消えたネズミ
三号車探索
三号車も基本的な部分は変わらない。
ただ幾分ゆったりしていて快適ではありそうだ。
暗いので詳しくは分からないが上質な素材で出来ているのだろう。
もう皆、疲れ果てたのか話し声は無く、盛大な鼾をかくマハラジャの横をほふく前進で通り過ぎる。
文豪! 痛い!
済まん済まん。
早くしてください。先がつっかえてる。
シ! 静かにしてください皆さん。ここの方が起きてしまう。
ギャア―!
もう! 文豪! 静かに!
しかしあのぶよぶよした男と目が合ってしまった。
何してるんですか? 文豪さん早く!
一応蓮の案件にも注意を配り、暗いながら抜け道を探す。
ちょっと! 何してるの? 触らないで!
儂ではないわ!
すいません。私です。手が滑ってしまい。暗いせいか申し訳ない。
顧問! 何てことするんですか! ほんとにもう!
何もホセ君が怒ることないだろ。
ちょっと皆さん! 聞こえてしまいます。声を細めて。
サマーマンが注意する。
久しぶりの発声であった。
うん?
文豪は違和感を覚える。
まるで女性ではないか?
サマーマンはようやく馴染んできたようだ。
四号車へ
ふうー、何とか辿り着いたわね。
うむ。
貨物室を調べる。
特に変わったところはない。
多くの荷物がここに保管されている。
そのほとんどが野菜や果物などの食物。
豚肉や鶏肉の加工品が少々。
皿や食器、茶碗などの伝統工芸品。
服や靴もあった。
センターポールのマーケットに並ぶ品々。
顧問。特に問題ありません。
よし分かった。次に行こう。
五号車も荷物が乱雑に置かれているだけで目新しいものはなさそうだ。
切り上げるか。それで蓮君は何か手がかりでも?
いえ、まだ今のところ。
おい、これは何じゃ?
大きな袋。
数匹の死骸が入っていた。
うわあー。
間違えて混入してしまったんでしょうか?
顧問! たぶんこれは剥製です。
暗くて見えないが小動物の剥製。
しかしなぜなのか。
保護動物の密売。
ただ狩るだけでも罰せられるのに剥製にして高く売りつけるとは全く信じられない。
これがここの見られてはいけない秘密でしょうか?
まあそうだろうね。まさか乗務員が知らない訳がない。日常的にやっていると見ていいだろう。
文豪そっちの大きい袋も開けてみて!
ふん、気が乗らんがよかろう。
グダグダと文句を言いながら封を解く。
小動物か? 死骸?
二本足で立っているネズミのようなモンスターが三体現れた。
お化けネズミ。
巨大なネズミは目を光らせ口から発せられる不気味で不快な音で威嚇する。
文豪はあっと言う間にのされてしまう。
気を付けてください。その音が脳を刺激しているようだ。急がねばこちらがおかしくなってしまう。
しかし顧問。どうすれば?
まずはサマーマン。お願いします。
発散!
だめだ効かない。
まずい! 囲まれた。
ネズミはゆっくりゆっくり駆け回る。そして徐々に間合いを詰めていく。
そうだ! 餌は? おなかが空いてるかも。
マハラジャの食べ残しを失敬。
鳥の丸焼きとパンである。
蓮は景気よくそれらを投げつける。
ネズミちゃん。御飯ですよ?
キキ?
二匹が反応。
残飯に我先にとかぶりつく。
今だ!
顧問は隙だらけのネズミ二匹を仕留める。
顧問!
大丈夫だ。こいつらは正真正銘のモンスターだ。
こんな動物は居ないさ。
ああ、ちょっと。
一匹が逃走を図る。
待て!
逃がさないわよ!
ちくしょう! 暗くてよくわからない。
ホセ君。気を付けてくれ。素早い上に知能が高い。何を仕掛けてくるかわからない。慎重に慎重に追い詰めるんだ。
居た! 六号車の方よ。
サマーマンは文豪を起こす。
むむ。不覚!
文豪は立ち上がった。
復活!
ネズミめ。大人しくせい!
角に追い詰めた。
よし、儂に続け!
ものすごい音が列車内を駆け巡った。
何事じゃ?
キキキ
トレインがスピードを減速させた。
もう間もなくセンターポールに到着する。
文豪たちは堪えきれずに横へ前へ後ろへと転倒。
ネズミはその隙に六号車に消えていった。
追いかけますよ!
文豪は態勢を立て直しドアの前へ。
ドアはびくともしない。
もう何なのよ! 文豪開いた?
蓮は一方で足をさすり、もう一方で頭を押さえる。
血は出ていないが頭をぶつけた。顧問との衝突。
痛いですねえ。それに石頭だ。
ダメじゃ! 鍵が掛かっている。
壊して文豪!
ダメです! 修理代が払えません。
ああ、文豪さん!
文豪暴走。
強引にこじ開ける。
知-らない。
マズいですよ。文豪さん。
ふん。過ぎたこと。
六号車に足を踏み入れた。
シャンデリアの光が出迎えた。
広い空間にはそれ以外見当たらない。
イスや机一つない。
もちろん荷物が置かれていることもない。
無である。
眩しい光を放つシャンデリア。
まるでパーティでも行われるかのようである。
遠くの方に見える扉は車掌室に繋がっている。
プシュー
駅に到着した。
ネズミはどこへ消えた?
疑問は消えないまま。
急ぎますよ。怪しまれては敵わない。
ネズミはどうしたんでしょう。顧問?
分かりません。。今はここを一刻も離れる事です。
文豪が壊したからー。
蓮がやれと。
とにかく今は降りなくては。
センターポール到着午後十一時過ぎ。
約五時間の遅れであった。
もう間もなく明日となる。
続く