トラブル発生
蓮編
まったく文豪ったら。もう……
三号車へ向かう。
ドアがひとりでに開いた。
目の前に帽子を目深に被った乗務員らしき人物が見えた。
すいません。ここは通り抜けできません。
あなたは二号車の方ですか?
席にお戻りください。
蓮は頷くも納得が行かない。
あのー。
乗車券を拝見します。
失礼。
蓮は逃げ帰った。
怪しげな男。身に危険を感じたため引き返したのだ。
サマーマン編
もう頭来ちゃう!
どう?
そう思うでしょう。
ねえ。
仕方なく頷く。
一方的に話しかける蓮に何とか返すサマーマン。
何とか笑い、何とか言葉を絞り出す。
ねえ、聞いてる?
頷く。笑顔を作る。
しかし相手には仮面の下の変化が分かるだろうか?
サマーマン!
頷く。笑顔で返す。
それをひたすら続ける。
ねえー、文豪!
文豪? どこかで?
ああ! また文豪を見てた。
仮面の中で赤くなる。
別にいいではないだろうか。私は男と認識されているのだから。
男? 女?
そんなことはどうでも良い。
要はこの世界を上手く終わらせて元の世界に戻る。
それが一番である。
文豪と私……
たとえ過去にどのような因縁があったとしてもそれはそれと乗り越えていくべきだろう。
ねえ、 サマーマン! 聞いている?
頷く。
文豪を見ないの!
笑顔でごまかす。
蓮。君はどうしたいんだ。
彼女だけは私が女であることに気付いた。
黙っていてくれるのはありがたいがそれが善意から来るのかそれとも何らかの企みである可能性もある。
慎重になる必要がある。
サマーマン?
笑う。
もう! 文豪!
文豪をからかいだす。
疑惑のサマーマン編 完
衝撃が走る。
その時ものすごい音がした。
アナウンスが流れた。
倒木により線路が塞がれてしまいました。
出発までしばらくお待ちください。
倒木の撤去作業が開始された。
ありゃー ダメだこりゃ。
客が降り始める。
一時間?
いや三時間はかかるさ。
こりゃあ今晩はここで寝泊まりだわな。
客は近くを散策したり大きな敷物をだしそこで宴会を始めたりと自由気ままにトラブルに対処する。
文豪たちも花畑の広がる大地を満喫する。
お腹が!
文豪は食べれる花がないか必死に探している。
止めてよ! 情けない!
しかしこう腹が減っては。
もう! 文豪ったら。
うん? 何かいい匂いがせんか?
またー。
ほれ、これじゃ。するじゃろ?
確かに。
顧問も同意する。
文豪さん。凄いですよ。何て嗅覚なんだ。
サンチャゴも分かってきたな。
花の臭いじゃないの? ほらいい香りがする。
蓮は鈍感じゃのう。
文豪は臭いの元を探る。
こっちじゃ。
文豪に続く。
あのー。
サマーマンが不審に思い止めようとするが誰も反応しない。
臭いの元は一軒の家に続いていた。
こんなところに家がぽつんと立っていた。
お邪魔しまーす。
いらっしゃい!
元気なばあさんが迎え入れてくれた。
どちらから?
おうそうかい。サウスエンドねえ。また止まったのかい。
まあ毎度のことだから。明日には出発できるさ。
おばあさんはこんなところに一人で住んでいるの?
お嬢ちゃん。さあ食べな。飲みな。
昔はねえ。お爺さんも孫娘もいたんだけどね。お爺さんは数年前に他界。
孫娘はセンターポールに一人暮らしさ。
それは大変ですね。
まあねえ。さああんたも食べな。顔色が良くないよ。
顧問は観光客相手に無欲を通したため誰よりも我慢を強いられた。
お爺さんはこんな感じ?
いや、お爺さんはもっと優しい人だったよ。
文豪はお爺さんと比べられた上に否定までされる始末。
こら! バーさん。儂の話を聞け! この文豪の話を聞け!
儂はまだ若い! そんな爺と一緒にするな!
文豪たちはお言葉に甘えてご馳走になることにした。
かぼちゃのアツアツのシチュとパン。それからハムにソーセージ。
レモンパイとお手製のマロンケーキ。
どうやら臭いの元はレモンパイとシチュが合わさった物だろう。
文豪はシチュをお代わりしパンをたらふく食べ蓮のパイまで奪っていった。
顧問とホセもお腹いっぱい食べた。
蓮も遠慮気味に腹を満たした。
サマーマンは口に合わなかったのか残してしまう。
そこをすかさず文豪がかすめ取る。
何はともあれ空腹によるイライラは収まり穏やかな面々。
ちょっといいかい。
ばあさんが語りだした。
あんた達にお願いがあるんだよ。三つほど。
まず……
続く