船酔いでダウン
港町にて
空気が気持ちい!
のどかな港町。
遠くの方で汽笛が鳴る。
潮風が心地よい。
火照ったからだを冷ましてくれる。
口を開けていると塩辛く市場では魚臭さに鼻がやられる。
顧問に火が付き、ことあるごとに皆を叱責する。
そのため空気が悪くなる。
顧問!
何だ?
出発です!
そうかい。みんな準備は整ったかな?
ハイ以外答えようがない。
ホセは新しい地図を購入する。
蓮は化粧に念がない。
文豪はお楽しみの恋人探しの時間がなかった。
光の戦士は依然無口。
アクシデント発生
戦利品の小熊四頭を怪しげなショップで高く売りつけようとしたところ役人に見つかり没収。大損である。
この地域。サウスエンドと付近の村では猛獣は神聖なものとされ狩ることを禁じられている。これを守らないものは罰金。没収。悪質なものは牢屋へ。もっと悪質なものは魔王の里へ強制転送となる。
アドハーツの面々はこのことを知らずに退治してしまったので罰金と没収に厳重注意。大きくゲインを減らしてしまった。
文豪の荷物を最後に船は港を出る。
観光客が数人こちらに話しかけてきた。
おたくらも観光?
いや、魔王退治じゃ。
そうですか。それはご苦労さん。それはそうとあんたらも大変だったね。
ああ、見てたんですか?
この辺じゃ猛獣も偉くなったもんだよ。
どうすればいいのかのう?
それは耐える事。我慢が必要になってくるよ。
儂は我慢できん!
まあ、そう言うな。ここはまだいい。猛獣以外は襲ってこないのだから。
観光にはもってこいですな。
そうだろ。君たちも安心して旅を続けたいだろう?
文豪は合いの手を入れる。
大した情報がないと判断して別グループに移る。
初めまして。私たちはセンターポールまで行くんです。
若い女性三人組。文豪のタイプは左の金髪美女。
文豪はティンを召喚する。
声を小さくして尋ねる。
もう前回と同じよ。いちいち呼び出さないで!
前回の記憶があやふやでのう。
だから意中の女性を見つけたら花を贈って告白すればいいの。分かった?
よし承知した。
文豪は興奮し、花の準備を始める。
ああ言い忘れた。もし十人集めるとコンプリート。これは前回から継続よ。
そうすると儂はどうじゃろう。
コンプリートね。これ以上は無駄。諦めて。
しかし……
ダメなものはダメ。
文豪の生きがいが奪われていく。
しょんぼりした文豪は立ち直れるのか?
あなたには夏がいるでしょう。
夏。それは私の夏。しかし今は秋じゃが。
文豪復活ならず。
厳しい異世界の掟に翻弄される文豪に春はいや夏は来るのか?
あのあなた方はどちらへ。
お嬢さんたち。私は当てもなく世界を旅するさすらいの異邦人さ。
ホセが割り込んでくる。
どうやら狙いは文豪と同じ金髪美女。
ホセ君。私ではなく私達と言わなくては。団体行動の最中ですよ。
顧問が細かい指摘をする。
初めまして。私たちは魔王討伐の為に編成された部隊。
隊長の顧問です。情報があれば有難いのですが。
魔王ですか? 知ってる?
知らない! 知らない!
御免なさい。私達ではお役に立ちませんわ。
真ん中の子が代表して話をまとめる。
ウェストエンドに行ってみてはいかが? あの辺りでは魔物が頻繁に出没すると噂よ。
ウェストエンドっと。
文豪はメモを取る。
それからそれから?
おえー 気持ちが悪い。
儂は船が大の苦手じゃった。
おえー もうダメじゃ。
文豪は一旦船室へ。
船長から薬をもらい大人しくベットの上でいびきをかく。
文豪は夢を見ていた。
懐かしきあのころの夢。
夏! 夏!
場面が変わる。
文豪の妄想と願望の館。
館には九人の女性が文豪を囲んでいた。
お帰りなさい。ご主人様。
メイドや家政婦が上着を脱がす。
おにーちゃん。待ってたよ。
二人の姉妹が抱き着いてくる。
下着姿でだらしない。
二人は喧嘩を始めた。
止めませんか!
奥方が一喝。こちらに振り返り微笑む。
疲れたでしょう?
妃が料理の準備を始める。
そこに奥方が割って入り。威圧する。
もう暑くありません?
第一夫人が暖炉の火を消す。
いえ丁度いいわ。
第二夫人が抱き着く。
ちょっと寒いよ! おば様たち。
姉妹が引っ付く。
危ないです。旦那様!
くノ一が他の者を剥がし護衛する。
ちょっとあんた!
取っ組み合いの喧嘩に発展。
儂はもう満足じゃ。
後は夏が…… 夏がおればのう。
夏! 夏!
館を抜け、密林へ。
夏! 夏!
夏?
誰じゃ?
夢が覚める。
蓮が側で心配そうにこちらを窺っている。
おう、蓮か? もうすっかりよいわ。心配かけたな。
船酔いで何言ってるのよ。それに私は順番で様子を見に来ただけ。さっき来たばかりよ。
ほー。
サマーマンが看てたわ。
おえー。
どうしたの?
何たることか! 儂は男は好かん!
それだけ元気ならもう大丈夫ね。さあ行きましょう。まもなく目的地よ。
蓮! 儂の話を聞け!
蓮は出て行った。文豪は独りぼっちは嫌なのでティンを呼びつける。
度々、何なの? ゆっくりできないでしょう。
虫よ! 儂は変な夢を見た。
どんな夢?
九人もの女性に囲まれて幸せな気分であった。
はいはい。それはコンプリートの特典よ。
しかし九人じゃぞ。
あら、一人足りないわね。
どういう事じゃ?
知らないわよ。一人はガラスの靴を落としたとか。
答えになっておらん!
うるさいわねえ。私にも分からないことがあるのよ。
ふん、虫めが! 何を隠して居る。
隠してないわ。あと一人がどうしたかなんて知ったこっちゃないわ!
文豪は大人しくなった。
名前は覚えてるの?
いや、それが今まで覚えていたのに全く思い出せない。
それは辛いわね。あなたは気にし過ぎよ。
そうじゃろうか。
季節はいつが好き?
春じゃろ。出会いと別れの季節。文豪たるもの……。
長くなりそうなので服の中へ。
待て! 儂の話を聞け!
プーーーーーーーーーーーーーーーーー
船が到着した。
第一章 完
文豪 レベル36
十七日経過
顧問 レベル71
残り 15日
続く