探索開始
霧のかかった世界。
ここはどこだろうか。
まさか魔王の里。
ふふふ。まさかそんなはず……
追い求める。
声をできる限り振り絞って。
誰か!
誰かおらぬか?
儂じゃ!
場面が切り替わる。
ご主人様。
あなた。
お兄ちゃん。
パパ。
暖炉に火が入れられ熱いくらいだ。
儂を慕う多くの女性。
何でも言う事を聞くに違いない。
儂は幸せか?
そうだろう。
誰もがうらやむ暮らし。
別荘で羽を伸ばす。
1,2,3、…… 9 中途半端だ。
あと一人居ると気持ちが落ち着く。
九人では足りない。あと一人。
誰かおらぬか。
誰か?
誰か居ただろう!
誰でもいい。
誰か!
こっちよ。
こっち?
外からお呼びがかかる。
寒い?
寒くない!
面倒だ。来てはくれぬか?
嫌よ!
儂はここを離れるわけにはいかない。
お願い!
どうしてもか?
ええ。
断る!
早く!
どうしようかの。
消えてしまう。
それは困る。
急いで!
いつの間にか密林の中。
暑い!
服を脱ぐ。
それでも汗が引かない。
いったい何度あるというんじゃ。
30度はとうに超え40度に迫ろうかという勢い。
暑い! 暑い!
冬ではないのか?
儂を困らせる日差し。太陽が活発だ。
これではまるで……
まるで? 何?
まるで夏ではないか!
声が姿を現した。
嬉しい!
夏?
夏なのか?
ええ、あなたの中の大切な思い出。
夏よ! 会いたかったぞ!
ご…… ごめんなさい。
儂のせいじゃ。
ごめんなさい。
夏!
ゴトン ガタン
やかましい音が文豪を覚醒させる。
ここは何処じゃ?
儂は誰じゃ?
まさか魔王の里ではあるまいな!
まさか儂は……
文豪死せども自由は死せず!
もう! うるさい!
蓮か?
さっきから寝ぼけて。静かにしてよね。まったくもう!
あれ文豪さん。起きたんですか?
サンチャゴか? いったいどうなっている?
えっと、もうトレインの中です。あと2時間でセンターポールに着きます。
文豪君。起きて早々騒がしいな君も。
バーさんは?
その事なら大丈夫。薬草も無事届けられ、後は孫娘の様子とポスト探しです。
顧問。儂はなぜこのような無様な事に?
サマーマンにでも聞いてくれ。
サマーマン?
隣で息をひそめている。
一撃だったのよ。文豪! 本当に何も覚えてないの? 責任を感じて看病してる訳。ありがたく思いなさい!
サマーマンが? 儂はお前の看病を受けたかったわ。
ふふふ。ありがとう。でもそんなこと言っていいの?
思わせぶりの蓮。困惑する文豪。
見守る顧問。何も言えないサマーマン。
どういうことでしょう?
何も理解できないホセ。
ああ、そうだ。面白い話聞いちゃった。
蓮は待っている間乗客からいろいろな話を仕入れて来たらしい。
自分もあります。
私だってありますよ。では順番に。
私ね。このトレインのどこかに他のトレインとつながる秘密の抜け道があるって酔っぱらいのおじさん連中が話してたのを聞いちゃった。
それは興味深いですね。
うむ。
そんなのほら話に決まってますよ。
私が嘘を言ってるっていうの?
だっておかしいじゃないですか。抜け道。抜け道ですよ。何万キロ離れていると思っているんですか。
うむ。
常識的にはホセ君であろうがここは何と言っても異世界。不可能ではないはずだ。
次は自分です。これは乗務員に聞いたんで確かです。
ホセは蓮を見る。
蓮は睨んでいる。
一号車が一般の観光客。
二号車が自分たちのように回数券などのお得意さん。
三号車がマハラジャや国王クラスの要人。
四、五号車が貨物室。
そして六号車がなんと……
サンチャゴよ。焦らすでない!
早くお願いします。
私の方が凄いじゃない!
ホセは思いっきりためて皆の表情を見る。
分かりません。どうやら誰も知らないようです。ベールに包まれている。
面白いでしょ? 自分たちでこの謎を解くのもありかなと思いまして。
うむ。
さっきから文豪はうむうむしか言ってないじゃない。やる気あるの?
うむ。
文豪!
まあいいじゃないか。私もホセ君の意見に賛成だな。まさか五号車までしかないなんてオチじゃないだろうね。
そんな事はありません。外から見ればわかります。絶対に六号車まであります。
分かった。よし、さっそく探検だ。
もー。
蓮は不服そうである。
顧問は敏感に察知し付け加える。
もし、蓮君の話も事実ならついでにその通り穴なるものも探せばいいさ。
ついでですか? 顧問!
さあ行こう皆。因みに私の情報では夜になると出るそうだ。何がとは言わんがね。
私そういうの苦手。冗談は文豪だけで充分よ。
うむ。
置いていかないで!
ホセは準備に手間取ってしまい最後尾へ。
足が震えている。
サンチャゴよ。情けないぞ!
だって…… もうすぐ……
顧問を先頭にサマーマン、蓮、文豪、ホセの順。
時刻は九時を過ぎた。
辺りは真っ暗で、窓からの景色も楽しめない。
他の乗客は各自で夕飯を済ませ、あとは寝るぐらいしかやることはない。
結局、倒木の影響で五時間以上も遅れてしまった。
当初、七時にはセンターポールに到着するはずだった。だがこれでは今日中に着くかが心配になってくる。
車内も暗い。
明かりは蝋燭とトレインが放つ光ぐらいで大変心もとない。
懐中電灯を各自持ち準備万端。
三号車に突撃。
ここは立ち入り禁止です。あなた方は二号車にお戻りください。
乗務員が制する。
失礼な。こちらはあの有名な文豪様で在らされますぞ。
ははあ! これは大変申し訳ない。それでは乗車券を拝見いたします。
なんと失礼な! 文豪様でございますよ。
どなた様でも提示してもらわないと困ります。
何! 儂を信用できんと申すか?
滅相もございません。ただこれは決まりでして。
ごねる文豪と困惑する乗務員。
押し問答は続く。
あのー、三号車には大変位の高いセレブが乗っておられまして簡単に通すわけにはいきません。証拠を見せていただかないと。
文豪は顧問に相談する。
面倒くさいのう。ここは実力行使で。
待ってください。これ以上モンスター以外の者に手をだせばゲームオーバーです。
証拠ならあるじゃない。
蓮よ、ハッタリはよさぬか。
まあ、見てなさいって。
これを見たことあるかしら?
蓮は指輪とネックレスを見せる。
何キャラットもあるダイヤ。
これが証拠よ。私の主人からもらったものよ。この文豪は主人のお友達。
それ以外の者は使用人よ。ではごきげんよう。
蓮の見せたダイヤをまじまじと見、それが大変高価であると確信すると態度を変え立ち入りを許可した。
おかしいなあ。三号車には一組のマハラジャ以外乗っていなかったはずだが。
そのお連れであれば私が気づかないはずがないのだがなあー。
不思議そうに首を捻る。
続く