセは気合いを入れていけ!
おう!
掛け声で一致団結する。
そして次の瞬間砂に埋もれていた蓮の美しい肢体が姿を現した。
勝利の瞬間。
綱引きに勝ち、
駆け引きにも勝利した。
蓮はようやく帰還した。
アドハーツの勝利。
顧問がレベルアップ
文豪がレベルアップ
蓮とホセもレベル5となった。
食事を終え弛緩しているアントヘルにサマーマンが発散。
一撃では倒せなかったものの顧問のサポートを受けアントヘルを消滅させた。
サマーマンはレベルアップ
顧問もレベルアップ
巨大な円形の穴も消滅。
いつの間にか砂漠には文豪たち以外は蛇しか見当たらなくなった。
続く